センタームーンを観よう・Part22021/05/06

20210526月食最大時、月が天頂に見える場所
★月はどこを見いているのか
測心秤動図を描くことでセンタームーンに近い日が推測できるようになりましたが、芋づる式に疑問が湧きます。例えば「測心秤動のグラフがぴったり原点を通るような場所を特定できないだろうか」とか「日本のなかでは、いつ、どれくらいの頻度でセンタームーンが見えるのか」等々…

月面において、例えば月面X地形がいつ見えるか?、〇〇クレーターの見頃は?、と言った「日照予報」なら、月食と同様に地球のどこで観察するかに関係なく計算できるため、予め結果をストックできます。当ブログ予報ページでも、計算結果をみなさんの地方に合わせて表示させているだけです。でも、測心秤動は計算過程で観察地情報が必要になるため、事前に計算できません。アルゴリズムを簡略にすることは可能ですが、最初から簡素化に逃げるのは良くないと思い、無い知恵を絞ってしばらく悩んでいました。

ある日ふと脱線思考で「月が天頂に見える場所はどこか」を考えていました。例えば今月の満月は皆既月食で、月食最大時は2021年5月26日20:18:42JST。このとき南半球ポリネシアの海上、南緯20°44′14.77″・西経170°16′00.19″では月がきっちり天頂に見えます(左上図/Stellariumでシミュレート/オレンジ線が地平座標目盛り)。さぞ絶景でしょうね。このような思考遊びを重ねるうちに「そもそも真の月面中心はどこを向いているのか?」と逆転の発想に至ったことが解決(のひとつ)に結びつきました。

地球のどこかで月面がセンタームーンになっているとき、真の月面中心に立っている人から見ると「地球が天頂付近に輝きながら自転している」はずです。球体としての月の中心と真の月面中心を通る直線を延長して地球と交わるならば、逆にその交点位置から月を見たら「完全なセンタームーン」になるでしょう。そして、月の公転運動や地球自転とともに交点位置は常に動くはず。実際の見かけの関係は光速が有限であるが故、単純に幾何学的に考えてはいけませんが、ともかくこの方法を発展させれば算出できそうです。


★完全なセンタームーンが見える場所
2021年・月面センターの方向
かくして出来上がったのが右の「パーフェクト・センタームーンマップ」。2021年の丸一年間、10分おきに真の月面中心が向いている位置を世界地図に落とし込んだもの。地球は回転楕円体とし、標高は考慮しません。黄色のドットが10分おきの位置、うち0:00・6:00・12:00・18:00JSTは日時ラベルをふりました。距離による光の到達遅延は考慮してあります。(※地球側からの観察が前提です。)

赤線は満月期を含む上弦から下弦までの月相、つまり見かけの月面中心に光があたっている期間、青線は新月を含む中央が光っていない期間です。(※光が当たっていれば、見かけの月面中心と真の月面中心が一致していることを撮影で確認できます。)この地図に載っていない日時は真の月面中心が地球を向いていないわけで、地球のどこから見ても完全なセンタームーンは見えません。過去何年か計算したけれど、2019年と2020年には一本もありません。前期最後に現れたのは2018年のクリスマスイブの晩からクリスマス朝に見えた月でした。

予想通り実に複雑な曲線群ですが、この地図が描けたおかげで完全なるセンタームーンが見える場所が特定できました。アジアからアフリカ経由で北アメリカに続く8月30日のラインのように、途中で赤線が青線になるケースもありますよ。各ルートがぶつ切れなのは、月出と月没のタイミングで月が見えたり見えなくなったりするため。地図に示したすべての緯度経度から月の測心秤動を再度検算したところ、計算誤差が大きくなる各ルート末端付近を除けば、経度秤動はプラスマイナス0.5″未満、緯度秤動は同10″未満に収まりました。パーフェクト・センタームーンと言っていいんじゃないかと考えられます。

記事PART1に載せたように、今月の満月はセンタームーンにかなり近いですが、日本では少しだけずれていましたね。右上地図を見ると5月26日のラインが北アメリカ東海岸からメキシコ湾にかけて伸びており、ここが完全なセンタームーン位置と分かります。ただしこの位置では皆既月食になる前に月が沈んでしまうのが残念…。月食とセンタームーンとは直接関係なく独立して起こりますから仕方ないですね。

2021年・月面センターの方向(日本付近)
日本からパーフェクト・センタームーンが見えるチャンスはあるでしょうか?あらためて、同じデータを使って日本付近を詳しく描いてみました(左地図)。こちらは1時間おきにラベルをふり、【 】内にその時の太陽黄経差を併記しました。太陽黄経差は新月が0°、上弦90°、満月180°、下弦270°を表します。日本域を横切る、または近くに差し掛かっているラインは8月16日、8月31日、9月27日、10月24日の4本。

8月31日のケースは下弦をわずかに過ぎているため、月面中心は影に入っているでしょう。(※それでもセンタームーンには違いありません。)ちょうど東北地方南部の福島県を0:00JST過ぎに通っていますから、試しに福島県庁位置(標高は0m固定)で0:05JSTの測心秤動を計算すると経度秤動=0.00088°、緯度秤動=-0.00456°と出ました。限りなくセンタームーンですね!。またこのとき、福島から1700km以上離れた沖縄県庁で計算すると経度秤動=0.10188°、緯度秤動=-0.07222°でした。目指す精度にもよるでしょうが、2000km程度離れても0.1°内外のずれで済むなら、ほぼ誰もずれは見抜けないでしょう。つまり「パーフェクト・センタームーンマップで予報ラインが日本近くの日時は、全国的なセンタームーン日和」と言って良いのではないでしょうか。個人的には秤動値がプラスマイナス0.5°以下ならセンタームーンの名に十分ふさわしいと考えています。


★今年末までの秤動図
二年に渡るセンタームーンの追求成果を二回シリーズでお届けしました。「正常な状態を知らなければ、異常を語ることはできない」という思いがあります。「ズレが右上だの左下だの言ってるけど、生まれてこの方、真っ直ぐな月面を見たことないじゃん!」というのが最初の動機でした。ぶっちゃけ、こんな細かいことを気にしなくてもセンタームーンは楽しめます。「今夜は月の向きが少し気になる」という意識を持っていただけるだけでも嬉しいのです。また、センタームーン当日のみ一回限りの“点観察”ではなく、そこに至る過程や、そこから変わりゆく過程も含めた“線観察”、“面観察”を心掛ければ、楽しさは倍増するでしょう。

最後に、今年5月から12月までの月別秤動図を掲載しておきます。前出地図と併せてご利用ください。12月には秤動のグラフが中心から離れ始めますのでシーズン終了ですね。秤動図からはセンタームーンの日時を類推できるだけでなく、記事末に緑文字で書いたようなことも推察できますよ。ぜひ有効活用してくださいね。なお、次のセンタームーンシーズンは2024年晩春から2025年晩冬にかけてですが、このときは回数も少なく、またいずれも中心が光っていない月相。向こう5年でセンタームーンが十分楽しめるのは今年のみと言って良いでしょう。特別すごいことが起きるわけでも、刺激的な楽しみがあるわけでも無いけれど、『特等席』で見る機会を知らずに見逃すのはもったいない!チャンスを活かすも殺すも皆さん次第ですよ!(→補足へ続く→Part1へ戻る

  • 2021年5月の月面秤動

    2021年5月
  • 2021年6月の月面秤動

    2021年6月
  • 2021年7月の月面秤動

    2021年7月
  • 2021年8月の月面秤動

    2021年8月


  • 2021年9月の月面秤動

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  • 2021年10月の月面秤動

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  • 2021年11月の月面秤動

    2021年11月
  • 2021年12月の月面秤動

    2021年12月


  • 自作プログラムによる計算で、ベースの暦表はNASA-JPLのDE421を使用しました。精密軌道計算で有名なHORIZONS-Webと高い精度で一致します。線やマークが重なって見辛いところもありますがご容赦を。
  • 表記時刻や距離は、国内で発行されている書籍や天文サイトのデータと異なる場合があります。どちらが間違いということでなく、採用してる計算体系の差ということです。
  • 月面の事象は一ヶ月に二回起きることがあります。例えば2021年7月を見ると下弦が二回起こりますね。ブルームーンやブラックムーンもその一例です。
  • 表記時刻はJSTです。各日区切りの小ドットは0:00JSTです。
  • 青系曲線のうち濃青色は月が空に見える時間帯、薄水色は沈んでる時間帯です。
  • 小ドットに注目してみると、上弦近くでは0:00JST前後に月没、下弦近くでは0:00JST近くに月出を迎えていることが分かります。日々少しずつ月の出入りが変化することも読み取れるでしょう。
  • 近地点(×マーク)や遠地点(+マーク)が月相マークに近いかどうかで、その月相が大きく見えるのか、小さいのかを判別できます。例えば×マークが満月に極めて近いなら「スーパームーン」になるでしょう。
  • 同様に、×マークが新月に極めて近いとき皆既日食が起こると「継続時間が長い皆既日食」になり、また+マークに近い新月での日食なら皆既にはならず、金環日食になります。
  • 北極側から地球を見ると観察者は自転で反時計回りに動くため、視線は月の右側(経度プラス側)から左側(同マイナス側)へ変化します。従って濃青色線も必ず経度が減る方向に変化することが読み取れます。
  • 目が肥えてくると、その他いろいろ細かいことにも気付けるでしょう。ぜひ解読してください。


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