宵空に顔を出し始めたネオワイズ彗星2020/07/14

202007・ネオワイズ彗星(C/2020 F3)の動き

当地・茨城はほとんど晴れないため、噂のネオワイズ彗星(C/2020 F3)をまだ一度も見ていません。そうこうしている内に、見頃の時間帯が明け方側から夕方へ移行しつつあるようです。どちらかと言ったら宵空のほうがまだ一般的な人の活動時間帯ですから、目に止まりやすいでしょう。「どうして宵空と明け方の空の両方に見えるのか?」「どの位置にある天体なら両方の空に見えるのか?」ということは、2017年1月17日記事「『彗星が見えない』ひとつの理由」や、2017年3月21日記事「今日の金星は○○の明星?」をお読みになると分かるでしょう。

この知識を踏まえた上で、今回のネオワイズ彗星を見てみましょう。上図は今月7月5日・15日・25日それぞれの彗星位置、太陽位置、および日出日没の地平位置を赤道座標で示したもの(ステラナビゲータ使用/彗星が目立つよう実際より明るくしています)。ただし実際は日出から日没までの間に太陽や彗星はほんの少し移動します。それを真っ当に描いたら線だらけでゴチャゴチャなってしまうため、半日程度の移動を無いものとして表現しましたのでご容赦ください。わたしたちは地面に対して太陽や天体が登ったり沈んだりするのを見ていますが、実際の空はあまり変化せず、反対に観察者(地球)が高速で回っています。この図では現実に即して恒星を止めており、太陽や彗星がゆっくり左方向(天の東方向)へ移動しています。またその間に地平を表す線は向かって左へどんどん移動しつつ、1日2回…日の出と日の入りに太陽付近を横切る、というルーティーンなのです。

緑線で描いた「日出の地平」から左側はまだ地面に隠れて見えない部分。時間とともに空へ上ります。また青線で描いた「日没の地平」から右側はもう地面に沈んでしまった部分。「日没の地平」より左の天体も時間とともに低くなりやがて沈みます。太陽に対して、両方の地平に挟まれた上側(北側)の逆三角形内にある天体は、太陽から十分離れていれば宵と明け方の両方見えることになるでしょう。上図から、ネオワイズ彗星がこの逆三角エリアに対して次のように移動することが分かりますね。

202007日の出60分前のネオワイズ彗星

ネットや書籍でよく見かけるファインダーチャートは上図のような「地平座標系」で描かれたもの。これだけで「なぜ今週は夕方と明け方の両方に見えるの?」という疑問に答えることは難しい。
    7月5日
  • 日出地平の右側  →  太陽より先に登る  →  明け方は見える
  • 日没地平の右側  →  太陽より先に沈む  →  夕方は見えない

  • 7月15日
  • 日出地平の右側  →  太陽より先に登る  →  明け方は見える
  • 日没地平の左側  →  太陽より後に沈む  →  夕方は見える

  • 7月25日
  • 日出地平の左側  →  太陽より後に登る  →  明け方は見えない
  • 日没地平の左側  →  太陽より後に沈む  →  夕方は見える



NEOWISE-lightcurve_20200714
現在ネオワイズ彗星は長い尾をなびかせ、1等前後で見えているとのこと。晴れていれば余裕で肉眼でも見えますね。素晴らしい姿を目の当たりにして「とても明るい」と印象を語ってしまう気持ちはよく分かりますが、いっぽうで実際の等級は少しずつ暗くなっています。

左図はCOBSデータを使って描いた光度観測プロットと予報曲線。最近の測定等級に大きなばらつきが見られるのは、同じ高さに同程度の等級の比較星がないことや、頭部や尾の広がりが気象条件でまちまちなことなどの理由からと思われます。ピーク時から2週間ほど経つので、ばらついていても減光しているのが分かりますね。

梅雨空続きで、私のようにまだ見てない方も多いでしょう。天文活動に熱心で、県外に遠星してでも見に行ける方はほんのひと握り。個人的にはこんな肉眼で直に感動を味わえる天体こそ、普段空に興味関心が無い大多数の方々に見ていただきたいのです。星はマニアだけのものではないのですから。