2022年の水平月シーズン到来です ― 2022/07/25
★水平月の時期が近づいてきた!
昨年の記事でも紹介しましたが、「水平月」や「逆転月」が明け方に見えるシーズンが近づいてきました。もし晴れ間に恵まれたら、この7月から継続して観察してみましょう。(→参考:「横たわる有明月を観よう・Part1」・「横たわる有明月を観よう・Part2」)昨夜から今日夜明けにかけて一応晴れたものの、夜半まで残ったやや強めの風とひっきりなしに空を横切る薄雲に泣かされました。こんな夜は長い露出が必要な撮影が困難…。ただ、明け方登ってきた月は存分に楽しむことができました。左は3:00少し前の撮影で、太陽黄経差は約316.39°、撮影高度は約17.40°、月齢25.63、弦傾斜は約-35.06°。カメラ水準器で画像左右方向を水平にしてあります。約二ヶ月前の5月28日の有明月に比べ、かなり横倒しになりました。
ここで「弦の傾き」についておさらいしておきましょう。弦とは一般にピンと張った糸のようなものを指しますが、月の形を弓に例えると、上弦や下弦での明暗境界がまさに弦のように見えます。これを拡大解釈し、「明暗境界の北極側(北側のカスプ)と南極側(南側のカスプ)を結ぶ架空の線」を想定することで、日食・月食以外のどんな月齢でも弦を一意に決定することができるでしょう。当ブログでは観察者から見て(地平座標の)水平方向と弦の方向のなす角を弦の傾き、または弦傾斜と呼ぶことにしています。
右図は左上月面画像に各種補助線を描いたもの。図中の自転軸や赤道、弦、弦傾斜などに関して、次のようなことが言えます。
- 水平方向(紫線)と天頂方向(緑線)は垂直に交わる。
- 自転軸方向(水色線)と月の赤道方向(赤線)は垂直に交わる。
- 弦(黄線)と太陽方向(オレンジ線)は垂直に交わる。
- 太陽は必ずしも赤道方向から月を照らすとは限らない。特に新月前後や満月前後では大きくずれる傾向がある。
- 弦傾斜は弦と水平方向がなす角で、右上がりならプラス値、左上がりならマイナス値、プラスマイナス180°を超えない。
- 作図上の弦は必ず月中心を通るが、細い月(逆光で見る月)では実際に光って見えるカスプと作図上のカスプが異なって中心を通らない線になることも多く、弦傾斜の誤認がしばしば起こる。
- 低空の場合は大気の屈折で月の形そのものが歪んでいる。撮影画像から直接傾斜角を測る場合は注意が必要。
- 弦傾斜は観察場所や日時の影響を強く受ける。
★2022年の弦傾斜はどう変化する?
以上を踏まえ、今年の水平月がいつ、どのように見えるか計算してみましょう。下図は今月新月前の数日を含む、弦傾斜が水平に近くなる時期の有明月の変化を計算したもの。場所を決めないと計算できないため、ここでは日本経緯度原点を代表点にしました。グラフ横軸を月高度、縦軸を弦傾斜として、各日の月が時間とともにどんな変化をするかが分かるでしょう。(※高度は見かけの高度ではなく水平方向からの高度。)一般には1日経つと月の出が遅くなり(グラフ全体が左へずれ)、時間とともに高度が上がり(グラフが右へ進み)ます。ところが弦傾斜変化はやや複雑で、月が高くなるとともに傾斜が左回りに回転する(7月など)こともあれば、逆に右回りに回転したり(10月など)、途中で回転方向が変わることもあるのです。もちろん観察場所が変わればこのグラフも少しずれますから、水平月の予想は結構複雑です。
グラフ内で「弦傾斜0°」になる日時こそが「水平月」の瞬間なのですが、このグラフには「日の出」が描いてありません。例えば7月28日4:50ごろに東京の経緯度原点で水平月が見えると読み取れるけれど、その時間は既に太陽が登っているのです。極細月を見つけることは日出30分前でもかなりきついですね。一日ごとにプラネタリウムソフトでシミュレートしてもらえれば理解が進みますが「背景が適度に暗くて見やすい水平月」という現象がいかに実現し難いか分かってもらえるのではないでしょうか。
★弦傾斜マップを使って観察しよう
各地での予報掲載は一筋縄でいきませんので、昨年同様に地図にまとめることにしました(下の地図)。年内に水平月ライン(0°の線)が九州以北まで到達する7月28日、8月26日、9月24日、9月25日の全4件について、「月高度が5°瞬時における弦の傾斜マップ(2°ごとの黄色ライン)」「月高度が10°瞬時における弦の傾斜マップ(2°ごとの水色ライン)」の二種を作図してあります。今月7月28日は九州や四国、本州の西日本などで水平月や逆転月を観察できます。ただし前述したように月高度10°ではもう太陽が登った状態ですから、東の超低空5°以下の月が探せる立地・天候に限られるでしょう。室戸岬や潮岬付近、あるいは九州の東空が開けた標高の高い地方にお住まいの方で快晴に恵まれたらチャレンジしてみてください。(右図は鹿児島市から見た逆転月/Stellariumによるシミュレーション。)
何といっても楽しみなのは9月25日のチャンス。なんと水平月ラインが北海道に到達するのです。本州以南では有明月なのに右上がりのプラス傾斜となる「逆転月」になります。非常に珍しい光景ですからお天気に恵まれて欲しいものですね。この日も月高度10°では日の出直前ですからなるべく低い位置の月を早めにとらえることが肝心。東が開けた場所や標高が確保できるところを探しておきましょう。なお奄美や沖縄など北緯30°を下回る地方ではこれら以外にも水平月や逆転月になる日が結構あります。明け方の黄道がそそり立つ9月は特にチャンスが増えますからじっくり観察してみてくださいね。
- 上地図は自作プログラムによる概算です。大気の浮き上がりは考慮しています(気温15度C・1気圧固定)。観察地の標高補正はしていません。観察の目安としてお使いください。