紫金山・アトラス彗星の周囲が暗く見える件 ― 2024/10/25
10月21日記事で紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)の周囲に見える影のような事象について言及したところ、議論が進んでいるようでした。天リフさんの24日作業配信を後追いで拝見したのですが、画面にちらっとマッハ効果などの文字も見えました。SNSをやってない私は話しに参加することができないけれど、どなたかの参考になるかも知れないので分かる範囲で書いておきます。
まず、そもそも影のように暗く見えるのは実在するのか、錯覚なのか。これは視覚に頼らず、測定してみれば分かることです。ただし後述するように画像処理の段階で「影を生成」してしまうのでは意味がありませんね。そこで、原画に立ち戻って方針を決め、無駄な画像処理を省きつつ測定用画像を用意するところから始めました。また、画像を直接測定・グラフ化するMakali`iライクなプログラムの自作を平行して行いました。
画像処理のルールは具体的に次のような方針です。
ということで、10月12日と13日のNKさんによる撮影画像を早速測定してみました。下A1・A2画像が12日、下B1・B2画像が13日。それぞれRAWファイルを直接現像後、複数枚をスタック(加算平均のみ/σクリップ無し)しただけの画像です。(※掲載画像は原画ではないのでご注意。)測定は画像に引かれた水色線に沿って行ってます。たっぷりマージンを取っているのはスタック時の縁に残るコンタミを避けるため。
RGB各16bitなので、各色とも0から65535まで取りうるのですが、薄暮写真はグラデーションが豊富過ぎてグラフが幅広くなってしまいます。そこで、正規化の際に「そのライン上の全点でのメジアン(中央値)を減じてから32768で割って正規化」しています。つまり測定ラインが全て同じ色なら全点ゼロになり、少しでも暗い/明るいならプラスマイナスに分布するわけです。ちょっと面倒ですが、グラフの形を変えないまま原点を固定し、わずかな違いを見るためにはこれがいいかなと考えました。
結果はご覧の通り。XYピクセル座標は左上が原点です。グラフの真ん中あたりで大きく盛り上がってるのが彗星の尾。そして、右のスロープはなだらか、左は急斜面になりました。ダストの輝きが右寄りに広がっている訳ですね。左の急斜面側はいったん落ちた後にわずかな上昇を経て左縁へ向かう減光につながります。特に13日の下側5本のライン(グラフのピンク矢印のあたり)は赤色がX=500あたりで右下がりですね。これが「影」の正体です。錯覚ではなく、画像上に実在してます。12日は一見して無いように見えるけれど、良く見ると下3本のグラフで同様の特徴が見られます。
「見間違い」「錯覚」として取り上げられがちな現象として、やまのんさんが例に示されていた「マッハバンド」。これは大学や専門学校などで情報処理を学ばれる方が最初に習うことばです。下C画像のホームズ彗星(17P)はクラゲのように淡く広がるコマで知られますが、このようにダイナミックレンジを著しく消費する画像の場合、特に階調の緩急が切り替わるところに暗い縁取りが見えたりします。下C2画像はC1画像を「ポスタライズ」したもの。強制的に10階調に制限しました。こうするとコマが等高線のような階段状に見えませんか?階調が減るとこんな錯覚を生むのです。この等高線状に見える領域がマッハバンド。そしてマッハバンドの境界は暗いほうがより暗く、明るいほうがより明るく見えるでしょう。本来の階調より濃淡が強まって見えるのは錯覚です。古のテレビゲームでは背景グラデーションにマッハバンドが必ず見えてましたね。(追記:ポスタライズしたホームズ彗星も輪切り測定してみました。見た目に反して、各階段の床面は平らになってることが分かりますね。階段から生えてるたくさんの棒は測定ラインに乗っている恒星です。)
今でこそ無限とも言える色数を誇るPCモニターも、以前は制限がありました。Webが誕生し、まだ回線が細かった時代に生まれたJPEGやGIFは少ない色数で画像を表現するために発明された軽量フォーマットだったわけです。ですから、豊かな階調をJPEGに落とした途端、前述の縁取りが見えたり、階調が階段状に感じてしまうのです。また原画上では線形に保持している画素値でも、伝送したり圧縮映像としてディスクに焼いて保管するような過程を経て人が目にする段階では、何らかのノンリニアな加工が施されてしまうことも多いです。
当初私もTA彗星の影を何らかの錯覚ではないかと思ったのですが、多くの写真を比較したり測定してみて、少なくともマッハバンドのような見え方とは違うと考えるようになりました。
もうひとつ、これは錯覚でなく実在の減光現象ですが、いまだ原因不明なことがあります。下D1画像は2012年6月6日の金星日面通過を雲越しに撮ったもの。このとき私の街は雲が多過ぎて、とにかく雲の薄いところから必死に撮り続けていました。なので書き込みが遅いRAW撮影ではなくJPEGのみで撮っていたのです。後で見返すと、太陽の周りが暗く見えるんですね。これはいったい何事かと思いました。
錯覚でないことを証明するため、TA彗星を測定したプログラムで測ったのが下D2図。明らかに太陽周囲が減光してますね。強い光があったせいなのか、雲のせいなのか、カメラのセンサーや撮像回路の為せる技なのか、それともJPEGだからなのか、さっぱり分かりません。別の快晴日に撮影した太陽でもRAW画像で似たことが数回起きたので、雲やJPEG原因説ではなさそうです。強い光が本来無いはずの階調変化を原画に与えたとすれば、今回のような明るい彗星で起こってもおかしくありません。始めにも書きましたが、極端な画像処理が必要な天体写真では、それが原因で偽模様を出してしまうことも少なくないですからね。下E図のように、背景の明るさでも偽模様が目立ったり見えなくなったりします。(※月惑星処理で悪評の高いリンギングの一因ともされます。)こうした可能性も頭の片隅に置きつつ、調べを進めたいと思います。何か答えらしきものを見つけた方はぜひご教授ください。
まず、そもそも影のように暗く見えるのは実在するのか、錯覚なのか。これは視覚に頼らず、測定してみれば分かることです。ただし後述するように画像処理の段階で「影を生成」してしまうのでは意味がありませんね。そこで、原画に立ち戻って方針を決め、無駄な画像処理を省きつつ測定用画像を用意するところから始めました。また、画像を直接測定・グラフ化するMakali`iライクなプログラムの自作を平行して行いました。
画像処理のルールは具体的に次のような方針です。
- ダーク・フラット処理、スタック、トリミング、リサイズは影を生成しないと考えられる。ただし今回は原則としてトリミング、リサイズをしないで測定。
- アンシャープマスク、デコンボリューション、ウェーブレット、尾の流線を出すLSフィルタなどの処理は影を生む。
- カラーの白黒化はRGBからの明度計算式によっては階調の逆転が生じる恐れがあるため、避ける。(※RGBをチャンネル分解して個別に白黒化するのは問題ない。)
- JPEG化は階調を大きく低下させ、また元々無かったブロックノイズも発生させるので避ける(右下作例画像)。
- その他、見栄えを良くするストレッチやクリッピング、マスク処理なども一切行わない。
- 測定は原画に近い非圧縮形式(fitsやTIFF)で行う。
ということで、10月12日と13日のNKさんによる撮影画像を早速測定してみました。下A1・A2画像が12日、下B1・B2画像が13日。それぞれRAWファイルを直接現像後、複数枚をスタック(加算平均のみ/σクリップ無し)しただけの画像です。(※掲載画像は原画ではないのでご注意。)測定は画像に引かれた水色線に沿って行ってます。たっぷりマージンを取っているのはスタック時の縁に残るコンタミを避けるため。
RGB各16bitなので、各色とも0から65535まで取りうるのですが、薄暮写真はグラデーションが豊富過ぎてグラフが幅広くなってしまいます。そこで、正規化の際に「そのライン上の全点でのメジアン(中央値)を減じてから32768で割って正規化」しています。つまり測定ラインが全て同じ色なら全点ゼロになり、少しでも暗い/明るいならプラスマイナスに分布するわけです。ちょっと面倒ですが、グラフの形を変えないまま原点を固定し、わずかな違いを見るためにはこれがいいかなと考えました。
結果はご覧の通り。XYピクセル座標は左上が原点です。グラフの真ん中あたりで大きく盛り上がってるのが彗星の尾。そして、右のスロープはなだらか、左は急斜面になりました。ダストの輝きが右寄りに広がっている訳ですね。左の急斜面側はいったん落ちた後にわずかな上昇を経て左縁へ向かう減光につながります。特に13日の下側5本のライン(グラフのピンク矢印のあたり)は赤色がX=500あたりで右下がりですね。これが「影」の正体です。錯覚ではなく、画像上に実在してます。12日は一見して無いように見えるけれど、良く見ると下3本のグラフで同様の特徴が見られます。
「見間違い」「錯覚」として取り上げられがちな現象として、やまのんさんが例に示されていた「マッハバンド」。これは大学や専門学校などで情報処理を学ばれる方が最初に習うことばです。下C画像のホームズ彗星(17P)はクラゲのように淡く広がるコマで知られますが、このようにダイナミックレンジを著しく消費する画像の場合、特に階調の緩急が切り替わるところに暗い縁取りが見えたりします。下C2画像はC1画像を「ポスタライズ」したもの。強制的に10階調に制限しました。こうするとコマが等高線のような階段状に見えませんか?階調が減るとこんな錯覚を生むのです。この等高線状に見える領域がマッハバンド。そしてマッハバンドの境界は暗いほうがより暗く、明るいほうがより明るく見えるでしょう。本来の階調より濃淡が強まって見えるのは錯覚です。古のテレビゲームでは背景グラデーションにマッハバンドが必ず見えてましたね。(追記:ポスタライズしたホームズ彗星も輪切り測定してみました。見た目に反して、各階段の床面は平らになってることが分かりますね。階段から生えてるたくさんの棒は測定ラインに乗っている恒星です。)
今でこそ無限とも言える色数を誇るPCモニターも、以前は制限がありました。Webが誕生し、まだ回線が細かった時代に生まれたJPEGやGIFは少ない色数で画像を表現するために発明された軽量フォーマットだったわけです。ですから、豊かな階調をJPEGに落とした途端、前述の縁取りが見えたり、階調が階段状に感じてしまうのです。また原画上では線形に保持している画素値でも、伝送したり圧縮映像としてディスクに焼いて保管するような過程を経て人が目にする段階では、何らかのノンリニアな加工が施されてしまうことも多いです。
当初私もTA彗星の影を何らかの錯覚ではないかと思ったのですが、多くの写真を比較したり測定してみて、少なくともマッハバンドのような見え方とは違うと考えるようになりました。
もうひとつ、これは錯覚でなく実在の減光現象ですが、いまだ原因不明なことがあります。下D1画像は2012年6月6日の金星日面通過を雲越しに撮ったもの。このとき私の街は雲が多過ぎて、とにかく雲の薄いところから必死に撮り続けていました。なので書き込みが遅いRAW撮影ではなくJPEGのみで撮っていたのです。後で見返すと、太陽の周りが暗く見えるんですね。これはいったい何事かと思いました。
錯覚でないことを証明するため、TA彗星を測定したプログラムで測ったのが下D2図。明らかに太陽周囲が減光してますね。強い光があったせいなのか、雲のせいなのか、カメラのセンサーや撮像回路の為せる技なのか、それともJPEGだからなのか、さっぱり分かりません。別の快晴日に撮影した太陽でもRAW画像で似たことが数回起きたので、雲やJPEG原因説ではなさそうです。強い光が本来無いはずの階調変化を原画に与えたとすれば、今回のような明るい彗星で起こってもおかしくありません。始めにも書きましたが、極端な画像処理が必要な天体写真では、それが原因で偽模様を出してしまうことも少なくないですからね。下E図のように、背景の明るさでも偽模様が目立ったり見えなくなったりします。(※月惑星処理で悪評の高いリンギングの一因ともされます。)こうした可能性も頭の片隅に置きつつ、調べを進めたいと思います。何か答えらしきものを見つけた方はぜひご教授ください。
2024年の台風21号が発生 ― 2024/10/25
気象庁によると、昨日24日9時から台風になるかも知れないと告知されていた熱帯低気圧が本日6時に台風21号「コンレイ/KONG-REY」になりました。直前の台風20号発生から3日と3時間後の発生、20号はまだ活動中のため、ダブル台風になりました。
左は21号発生時である本日6:00の気象衛星ひまわり画像(画像元:RAMMB/画像処理・地図等は筆者)。アジアはまだ半分暗いため赤外バンドによる白黒画像です。赤点線円は各台風中心の直径1000km円。東が21号、西が20号。
21号はやや北寄りながらも20号を追うように西進しています。ただ、気象庁の進路予報では月末ごろから少しずつ北へ向きを変えるようで、ひょっとしたら南西諸島を直撃したり九州や四国へ接近ということになるかも知れません。いま日本から離れている20号もUターンしてくる可能性もあるとのこと。最新情報を見つつ、ご注意ください。
【追記】
右は25日21時の気象庁サイトによる進路予報。20号が本当にUターンのコースに変わりました。21号も南西諸島直撃コース。これ、どちらの台風も日本に影響しそうですね。十分に防災対策なさってください。