彗星は銀河の狭間へ2024/10/28

20241026_C/2023A3
26日宵も天気に恵まれた秋田では知人のNKさんが紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)の観察に成功、いつものように元画像を提供してくださいました。一日遅れですが掲載します。関東は長いこと連日曇り空なので本当にありがたい。

TA彗星は順調に天の川に接近、尾はNGC6633あたりまで伸びていると思われ、角距離は約15°。双眼鏡では6°の視野をはみ出ていたそうです。もう一週間も経つと彗星本体が天の川に達し、更に一週間後には暗黒星雲を背後に光る構図となります。月が宵に戻り、双眼鏡でも厳しくなってくるでしょうが、望遠鏡を向ける事さえできれば十分撮影可能な位置。ぜひチャレンジしてみてください。

右下の拡大画像ではアンチテイルがかなり淡く短くなったことも分かるでしょう。またインサート画像は頭部を色彩強調したもので、明るい輪郭の西側(右側)に沿って緑の着色が認められました。収差やアーティファクトでなければコマかも知れません。TA彗星のコマは鬼才Michael Jaegerさんの画像でしか見たことがなかったので、「おぉ、やったじゃんNKさん、秋田でも撮れたじゃん」と叫んでしまいました。

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ここからは彗星と関係ない脱線話。ご興味のある方だけどうぞ。

NKさんと私、そして人の輪を取り持ってくれる中川光学研究室の中川さんの三人は、以前から緩くて固い絆がありました。今回のように空の良い環境で連日彗星を撮れるけれどじっくり処理する時間が少ないNKさん。いっぽうで天気が悪く何もできず時間を持て余してる私と、タイムリーな速報画像が不足しがちな中川さん。そんなときは誰言うともなく、撮影、画像処理、広報告知の体制が自然にでき上がります。互いに大きなメリットがありますね。

一から十まで自分でやりたいのは天文屋の性でしょうか。自力で完成させるところに意味があることは理解してます。でも、そうも言ってられないこともある。そのとき「ちょっと運転代わって」と分担協力し合える仲間はそう多くないでしょう。天文普及を支えてきた立場の自分は、写真をガチで仕上げることより、いち早く現状を伝え明日の観察を考える方々へ判断材料を届けることを優先したいので、この関係はかけがえのないものになっています。

数日前の天リフさん作業配信で話題だった「天文の収益化」、私は基本的に賛成だけれど、いっぽうで天文が成り金趣味に堕ちてしまうのは避けたい。高級機材を持ってなければ仲間じゃないって風潮は避けるべきで、門戸を広く開けないと破綻します。小学生がお小遣いためて買える趣味を目指さなければ。何が言いたいかと言うと、観察・撮影からPC処理に至るまで、天文趣味はお金も知識もかなり物入りです。強い意志がない限り、将来に渡って沼に沈み断捨離が起こらない。『もっと良い像が欲しければ、金を出せ』って投資を続けないと成立しないなら、もはや趣味って言えるかどうかも怪しい。戦争や国防、あるいは悪徳商法の構図を見てるようで時々嫌な気分になります。まぁメーカーサイドの気持ちも分かるんだけど。

天文分野はアマチュアとプロとの連携が強いと言われ、昔からポジティブな印象を抱いてたんですが、最近はなんとなくこれが呪縛の要因にもなり得ると感じてます。プロレベルの観測を維持するには高度なテクニックが必要ですからね。で、それを維持するには様々な投資が必要になるんです。高尚と言えば聞こえが良いけれど、それはハイアマチュアと初心者の乖離を促進させます。悪いとは言いませんが手放しで喜べる状況でもないでしょう。中間に立って手を差し伸べる人が不足してるんです。

闇夜の暗いターゲットすら逃さない超高性能機材、ハイスペックPC、観測撮影技術、データ処理ノウハウを全員が所有する“アマチュア”天文分野の異常性。どこのスパイ集団よ!?…。うーん…もっと、しなやかに協力し合えないものかなぁ。今後日本は湿度が高まり曇ってばかりの国になるだろうから、お互いを頼って知識・能力や資産を上手に分散、シェアしたら良いんじゃないかって思うんです。天文もぜひサスティナブルで。出来れば国際レベルで。

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