紫金山・ATLAS彗星の尾の向き、勘違いしてない? ― 2024/10/13
明け方に長い尾をたなびかせていた紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)が夕空に現れ始めました。昨日12日夕方にその姿を見た方も多いでしょう。早い方はさらに前日11日に捉えた方もいらっしゃるはず。左は昨日の記事でオーロラを届けてくれた知人のNKさんが昨夕に撮影したTA彗星。またまた御提供していただきました。感謝感謝です。夕空に回ってもしっかりした尾が見えていますね。消滅しなくて本当に良かった…。
さて、画像から尾の長さを測るとおよそ3.5°。確か明け方では20°以上見えていたようなので、残りはどこへ行ってしまったんだろうと疑問に思いませんか?これに対してちょっと詳しい方なら「彗星が地球との間にあるから、尾を真横から見ていないため短く見える」と模範解答するでしょう。三次元思考として確かに間違ってはいないけれど、事情はもっと複雑です。
4、5日前に太陽観測衛星SOHOのLASCO-C3カメラに写ったTA彗星は、世界中で閲覧されたことと思います。では通過後に見た方はいらっしゃいますか?まだと言う方はぜひ右下のGIF動画をご覧ください。これは9日0:06UTから12日20:30UT(日本時間9日9:06から本日5:30)のSOHO画像を4時間おきに取得して組み立てたもの。
頭部が通り過ぎたあとも長い尾が明るく写ってますね。いいですか、今日のSOHO画像でも太陽と一緒にまだ尾が写ってるんですよ。おかしいと思いませんか?みなさんが昨夕ご覧になった彗星の尾は冒頭画像の通り太陽と反対方向に見えていました。ところがダストの尾の先端はまだ太陽近くにあるのです。ちぎれた訳じゃなく、両者はつながっています。見かけ上は既に15°以上離れているのに、なんとまあ!
彗星から放出されたダストは太陽の影響を受けて湾曲することが知られています。「尾は太陽と反対を向く」と一律に教わった方も多いでしょうが、それは太陽引力の影響を受けにくいガスの尾(イオンテイル)の話。ダストテイルは違うんです。左下画像は2013年5月8日に撮影したパンスターズ彗星(C/2011L4)。湾曲した尾は時として扇状に広がり、この画像のように頭部より太陽に近い側へ伸びて見えることもあります。この「太陽と正反対ではない方向の尾」は「アンチテイル」と呼ばれます。(注:イオンテイルも真っ直ぐとは行かず、ねじれ、くびれ、ちぎれを起こしつつ吹き飛ばされて行きます。太陽側に引き戻されることはない、というだけです。)
Stellariumをはじめ主要な星空表示ソフトでは昨夕の尾が上向きに表示され、実際も上を向いているから、「明け方がそうであったように、上にずっと続いている」という勘違いをしてしまってませんか。多くのアプリがこの勘違いを誘発する表示になってると思われます。
ステラナビゲーターにはダストの尾が曲がる様子を表示する機能が付いているので、お持ちの方はやってみてください。これならある程度正確な状況を把握できるでしょう。尾の長さをかなり大きな値…例えば0.5AUとか1.0AUに変えてみましょう。β項も変えられるようになってますから、興味がある方は変えてみてください。(ダストは太陽に引かれる力:万有引力と、太陽光子にはね飛ばされる力:輻射圧が拮抗して運動が決まるのですが、βはそれぞれの力の比率のこと。)
どのような値にしたら現状の尾が説明つくのか試行錯誤してみましょう。下A-D図はダストの尾を0.4AUにした場合の10日から13日までの様子(各日0:00JST固定)。青線はイオンテイル、黄色線はダストテイル。ダストテイルの先端と太陽とが離れ過ぎていますが、概ね現状はこういうことだと考えられます。
冒頭画像をあらためて見ると、V字に広がる尾のうち、左側がやや明るいように見えます。こちらがイオンテイルが強い側なのかもしれません。右寄りにダストが広がり、左側のように上まで伸び切らずに下へ(太陽側へ)向かっている、つまりアンチテイルが見えるなら説明がつきます。ただ、確かめようにも薄暮に埋もれてはっきりしません。今後一日ごとに良く見えるようになるのでしょう。ただし地球との位置関係も変わり、いずれダストの尾も全て上空へ伸びて見えるようになります。SOHO画像からいつ尾が消えるのかも尾の長さや形状を推し量るポイントですね。
もうひとつ。この状態は明け方に見えていた頃から起きていたと考えるのが妥当でしょう。投稿サイトにはダストの尾が真っ直ぐ伸びているような画像が大多数でしたが、本当は湾曲化に伴う何らかの証拠があってもいいはず。例えばMichael Jaeger氏のこの画像やこの画像では尾の中腹で緩やかな膨らみやS字湾曲を持つ“魚の形”で、末端もねじれて見えるようです。レンズの歪みで説明がつく訳でもないでしょう。みなさんの画像も調べてみてください。
さて、画像から尾の長さを測るとおよそ3.5°。確か明け方では20°以上見えていたようなので、残りはどこへ行ってしまったんだろうと疑問に思いませんか?これに対してちょっと詳しい方なら「彗星が地球との間にあるから、尾を真横から見ていないため短く見える」と模範解答するでしょう。三次元思考として確かに間違ってはいないけれど、事情はもっと複雑です。
4、5日前に太陽観測衛星SOHOのLASCO-C3カメラに写ったTA彗星は、世界中で閲覧されたことと思います。では通過後に見た方はいらっしゃいますか?まだと言う方はぜひ右下のGIF動画をご覧ください。これは9日0:06UTから12日20:30UT(日本時間9日9:06から本日5:30)のSOHO画像を4時間おきに取得して組み立てたもの。
頭部が通り過ぎたあとも長い尾が明るく写ってますね。いいですか、今日のSOHO画像でも太陽と一緒にまだ尾が写ってるんですよ。おかしいと思いませんか?みなさんが昨夕ご覧になった彗星の尾は冒頭画像の通り太陽と反対方向に見えていました。ところがダストの尾の先端はまだ太陽近くにあるのです。ちぎれた訳じゃなく、両者はつながっています。見かけ上は既に15°以上離れているのに、なんとまあ!
彗星から放出されたダストは太陽の影響を受けて湾曲することが知られています。「尾は太陽と反対を向く」と一律に教わった方も多いでしょうが、それは太陽引力の影響を受けにくいガスの尾(イオンテイル)の話。ダストテイルは違うんです。左下画像は2013年5月8日に撮影したパンスターズ彗星(C/2011L4)。湾曲した尾は時として扇状に広がり、この画像のように頭部より太陽に近い側へ伸びて見えることもあります。この「太陽と正反対ではない方向の尾」は「アンチテイル」と呼ばれます。(注:イオンテイルも真っ直ぐとは行かず、ねじれ、くびれ、ちぎれを起こしつつ吹き飛ばされて行きます。太陽側に引き戻されることはない、というだけです。)
Stellariumをはじめ主要な星空表示ソフトでは昨夕の尾が上向きに表示され、実際も上を向いているから、「明け方がそうであったように、上にずっと続いている」という勘違いをしてしまってませんか。多くのアプリがこの勘違いを誘発する表示になってると思われます。
ステラナビゲーターにはダストの尾が曲がる様子を表示する機能が付いているので、お持ちの方はやってみてください。これならある程度正確な状況を把握できるでしょう。尾の長さをかなり大きな値…例えば0.5AUとか1.0AUに変えてみましょう。β項も変えられるようになってますから、興味がある方は変えてみてください。(ダストは太陽に引かれる力:万有引力と、太陽光子にはね飛ばされる力:輻射圧が拮抗して運動が決まるのですが、βはそれぞれの力の比率のこと。)
どのような値にしたら現状の尾が説明つくのか試行錯誤してみましょう。下A-D図はダストの尾を0.4AUにした場合の10日から13日までの様子(各日0:00JST固定)。青線はイオンテイル、黄色線はダストテイル。ダストテイルの先端と太陽とが離れ過ぎていますが、概ね現状はこういうことだと考えられます。
冒頭画像をあらためて見ると、V字に広がる尾のうち、左側がやや明るいように見えます。こちらがイオンテイルが強い側なのかもしれません。右寄りにダストが広がり、左側のように上まで伸び切らずに下へ(太陽側へ)向かっている、つまりアンチテイルが見えるなら説明がつきます。ただ、確かめようにも薄暮に埋もれてはっきりしません。今後一日ごとに良く見えるようになるのでしょう。ただし地球との位置関係も変わり、いずれダストの尾も全て上空へ伸びて見えるようになります。SOHO画像からいつ尾が消えるのかも尾の長さや形状を推し量るポイントですね。
もうひとつ。この状態は明け方に見えていた頃から起きていたと考えるのが妥当でしょう。投稿サイトにはダストの尾が真っ直ぐ伸びているような画像が大多数でしたが、本当は湾曲化に伴う何らかの証拠があってもいいはず。例えばMichael Jaeger氏のこの画像やこの画像では尾の中腹で緩やかな膨らみやS字湾曲を持つ“魚の形”で、末端もねじれて見えるようです。レンズの歪みで説明がつく訳でもないでしょう。みなさんの画像も調べてみてください。