月の『真ん中』を見たことありますか?2019/01/20

大学入試とは全く関係ありませんが、みなさんに“センター”試験(質問)です。

  • 望遠鏡で真の月面センター(月面座標の経緯度が0°の点)を、これまでに見たことがありますか?
  • 真の月面センターが「見かけ上の月面中央」に一致した月を、これまでに見たことがありますか?

両方ともYesとお答えの方はこの記事を読む必要はないでしょう。しかしながら、かなりコアな天文ファンでも実際に「月の中央」を確認した方は少ないと思います。知らない、見たことないという方はぜひ当記事を読み進めて、望遠鏡で探してみてください。

20190114上弦
地球と同じように、月面にも経度と緯度が定められています。かつてのグリニッジ天文台(経度0°)みたいにシンボルになった場所は「平均的な見かけ上の中央」とされたメスティングAという小クレーターです。満月期では陰影が無くて分かり辛いですが、上弦過ぎや下弦前の月ならハッキリ確認できます。

左は先週1月14日上弦の際に撮影した月。画像右側が全体像で、緑矩形の拡大が左側です。「プトレマイオス・アルフォンスス・アルゲサル」のお団子クレーターを見つければ、ハーシェル→メスティング→メスティングAと辿れるでしょう。月面の百名所を集めた「Lunar 100」ではリスト61番目にありますね。

アポロ以降現在までに月の位置や向きは極めて正確に測定され、月面座標の原点は左上画像・白十字の場所に再定義されました。これに伴いメスティングAの位置は西経約5.2°、南緯約3.2°に変更されたのです。一番目の質問であるメスティングAや現在の月面座標中央は画像内のマゼンタ△線や青△線を見つければ比較的容易に観察できるでしょう。ぜひ挑戦してください。

ところが二番目の質問は厄介です。質問を言い換えると「月がまっすぐ私を見てくれるのはいつなのか?」を知らなくてはなりません。みなさんも「月面は同じ面を地球に向けているけれど、微妙に揺れ動いている」と耳にしたことがあるでしょう。この揺れは「秤動」と呼ばれます。秤動を予測し、月面座標中央が見かけ上の真ん中に来る月を見ることができるか、と言うことなのです。

201901秤動図
正確な月位置や秤動はキッチリした動きではないため、簡単な関数式で表現できません。自力で予測計算するのは結構難しいのですが、「いま月はどちらを向いているか」を手っ取り早く知るだけなら国立天文台の暦計算室やCalSkyなどの天文計算サイト、あるいは天文年鑑などを利用すると良いでしょう。特定日時に「見かけ上の月面中央経度緯度」が何度か示してくれます。

右図の赤線は天文年鑑にも掲載されている秤動図(自作プログラムで描画)。日々の秤動、つまり見かけの月面中央位置変化をグラフにしたものです。これを見て経度緯度とも0°に近いところを探せば、その日時こそ月がまっすぐこっちを見ている、ということですね。……と思いきや、ここにも落とし穴。実はこの図や前述サイトが示す秤動値は「地球中心から見た場合の見かけの月面中央緯度経度」なんです。つまり、地表で観察する私たちに付きまとう「地球中心と観測者との視線ズレ」という問題が考慮されていません。

試しに当サイト基準である茨城県つくば市で観察した場合のズレまで考慮した秤動は右図の青線の通り。赤線に対して約一日周期でグルグル回っており、結構複雑ですね。赤線と青線は1°以上ずれることもあるので、これを考慮しなければ月の女神が脇目も振らずこっちを向いてる日時が分かりません。調べた範囲でこの測心秤動まで計算できるのはCalSkyサイトだけでした。

201901秤動図+月面図
天文年鑑のバックナンバーなどをお持ちの方は過去数年分ご覧いただきたいのですが、秤動図は毎月一周するたび形が変化し、まるで変形するゾウリムシをみているようです。大事なのは「なかなか中心を通らない」ということ。1年経ったからと言って元に戻る訳でもありません。直線に近いこともあれば、円に近いこともあります。稀に中心近くを通ったとしても、新月期の細い月の場合は眼視で中心地形を確認できないでしょう。二番目の質問は機会自体が極めて少ないのです。

ここ数年の中で去年2018年は比較的中心を通るチャンスがありました。実はその名残で、今月の満月、つまり明日21日の月は「日本から見た見かけの月中央と真の月面座標中央が極めて近い」ラストチャンスなのです。

前出の秤動図を月面図に重ねて、詳しく見てみましょう(左図/クレーター名はIAU表記)。各日0:00JSTの位置にドットを描き、5日から5日おきに二重円、月初めは□、翌月初めは△を描きました。最初の画像に示した14日上弦の頃はグラフが月面座標中央から北西に大きく離れていたことが分かります。逆に言うと、見かけの月面中央に対して、真の月面中央が南東に離れて位置するとも言えます(記事最初の画像・赤十字と白十字の関係)。また今月は月面座標中央に近い位置で満月になることが分かりますね。青線が水色になっているところは座標中央から1.0°以内の部分。つまり、21日夕方から22日になる前までの時間帯に月を観察すれば、二番目の質問はほぼクリアなのです。もし撮影可能なら、この満月を大きく撮ってください。それをプリントして丸くカットし、直角四つ折りにして中央を見つけましょう。その位置は「真の月面座標中央」にかなり近いはずです。

実際はみなさんの観測地ごとに秤動を計算しなくてはなりませんが、日本の中で大きく異なる訳ではないので、滅多にない「真正面から見た満月」をぜひ目に焼き付けておきましょう。(※次のチャンスは2021年初夏までありません。しかも満月で起こる訳ではありません。)あまり注目されないけれど、とても貴重なチャンスのお話しでした。(※付記:1月21日夜に行った撮影検証は当日の記事をご覧ください。

20181223満月
【追記:満月でもたどれます】
満月はとても眩しいので、普段クレーターを辿り歩くことは無いでしょう。でも小さいクレーターや大きいクレーターの縁が白く輝くおかげで、意外にも位置を特定することができます。目を痛めないようムーングラスを付けたり、やや過剰に倍率を上げて減光すると良いでしょう。どうしても目が敏感で…という方はカメラで撮影することをお勧めします。

左は2018年12月23日・平成天皇最後の「誕生日満月」となった月。これをサンプルに月面座標中央を特定してみました。この日の測心経度秤動は-3.61°、測心緯度秤動は+3.37°です。最初に挙げた上弦同様、マゼンタ△線や青△線あたりを見つけ出すのがポイント。また「海」の配置を頼りに月面の東西南北をきちんと把握することも大切。諦めずにぜひトライしてみてください。




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