超高層雷放電「スプライト」を撮る2023/09/06

20230905-2030降水ナウキャスト
昨宵から夜にかけて、当地・茨城県南部の北西に位置する栃木県南部を中心に発達した積乱雲が夜空を照らしていました(左図/気象庁・降水ナウキャストから引用)。当地は良く晴れており雷雲もこちらへは来ないようなので、発光現象「スプライト」を写せるかどうかやってみました。

雷(稲妻)は主に積乱雲の中や地面との間で起こる発光です。でも大きく発達した積乱雲では雲の上に向かう稲妻(右下画像/2015年8月5日撮影)や、その他の発光も起きることがあります。「その他の発光」として一番知られているのが「スプライト」という現象です。

大気層は大きく四種に分類され、地面から上に向かってそれぞれ対流圏(troposphere:10km以下)、成層圏(stratosphere:10km以上)、中間圏(mesosphere:50km以上)、熱圏(thermosphere:80km以上)と呼ばれます。積乱雲の上層は成層圏下部まで達しますから、それより上で起こる発光は「超高層雷放電」と表現され、様々なタイプの現象が知られています。スプライトの呼び名が広義に解釈されて超高層雷放電を指すこともあるようですが、狭義にはカツオノエボシ系のクラゲの足みたいな赤い発光のみを指します。規模の大きなスプライトは熱圏下層に到達するそうなので、想像を絶する大きさですね。ちなみに一般的な「地球と宇宙の境界」は100kmで、流れ星はそれよりずっと下で光ります。スプライトなどの大規模な超高層雷放電は国際宇宙ステーションからも見えるそうです。

20150805上に向かう稲妻
さて、昨夜は簡易的な白黒カメラによる約2時間の観察で、5シーンの発光を記録できました(下A…E画像)。通常この手の撮影は高感度カメラの動画記録が定石なのですが、ミリ秒オーダーの発光を動画で追うと容量も膨れ上がり、見返すのも大変な作業です。要は暗い流星の撮影と同じですから、今回は5秒露出の高感度静止画で記録しました。またスプライトは赤い波長なので、光害カットを兼ねて近赤外透過フィルターを付けています。

下画像の背景にはうしかい座やかんむり座、おおぐま座などが写っています。ちょうど撮影準備中、前日に打ち上げられたばかりのStarlinkトレイン(Group6-12)が、画像右寄りに写ってる北斗七星の柄のあたりから頭上へ向かって通過してゆき、たいへん明るくて驚きました。5分早く撮影スタートしていたら写っていたでしょう。左下のカーブした光は地上光のゴースト。画像のうちBとCはスプライトではなくジェットかも知れません。色情報が無いから何とも判断できないけれど、他写真のスプライトとは明らかに形状が違います。

背景に星が写っていると、撮影時刻が分かればスプライトの最高点仰角を測ることができます。今回は少なくとも約35°まで届いていました。正確なスプライト発生位置は分かりませんが、自宅から約100km先に雷雲中心があったので、地面の曲率を無視して100×tan(35°)=70とし、このスプライトは地表からみて70kmあたりまで達していたと推測できます。複数点で同じ雷雲のスプライトを捉えれば、より精度の高い計算も可能でしょう。流星経路の計算と同じですね。

スプライトを撮ってみたいという方は、流星撮影の基本的な知識、機材選定、天気判断の知識があると良いでしょう。自身の観察地が雷になっている必要はなく、むしろ自身の居場所は快晴なのに100kmから200km程度離れたところで強い雷雨になっている状況(雷雲が自分のほうへ来ないことが前提)を狙ってください。もちろん薄暮・薄明も無い夜時間でないときれいに写りません。近い雷雲ほどスプライトも高くなり、縦方向の写野にゆとりがあるレンズが必要です。雷雲の広がりにも寄りますが、縦構図のほうが良いかも知れません。SpaceWeather.comの特集記事の下にある図を参考に、雷雲までの距離と必要な画角を計算して一覧表を作っておきましょう。

実はこれまで何回も挑戦していたのですが、なかなか良いタイミングに巡り合えませんでした。薄暮が終わるころ雷も下火になってしまったり、鉄床雲の広がりが大き過ぎて自分の街まで飲み込まれたり…。茨城は西で発生した雷が発達しながら通過することが多いため、撮影する間もなく落雷被害を受けてしまうほうが圧倒的に多いのです。事故は十二分に気を付けなくてはなりません。もし運良く次のチャンスが巡ってきたら、カラー撮影をしてみたいと思います。



  • 20230905-超高層雷放電1

    A.
  • 20230905-超高層雷放電2

    B.
  • 20230905-超高層雷放電3

    C.


  • 20230905-超高層雷放電4

    D.
  • 20230905-超高層雷放電5

    E.