地球の影を掬い上げる ― 2025/09/09
9月8日未明に皆既月食が起こりました。当地・茨城は時折やってくる高度の低い雲に悩まされながらも、夜明けに月が没するまで楽しむことができました。
いつもは月食の色調やターコイズフリンジと言ったことばかりに目が行っていたので、今回は地球の影を正確に表現することにこだわって撮影してみました。使用した望遠鏡はSky-WatcherのMAK127のみ。この望遠鏡は焦点距離公称値が1500mmもあって、APS-Cセンサーを接続アダプター付きで繋ぐと更に長くなって「大きい満月」がはみ出してしまいます。今回は裏技を使って1400mm台まで縮め、レデューサー無しで満月を直焦点で収めました。マクストフ系ならではの特技です。余計なレンズを使わないと像がすっきりし、周辺減光も気にならなくていいですね。
2022年12月14日記事にも書いたように、月と地球影の動きは想像以上に複雑で、南中前か南中過ぎかでも変わり(→つまり観測場所によって動きが変わってしまう)、地球の影を掬い上げるには月追尾でも恒星時追尾でもだめなのです。唯一の救い(?)は、地球影と月との相対位置関係は観測場所によらない…つまり地球のどこで見ても同じタイミング、同じ欠け方で見えること。従って、今のところこの相対位置計算に基づいて配置する方法が一番確実になります。でもその計算も一筋縄では行きません。以前は月食の度にどうやって撮影画像を並べてよいか分からず、影を炙り出すのに四苦八苦していました。でもたくさん勉強して自力で月食図を作れるようになり、撮影時刻のリストを指定しただけでどの位置に月を配置したらいいかも計算できるようになりました。おかげで今回の画像はサクサク作業が進み、しかもかつてないほど地球影の境界がぴったりつながっています。何歳になっても勉強は楽しい。
右は今回用の月食図。月軌道近くまで伸びている地球影中心を原点(赤+印)として、1:20から5:00まで10分おきの月位置が描いてあります。半影/本影の円は一本の線に見えますが、実際は月食の進行に応じて少しずつ直径が変わりますので、たくさんの円の集合が一本に見えているだけです。
このような画像を作ってみたい方が何人いらっしゃるか分かりませんが、参考になるかも知れないので、5分おきに計算した各種数値を記事下表に掲載しておきます。自由にご利用ください。冒頭の連射画像も、右上の月食図も、この数値をもとに構成してあります。時刻以外の数値は全て角度なので、ご自身がお使いの機材で1ピクセルあたり何度に相当するかが分かれば、下表を表計算ソフトにコピペしたあと一律に一定倍するだけで配置するピクセル座標が求まります。表にない時刻の数値は適当な方法で補間して求めてください。計算例は表下部に掲載してあります。
経緯台での撮影など月面が回転してしまっている場合は、予め全ての画像を「天の北が上」になるように向きを揃えてから配置しないと影の向きがメチャクチャになるのでご注意。また、皆既終了以降は月高度がかなり低いため、大気差によって月が変形して計算値より小さくなっていると思います。冒頭画像も最後のころ(画像左上あたり)は1、2%ほど小さかったです。ちなみに冒頭画像はオリジナルスタック画像を縮小せずに配置したため、横幅17000ピクセルもあります…。重たい。
満月期なのに、皆既中はたくさん星が見えて面白い光景(左画像)。夜明け前の静寂がよく似合う皆既月食でした。
次回は2026年3月3日。ひなまつり皆既月食ですね。しし座の後ろ足付近で起こり、本影食開始は18:50:27、皆既最大は20:33:41、本影食終了は22:18:12。サロス番号は133で、1990年2月や1972年1月と同じ系統。食分は1.155で今回よりも浅く、少し小さな満月による月食になります。平日ながら宵の頃から見えて、夜更かししなくてもよい時間に終わりますから、ぜひお子さんやお孫さんと一緒にお楽しみください。
いつもは月食の色調やターコイズフリンジと言ったことばかりに目が行っていたので、今回は地球の影を正確に表現することにこだわって撮影してみました。使用した望遠鏡はSky-WatcherのMAK127のみ。この望遠鏡は焦点距離公称値が1500mmもあって、APS-Cセンサーを接続アダプター付きで繋ぐと更に長くなって「大きい満月」がはみ出してしまいます。今回は裏技を使って1400mm台まで縮め、レデューサー無しで満月を直焦点で収めました。マクストフ系ならではの特技です。余計なレンズを使わないと像がすっきりし、周辺減光も気にならなくていいですね。
2022年12月14日記事にも書いたように、月と地球影の動きは想像以上に複雑で、南中前か南中過ぎかでも変わり(→つまり観測場所によって動きが変わってしまう)、地球の影を掬い上げるには月追尾でも恒星時追尾でもだめなのです。唯一の救い(?)は、地球影と月との相対位置関係は観測場所によらない…つまり地球のどこで見ても同じタイミング、同じ欠け方で見えること。従って、今のところこの相対位置計算に基づいて配置する方法が一番確実になります。でもその計算も一筋縄では行きません。以前は月食の度にどうやって撮影画像を並べてよいか分からず、影を炙り出すのに四苦八苦していました。でもたくさん勉強して自力で月食図を作れるようになり、撮影時刻のリストを指定しただけでどの位置に月を配置したらいいかも計算できるようになりました。おかげで今回の画像はサクサク作業が進み、しかもかつてないほど地球影の境界がぴったりつながっています。何歳になっても勉強は楽しい。
右は今回用の月食図。月軌道近くまで伸びている地球影中心を原点(赤+印)として、1:20から5:00まで10分おきの月位置が描いてあります。半影/本影の円は一本の線に見えますが、実際は月食の進行に応じて少しずつ直径が変わりますので、たくさんの円の集合が一本に見えているだけです。
このような画像を作ってみたい方が何人いらっしゃるか分かりませんが、参考になるかも知れないので、5分おきに計算した各種数値を記事下表に掲載しておきます。自由にご利用ください。冒頭の連射画像も、右上の月食図も、この数値をもとに構成してあります。時刻以外の数値は全て角度なので、ご自身がお使いの機材で1ピクセルあたり何度に相当するかが分かれば、下表を表計算ソフトにコピペしたあと一律に一定倍するだけで配置するピクセル座標が求まります。表にない時刻の数値は適当な方法で補間して求めてください。計算例は表下部に掲載してあります。
経緯台での撮影など月面が回転してしまっている場合は、予め全ての画像を「天の北が上」になるように向きを揃えてから配置しないと影の向きがメチャクチャになるのでご注意。また、皆既終了以降は月高度がかなり低いため、大気差によって月が変形して計算値より小さくなっていると思います。冒頭画像も最後のころ(画像左上あたり)は1、2%ほど小さかったです。ちなみに冒頭画像はオリジナルスタック画像を縮小せずに配置したため、横幅17000ピクセルもあります…。重たい。
満月期なのに、皆既中はたくさん星が見えて面白い光景(左画像)。夜明け前の静寂がよく似合う皆既月食でした。
次回は2026年3月3日。ひなまつり皆既月食ですね。しし座の後ろ足付近で起こり、本影食開始は18:50:27、皆既最大は20:33:41、本影食終了は22:18:12。サロス番号は133で、1990年2月や1972年1月と同じ系統。食分は1.155で今回よりも浅く、少し小さな満月による月食になります。平日ながら宵の頃から見えて、夜更かししなくてもよい時間に終わりますから、ぜひお子さんやお孫さんと一緒にお楽しみください。
【余談】
中川光学研究室ブログの中川さんが月食直前記事に書いておられましたが、今回の本影食直前、暗くなりつつあるあたりにアインシュタイン・クレーターが見えていました(情報元は「月世界への招待」サイト・東田さんの記事)。左画像は欠け始め20分前に撮影したもの。ちょうどこのクレーター付近から欠け始まったので、このあとすぐ見えなくなりました。
皆既中にも目立っていたのがティコやアリスタルコスのような明るいクレーターです。真っ赤になってしまった中でも光条が良く見えていました。これらは三日月のころの地球照の中でも目立ちますので、本当に明るいんだなぁと思います。皆既中の暗い状態でクレーター探しをするのもなかなかマニアックで楽しいですよ。
中川光学研究室ブログの中川さんが月食直前記事に書いておられましたが、今回の本影食直前、暗くなりつつあるあたりにアインシュタイン・クレーターが見えていました(情報元は「月世界への招待」サイト・東田さんの記事)。左画像は欠け始め20分前に撮影したもの。ちょうどこのクレーター付近から欠け始まったので、このあとすぐ見えなくなりました。
皆既中にも目立っていたのがティコやアリスタルコスのような明るいクレーターです。真っ赤になってしまった中でも光条が良く見えていました。これらは三日月のころの地球照の中でも目立ちますので、本当に明るいんだなぁと思います。皆既中の暗い状態でクレーター探しをするのもなかなかマニアックで楽しいですよ。
【2025年9月8日皆既月食の進行数値】※時刻以外は全て度角(arcdeg)が単位
| 時刻(JST) | 半影半径 | 本影半径 | 月半径 | 東西差分 | 南北差分 |
|---|---|---|---|---|---|
| 01:20:00 | 1.26482790 | 0.73545345 | 0.26904863 | -0.78973187 | -0.73515225 |
| 01:25:00 | 1.26486183 | 0.73548692 | 0.26905771 | -0.74911844 | -0.71319781 |
| 01:30:00 | 1.26489572 | 0.73552035 | 0.26906679 | -0.70850270 | -0.69124095 |
| 01:35:00 | 1.26492958 | 0.73555375 | 0.26907586 | -0.66788464 | -0.66928169 |
| 01:40:00 | 1.26496340 | 0.73558711 | 0.26908492 | -0.62726425 | -0.64732004 |
| 01:45:00 | 1.26499719 | 0.73562044 | 0.26909397 | -0.58664153 | -0.62535602 |
| 01:50:00 | 1.26503095 | 0.73565373 | 0.26910301 | -0.54601646 | -0.60338963 |
| 01:55:00 | 1.26506467 | 0.73568699 | 0.26911204 | -0.50538904 | -0.58142090 |
| 02:00:00 | 1.26509836 | 0.73572022 | 0.26912106 | -0.46475926 | -0.55944983 |
| 02:05:00 | 1.26513201 | 0.73575341 | 0.26913007 | -0.42412710 | -0.53747643 |
| 02:10:00 | 1.26516563 | 0.73578657 | 0.26913907 | -0.38349257 | -0.51550073 |
| 02:15:00 | 1.26519921 | 0.73581969 | 0.26914807 | -0.34285565 | -0.49352273 |
| 02:20:00 | 1.26523276 | 0.73585278 | 0.26915705 | -0.30221633 | -0.47154245 |
| 02:25:00 | 1.26526627 | 0.73588583 | 0.26916603 | -0.26157460 | -0.44955990 |
| 02:30:00 | 1.26529975 | 0.73591885 | 0.26917499 | -0.22093046 | -0.42757510 |
| 02:35:00 | 1.26533320 | 0.73595183 | 0.26918395 | -0.18028389 | -0.40558805 |
| 02:40:00 | 1.26536661 | 0.73598478 | 0.26919289 | -0.13963489 | -0.38359877 |
| 02:45:00 | 1.26539998 | 0.73601770 | 0.26920183 | -0.09898345 | -0.36160728 |
| 02:50:00 | 1.26543332 | 0.73605058 | 0.26921076 | -0.05832956 | -0.33961358 |
| 02:55:00 | 1.26546663 | 0.73608342 | 0.26921968 | -0.01767321 | -0.31761769 |
| 03:00:00 | 1.26549990 | 0.73611623 | 0.26922859 | 0.02298561 | -0.29561963 |
| 03:05:00 | 1.26553313 | 0.73614901 | 0.26923749 | 0.06364691 | -0.27361941 |
| 03:10:00 | 1.26556634 | 0.73618175 | 0.26924638 | 0.10431069 | -0.25161704 |
| 03:15:00 | 1.26559950 | 0.73621445 | 0.26925526 | 0.14497696 | -0.22961253 |
| 03:20:00 | 1.26563263 | 0.73624713 | 0.26926413 | 0.18564574 | -0.20760589 |
| 03:25:00 | 1.26566573 | 0.73627976 | 0.26927299 | 0.22631703 | -0.18559715 |
| 03:30:00 | 1.26569879 | 0.73631236 | 0.26928185 | 0.26699085 | -0.16358632 |
| 03:35:00 | 1.26573182 | 0.73634493 | 0.26929069 | 0.30766719 | -0.14157340 |
| 03:40:00 | 1.26576481 | 0.73637746 | 0.26929953 | 0.34834607 | -0.11955841 |
| 03:45:00 | 1.26579777 | 0.73640995 | 0.26930835 | 0.38902750 | -0.09754136 |
| 03:50:00 | 1.26583069 | 0.73644242 | 0.26931716 | 0.42971149 | -0.07552228 |
| 03:55:00 | 1.26586358 | 0.73647484 | 0.26932597 | 0.47039804 | -0.05350116 |
| 04:00:00 | 1.26589643 | 0.73650723 | 0.26933477 | 0.51108717 | -0.03147803 |
| 04:05:00 | 1.26592924 | 0.73653959 | 0.26934355 | 0.55177888 | -0.00945290 |
| 04:10:00 | 1.26596202 | 0.73657191 | 0.26935233 | 0.59247318 | 0.01257422 |
| 04:15:00 | 1.26599477 | 0.73660419 | 0.26936110 | 0.63317008 | 0.03460332 |
| 04:20:00 | 1.26602748 | 0.73663644 | 0.26936986 | 0.67386959 | 0.05663437 |
| 04:25:00 | 1.26606015 | 0.73666865 | 0.26937860 | 0.71457172 | 0.07866738 |
| 04:30:00 | 1.26609279 | 0.73670083 | 0.26938734 | 0.75527648 | 0.10070232 |
| 04:35:00 | 1.26612540 | 0.73673297 | 0.26939607 | 0.79598388 | 0.12273918 |
| 04:40:00 | 1.26615797 | 0.73676508 | 0.26940479 | 0.83669392 | 0.14477795 |
| 04:45:00 | 1.26619050 | 0.73679715 | 0.26941350 | 0.87740661 | 0.16681861 |
| 04:50:00 | 1.26622300 | 0.73682919 | 0.26942220 | 0.91812197 | 0.18886116 |
| 04:55:00 | 1.26625546 | 0.73686119 | 0.26943090 | 0.95884000 | 0.21090557 |
| 05:00:00 | 1.26628788 | 0.73689316 | 0.26943958 | 0.99956071 | 0.23295183 |
| 05:05:00 | 1.26632028 | 0.73692509 | 0.26944825 | 1.04028411 | 0.25499994 |
| 時刻(JST) | 半影半径 | 本影半径 | 月半径 | 東西差分 | 南北差分 |
- 自作プログラムによる計算です。天体実直径や大気の厚さによる影のブレ量設定などの差により、数値が他の資料などと若干異なることがあります。
- 東西差分と南北差分は、赤道座標の東西南北方向を基準とした地球影中心と月面中心の差分です。単純な赤経差・赤緯差ではないのでご注意。
- 東西は通常の赤経に合わせてEast(Left) Positiveです。学校で習うXY座標のグラフと左右の向きが反対なのでご注意。
- 厳密には観測場所が異なると各半径に微小な違いが出ますが、1ピクセルの違いも許さない高精度でもない限り、ほとんどの画像で問題にならないと思われます。
【計算例】
3.76μmピッチセンサーを1000mmの望遠鏡に付けると1pxあたりの画角はおよそ0.7755秒角になります。
この光学系で今回の月食を2:00に撮ると、上表から
ということで、直径2499pxくらいに写っているはずです。(3600を掛けることで「度角」の単位を「秒角」に揃えています。)この計算で「3600÷ピクセル画角」は全ての変換に共通な定数になりますから、表全体に掛け算することによって単位をピクセル量に変換できるわけです。これにより2:00の本影直径は約6831px、東西差分はマイナス2157px、南北差分はマイナス2597pxなどと分かります。(※半径と直径とを混同しないようにしてください。)
大きな画像を用意し、適当に原点を設定、そこから右へ2157px、下へ2597pxずらしたところを中心に直径2499pxの円を描き、それをガイドラインとして2:00撮影の月画像を置けば配置完了です。くどいですが必ず配置前に月を「上方向が天の北」になるよう回転させてください。(撮影時に赤道儀で上北にして撮ってた方はそのまま使えて大勝利。)赤道儀でも厳密に極軸合わせしてない方は、最初と最後で若干画像回転してる可能性が大きいです。
3.76μmピッチセンサーを1000mmの望遠鏡に付けると1pxあたりの画角はおよそ0.7755秒角になります。
ピクセル画角 = ATAN( ピクセルピッチ ÷ 焦点距離 ) ※単位を揃えよう
= ATAN ( 0.00376 ÷ 1000 )
= 0.00000376 ラジアン
= 0.000215432 度角 ※ 度角 = ラジアン × 180 ÷ π
= 0.775555671 秒角 ※ 秒角 = 度角 × 3600
= ATAN ( 0.00376 ÷ 1000 )
= 0.00000376 ラジアン
= 0.000215432 度角 ※ 度角 = ラジアン × 180 ÷ π
= 0.775555671 秒角 ※ 秒角 = 度角 × 3600
この光学系で今回の月食を2:00に撮ると、上表から
月半径のピクセル数 = 0.26912106 × 3600 ÷ 0.7755 = 1249.30
ということで、直径2499pxくらいに写っているはずです。(3600を掛けることで「度角」の単位を「秒角」に揃えています。)この計算で「3600÷ピクセル画角」は全ての変換に共通な定数になりますから、表全体に掛け算することによって単位をピクセル量に変換できるわけです。これにより2:00の本影直径は約6831px、東西差分はマイナス2157px、南北差分はマイナス2597pxなどと分かります。(※半径と直径とを混同しないようにしてください。)
大きな画像を用意し、適当に原点を設定、そこから右へ2157px、下へ2597pxずらしたところを中心に直径2499pxの円を描き、それをガイドラインとして2:00撮影の月画像を置けば配置完了です。くどいですが必ず配置前に月を「上方向が天の北」になるよう回転させてください。(撮影時に赤道儀で上北にして撮ってた方はそのまま使えて大勝利。)赤道儀でも厳密に極軸合わせしてない方は、最初と最後で若干画像回転してる可能性が大きいです。





