水平月あれこれ2026/04/17

20260320水平月・愛知
宵空に水平月が見えるシーズンが到来しています。明日4月18日は該当日。一部で逆転月も観ることができるでしょう。詳細は2026年3月6日記事をどうぞ。

細い月の弦(尖った部分を結ぶ線)が水平になるのが水平月。細月がいつも水平になるわけではなく、緩やかな周期を持って夕方と明け方を行ったり来たりします。また、日本から見える時期が限られる季節変動もあります。だからこその希少性。このような主旨の記事を「月刊星ナビ」2026年5月号に書かせていただきました。当ブログでも度々取りあげています。

左は3月20日宵の水平月と金星。愛知県名古屋市の毛利勝廣さんのご厚意で掲載させていただきました。暮れ行く空にやっと見えてきた雰囲気が素敵です。人によって差はあると思いますが、私は「貴重だなぁ」よりもまず「美しいなぁ」が先に気持ちを占めてしまいます。希少かどうかは理屈を深く知らなければ分かりません。思考の根底が単純なのだと思います。

まぁそんなことはさておき、星ナビ誌面では字数の関係で深入りできなかったことをいくつか書き留めておこうと思います。

★画像の水平をどう担保するか
20260320水平月・愛知
右も同じ毛利さんが撮影されたもので、最初の画像より少し時間が経って地球照まで見えています。薄暮が弱まる程度の高度があるケースでは少しだけ露出を伸ばせますから、地球照だけでなく周囲の恒星なども写せるでしょう。実はこれがとても大事なんです。「目印がほとんどない水平月で、いかに水平を担保するか」は、周囲の星々との位置関係か、または月自身の地形に頼るしかありません。拡大すればするほど水平出しがシビアになります。また視認高度が低いほど、あるいは気象条件の悪化によっては恒星どころか地球照さえ写らないまま沈んでしまうことも「細月あるある」です。

カメラや三脚の水準器も良いのですが、精度はせいぜいプラスマイナス1°。これを誤差にしてしまうかどうかは目的や美意識によるでしょう。右画像の原画では少なくとも金星と恒星二つがしっかり写っていました。撮影場所と恒星位置の情報によって、この画像は水平よりも約0.3°左回りに回転していると分かりました。ただしレンズのディストーション補正がどの程度入っているかまでは分かりません。(※星像が最終画像のどこに写っているかはこの補正の有無で大きく変わります。)また、画像はプライバシー保護の観点から一部トリミングされていますので、画像中心≒光軸中心が分からず、従って歪曲の中心も分からないため、トリミング画像のまま補正を検証することはできません。歪みや投影像に関してはそれだけで専門書が書けるくらい奥が深いため、興味があったら勉強してみてください。

★騙されやすい見かけの弦傾斜
20260320水平月・愛知
左は更に拡大した画像。かなりはっきり月の模様が分かりますが、今度は周囲の恒星が写っていないため、模様とかクレーター位置だけが水平を見定める唯一の証拠になるでしょう。ここで陥りがちなのが「見かけの弦」です。弦とは光っている部分の最先端(カスプ)を結んだ線、と冒頭に書きました。実際に観察すると、輝面が尖った部分を結んでも計算上のカスプと合わないのです。左画像で言うと、見た目で光ってる先端を結んだのが水色線、対して計算上のカスプを結んだ線は緑線。緑線は月の位相に関わらず、また水平月かどうかに関係なく、必ず月中心を通ります。

このずれの原因は「細月は逆光で観察してる状態」だから。カスプ付近には山や谷がたくさんあり、照らされている面を背後の山々が隠してしまうんです。順光ならそんなことはまずありませんが、細月の場合は見かけのカスプが途切れがち。まぁどこまで光ってるか辿るのも面白いのですけれど。従って、正確な弦を「見た目」で判断すると「水平月が見える位置なのに水平じゃないやん!」てなことが起こります。あくまで水平月の日にち・場所の予報は「計算上のカスプ・弦」に対するものだということをお忘れなく。なお低空では大気差によるカスプ位置の変化が考えられますが、水平月の場合は両カスプとも同じだけシフトするため、水平であることに変わりはありません。(※水平でない場合の弦傾斜は変わってきます。)

★逆転月って何が起こってる?
20260418緯度の違いによる細月の見え方
普段は光ってない方向から照らされた細い月のことを、当サイトでは「逆転月」と呼んできました。これは専門用語、学術用語ではなく、単なる造語です。星ナビ2022年10月号では「弦の左右反転」、今回の2026年5月号では「左右逆月」と、表現が変わっています。いずれも著者・編集部とで議論がありました。どれが正解と言うことはなく、どれも違う気もしています。

反転や逆転、裏返し、英語ならreflectとかreverseが使われるのでしょう。逆に、reflectと聞くと(私は)鏡像、reverseなら裏像を想像します。ですが実際に細月を色々な緯度で観察したなら、鏡像でも裏像でもないことに気付くでしょう。右図はStellariumによる4月18日の水平月シミュレーション。右上の日本経緯度原点でほぼ水平月。これに対して同じ経度上の、緯度が25°ずつ異なる三ヶ所で見たものを比べてみてください。光っているところはどうなっていますか?(※南緯15°だけ赤っぽいのは、日没直後だからです。)

どっちがどっち?
もうひとつ、明け方の水平月と宵の水平月、区別がつきますか?ここでこっそり裏返っているなんてこと、ある?ない?左は模様をぼかして朝夕を並べた図。実際に関東で見えた水平月の日をStellariumで再現しています。とちらが朝なのか、10秒のうちに答えてください。10秒たったら模様がはっきりしてる画像に切り替わります。模様慣れしてない方は朝夕の向きの区別が難しいかも知れません。大事なのは朝夕の区別ではなくて、模様がどうなっているか、です。

そう、月面模様が裏返ることは絶対に起きません。光っているところの方向が右下だったり左下だったりとするのは「月面が(地面に対して)回転している」からです。意図的に地球照の模様が見やすくしているのでオモテウラが分かり易いでしょう。これは英語ならrollとかrotateですよね。模様も光ってる場所も全部ひっくるめて月全体が回ってるだけなんです。回転月?すし屋みたい?日本語でうまく言い表すことができるでしょうか。皆様のご意見をお寄せください。実際の極細月では地球照がはっきり見える前に沈んでしまうため、冒頭の毛利さんのような地球照内の模様付き写真が撮れるとは限らないので、光っている部分だけ見て裏返った(鏡像になった)と見誤るのかも知れません。

登る三つ星の傾き
この理屈は星座で考えると分かり易くなるでしょう。例えば私が生まれ育った茨城県の真ん中辺ではオリオン座の三つ星が驚くほど垂直を保って登ります。星に興味を持って10年以上そのような空を見続けたので「三つ星は縦並びに登る」と体に刻まれてしまいました。大人になって石狩川のほとりから見た登るオリオンや那覇市内から見た低い時間の三つ星に強烈な違和感を覚えました(右図)。小さいころに繰り返し染みついた感覚はこんなわずかな差も見つけてしまうのです。

もちろん星座の配置は古来から変わりません。南半球に行けば逆さのオリオン座やさそり座を見ることができます。これは恒星配置が変わったのでもなければ、鏡像や裏像になったのでもない。空の中で(地面に対して)回転しただけ。首を傾げたのと一緒です。逆転月も同様に、場所に応じて回転した月を見てるに過ぎず、月そのものや太陽との位置関係は全く変わりません。

★水平月は日本でしか見えないのか
以前からオンシーズンのたびに水平月マップを公開してきました。この地図をもっと広範囲・長期間にしたらどうなるんだろうと興味があったのですが、なかなか実現できずにいました。良い機会ですので作ってみました(※今回は宵側のみです)。下は2018年から2038年まで4年ごと、新月日(月が太陽に近すぎる場合は翌日)の日没後、月高度が5°における水平月ラインを描いたもの。その日、ライン上では水平月が見えるのです。1年間でラインがどう動くのか、日本で水平月オンシーズン・オフシーズンと言ってるけど、世界的には年が経つとどう分布変化するのか、一目瞭然です。

今期は2024年ごろから日本域にラインが入り、2028-2030年ごろがピーク(ラインが最も北寄り)です。2018年や2038年の細月は日本で全く水平にならず、全てかなり傾斜し、その傾斜角は季節によらず大きく変化しないという特徴が見られます。また日本で見える時期も、2026年では仲春〜晩春なのに、2030年は晩冬〜仲春、2034年は冬のイベント…という具合にドリフトしていることが分かるでしょう。「日本では春に水平月」と固定して覚えないようにしてください。

赤道付近では年に関わらず年間2回以上見えるのですね。また、オーストラリア最南部やニュージーランドでは日本並みに珍しいことも分かります。もちろんこの地図に載っていない地域も、同緯度なら同じ傾向でしょう。(※日本の裏側を地図から省いたのは、日本時間区切りだと日付が変わってしまう理由によります。)

まだまだ深掘りすると面白いことが出てきそうな水平月イベントのお話でした。記事末の緯度のお話も一緒にどうぞ。

  • 2018年・宵の水平月ライン

    A.2018年・宵の水平月ライン
  • 2022年・宵の水平月ライン

    B.2022年・宵の水平月ライン
  • 2026年・宵の水平月ライン

    C.2026年・宵の水平月ライン


  • 2030年・宵の水平月ライン

    D.2030年・宵の水平月ライン
  • 2034年・宵の水平月ライン

    E.2034年・宵の水平月ライン
  • 2038年・宵の水平月ライン

    F.2038年・宵の水平月ライン


【地心緯度と地理緯度】
逆転月、もとい、回転月とは「自分がいる緯度に応じて対象天体の向きが(地面に対して)回転した様に見える」こと。考えてみれば当たり前で、北極点に立てば真上が天の北、南極点ならひっくり返って天の南になりますよね。全ての人は違う天頂を見ています。だから月だけでなくあらゆる対象が場所、特に緯度に応じて回転します。(※経度方向のズレは日周方向のズレ=時角の差に結びつきます。)ここでいつも問題になるのが「緯度」とは何を指すかということ。多くの方のイメージはおそらく下G図の「地心緯度」を緯度と考えていませんか?でも地図から読み取った緯度はほぼ例外なく「地理緯度」のこと。G図は極端な楕円体の例だけれど、球に近い地球でも下H図の通り、両者は日本付近で南北に10〜11分角ほど異なるのです。同じ値の地心緯度、地理緯度では場所も天頂方向も地平面も全く違うんです。

1分角は海上で距離や速さを測るのに使われるノットの単位(1knot=1.852km)に使われていますから、地図から測った緯度を誤って地心緯度として計算してしまうと、日本付近では北へ11ノット=20km程度もずれた地点の計算をしてしまうことになるでしょう。そうなると水平月じゃなかった、とか、皆既日食にならなかった、という間違いが起こってしまうわけです。

コアな天文ファンであっても現象を自力で計算したり、天文年表などが本当に正しいか検証することは極めて少ないと思いますが、予報を立てる側に立ってみると苦労が分かります。観測地の扱いは時間の扱いと共にかなり厄介。かの天文計算大御所の中野主一さんが昭和の時代に出版された「マイコン天文学」でも、地理緯度と地心緯度の違いが最初のほうに書かれていました。この違い、頭の片隅に入れておいてください。

  • 地心緯度と地理緯度

    G.地心緯度と地理緯度とは?
  • 地心緯度と地理緯度の差

    H.地心緯度と地理緯度の差



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