「金星が一番明るいのはいつ?」問題2023/07/06

20230706金星
★金星がいちばん明るい日はいつ?何等?
2022年2月8日記事の冒頭で次のような質問をしました。ひとサイクル経ったので、また同じ質問をします。みなさんが普段の星空観察で参考にする資料や天文カレンダーを調べてみてください。可能なら複数のメディア情報を比較してみましょう。

2023年7月と9月に起こる「金星がいちばん明るい日」はいつですか?また、そのとき何等に達しますか?

左画像はもうすぐ今期一番明るくなる金星。7月6日14時過ぎ、青空の中での撮影で、地心計算による太陽離角は約39.46°、輝面比は約27.14%、視直径は約36.85″。画像上方向が天の北方向です。

天文年鑑(2023年版)には「最大光度」の名目で次のように書いてありました。
  • 2023年7月7日 22:50、マイナス4.7等
  • 2023年9月19日 23:11、マイナス4.8等

アストロアーツweb内の星空ガイドでは同じく「最大光度」の名目で下記の通り。
  • 2023年7月10日 2:59、マイナス4.5等
  • 2023年9月18日 21:19、マイナス4.5等

国立天文台・暦計算室ではやはり同じく「最大光度」の名目で以下のように示されます。
  • 2023年7月7日 23時、マイナス4.7等
  • 2023年9月19日 23時、マイナス4.8等

時刻の四捨五入による表現の差をのぞけば、天文年鑑と国立天文台の情報は一致していますね。いっぽうアストロアーツwebは日付も等級も合っていません。以前紹介した国立天文台の「惑星の明るさの計算方法が変わりました」という記事のとおり、現在は惑星光度式が新方式になっていますが、上記のアストロアーツwebを含め未だに旧方式での計算と思われる情報を見かけます。海外サイトでも、例えば有名なIn-The-Sky.orgの金星ガイドで2023年夏期を調べると、Events欄のVenus at greatest brightnessが「10 Jul 2023」と「18 Sep 2023」になってます。新計算方式の論文は2018年発表ですから5年ほど経ちますが、なかなか浸透しませんね。


★いまだに混在する最大光輝と最大光度
観測日時を決めると太陽(光源)・地球(観測者)・惑星の位置関係が決まりますから、一般に惑星の明るさは「時刻の関数」として扱われます。前述の光度式とは「光源に近いほど明るい」「観測者に近いほど明るい」「照らされている面積が広いほど明るい」といった基本要素だけでなく、衝効果や、太陽至近での特殊な光度変化まで加味されています。

金星の輝面積と太陽黄経差の変化
この「光度式」が示す極大こそ本来の「最大光度」なのですが、特に金星ではこれと別に「最大光輝」…つまり光っている面積が極大を迎える、という意味での“一番明るい日時”が伝統的に使われることも多いです。輝面積を求めるのは光度計算式の新旧と全く別のことで、面積極大のとき最大光度になるとは限りません。最大光輝と最大光度の日時は(近いけれど)ずれがあります。

最大光輝と最大等級がどんな関係か示すため作った前期の図を、今期の内合(2023年8月13日)を挟む前回外合から次回外合までに置き換えて図化してみました(右図/→参考論文)。金星アイコンは5日おきです。最大光度は最大光輝より若干太陽側で起っています。当記事では日本語を分け、面積が極大の場合は最大光輝(Greatest Brilliancy)、光度式が極大の場合は最大光度(Maximum Brightness)として区別します。

前期の図と比べると極大期の輝面積がかなり小さくなっていることが分かるでしょう。これが前期と今期の最大光輝(最大光度)の差につながる訳です。同じような現象、同じような形であっても、各周期ごとの最大光輝面積まで比較した経験がある星好きさんは少ないでしょうネ。ちなみに1900年から2100年までの全ての最大光輝を調べると、視直径が一番小さいのは1924年5月のケース、一番大きいのは2013年12月のケースでした。それぞれ模式図化したのが左下図。こんなにも違うんです。

最大光輝における金星の大きさ比較
最大光輝と最大光度について、2022年2月8日記事から抜粋して2020-2025年に起こる“一番明るい日時”を下表に掲載しました。これによると、前述の「暦計算室」と「天文年鑑」はいずれも新しい計算式による最大光輝と等級(注:本来の最大光度ではない)、アストロアーツwebは古い計算式による最大光度と等級を掲載していることが分かります。本来の新光度式でのピーク:7月12日や9月15日を掲載したサイトや情報誌などは1件も見つかりませんでした。より正しい情報表現はどれか考えると「どれを採用しても間違いではない」とはいかないので、けっこう異常な事態と感じます。みなさんはいかがでしょう?

世の中の風潮が「最大光輝」のことを「最大光度」と称して提示するケースが多数派になってしまったので厄介です。国立の主幹研究部門が光輝と光度を混在させてることに納得いきません。混在させるならせめて名称変えてほしい…。ふたつをゴッチャにすると新方式になった計算の示すピークが意味を為さなくなってしまうからです。たとえば前出例だと「天文年鑑に7月7日22:50に最大光度と書いてあるので新方式で計算したらマイナス4.701等だった。なのに5日後同時刻を計算したらマイナス4.714等と更に明るい。どういうこと?」と矛盾が生じてしまうのです。何にせよ参照する際はできるだけ新方式に添ったソースかどうかしっかり確認するのが賢明ですね。

【金星が一番明るいとき】
最大光輝日時
(JST)
光度
(新方式)
光度
(旧方式)
視直径
(秒角)
最大光度日時
(新方式/JST)
光度
(新方式)
視直径
(秒角)
最大光度日時
(旧方式/JST)
光度
(旧方式)
視直径
(秒角)
2020-04-28 03:21-4.743-4.51836.9332020-05-02 17:51-4.75339.7372020-04-28 23:34-4.51837.425
2020-07-10 16:44-4.705-4.47737.1042020-07-05 21:43-4.71740.0542020-07-08 21:01-4.47838.191
2021-12-04 23:18-4.899-4.66641.0882021-12-09 19:49-4.91344.4912021-12-08 01:16-4.67043.211
2022-02-13 03:33-4.878-4.64440.5292022-02-08 05:00-4.89243.9752022-02-09 22:48-4.64842.722
2023-07-07 22:50-4.701-4.47237.0612023-07-12 23:43-4.71440.1762023-07-10 02:59-4.47438.367
2023-09-19 23:11-4.769-4.54337.6952023-09-15 04:47-4.78040.5542023-09-18 21:19-4.54438.318
2025-02-15 08:31-4.863-4.63539.2092025-02-19 21:47-4.87342.0942025-02-16 18:07-4.63640.069
2025-04-27 19:16-4.765-4.53338.6342025-04-22 16:56-4.77941.9782025-04-24 15:10-4.53640.676

  • 自作プログラムによる計算です。
  • 「最大光輝」は「照らされている面積が極大になる日時、およびそのときの光度(新方式と旧方式)と視直径」を求めています。
  • 「最大光度」は「等級計算式が極大になる日時、およびそのときの光度と視直径」を、新方式と旧方式それぞれに分けて求めています。
  • 光度は四捨五入の影響を見るために少数以下3桁まで表示しています。アマチュアレベルの観察でここまで細かな数値は必要ありません。


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