リザルト・シェア構想(その2)2025/06/17

Keyhole Nebula - Hubble 1999 前回の記事のあと、少し考えを深めてみました。忘れないよう書き留めておきます。

リザルトシェアの考え方として、ひとつに「相乗り」または「割り勘」という一面があります。リモート天文台企画段階で出てしかるべき発想で、大きな天文台や宇宙望遠鏡の設立やデータ利用では一般的かと思います。多くの人が興味を持つ撮影対象は多岐にわたるけれどテレスコープタイム(以下、TT)が限られるため、時間と予算を相乗りすることで有効活用できます。

例えば対象A・B・Cを四人の別々の人が各々1時間ずつ撮ると、3対象×4人×1時間=12時間のTTが消費されます。その間は他の人が割り込めません。でも四人が相乗りしたらトータル3時間で済み、余った時間を他の人の撮影に回せます。時間使用料が変わらないなら、撮影した四人の代金はひとりあたり1/4で済みます。TTを奪い合う状態では運営側の収入も変わらないし、何より多くの人が多くの天体データを手に入れることができるでしょう。

リコリモに限って言うと、この方法を運営側が制限しないなら現在の体制でも実現可能ですね。撮影予約する天体をひとつ選んで、前もって相乗り(割り勘)仲間を予約者が募るだけですから。

有限のTTに対して天体は無限にあるのだから損益は現在とほとんど一緒と思われます。そして(ここからが重要ですが)、相乗り撮影を認めることで料金を少し下げ、財布の紐が堅かった層を取り込み、天文台の稼働率を高い状態に保つことができれば運営もユーザーもwin-win。団体旅行のごとく「最小催行人数」を決め、一人当たりの料金を今より割安の定額にして相乗り数を増やせば、収入増につながる可能性もあるでしょう。「TTは一名限定、予約制、データ譲渡は不可」と固めてしまうよりずっと柔軟です。

もうひとつ、ここまで「リザルト」と言ってきたのは撮影直後の生データであって、美しく仕上がった天体画像ではありません。観測派の私としては、ノンリニアストレッチという名の盛りつけが済んだ豪華ディナーは絵に描いた餅に過ぎず、採れたての食材そのものが重要。過去のその写野に現れた新星や超新星、あるいは近年発見が進んでいる「新たな星雲や暗黒帯」の状態を直接測定できるかどうかがカギです。白黒センサー+色フィルターでひとつの天体を撮っているなら、それは荒いながらもスペクトル分析に他なりません。毎年同じ天体を撮るなら、大雑把でも波長ごとの経年動向を追えるのです。

アマチュアなのに天文学の一端を垣間見ることができる…こんなに素晴らしいことは無いでしょう。一見して際立った特徴と思えないようなところに、このビジネスと研究利用の両立が潜んでいます。一般の相乗りとは別に、高校や大学単位で利用ルールを作って生データをシェアできたら、様々な応用展開が可能となるでしょう。スターキャッチ・リモート版みたいな合同イベントだってできるんじゃないでしょうか。

リコリモ中の人のKさんがnoteにて「一人ひとりの宇宙体験」が重要と語っており、私もまったく同意です。加えて前述のように「みんなで観ようよ」というのも追加したいのです。「超豪華天体画像」を個別に売るようなつもりでいたら、いずれ立ち行かなくなると思われます。旅行の面白さは自由行動や陶芸・蕎麦打ち等の予測不能な体験に詰まっているように、苦労せず完成された画像が手に入るだけでは満足できない人のほうが多いと思うのです。天文ファンでない人は、完成された綺麗な天体画像を見ても3枚でお腹いっぱい。自分の思考や経験が入る余地=撮影や観測したという実感をどこまで残すかですね。

きっかけがなければ何も始まりませんし、旅行記(撮影データ)が手元に残れば振り返りに彩りを添えるでしょう。そして、多人数で観ることで、見逃しているところや自分と違う考え・感じ方にも気付けます。もちろん一人でじっくり楽しむのもひとつの方法。団体旅行か、個人旅行かの選択に優劣はありません。

誰もが我先に目新しい天体を撮りたがり、お金を抛って撮ったものや時間をかけて画像処理したものを「自分のもの」と主張して、貴重さ、速報性、芸の細かさなどを他人との差別化に利用する気持ちはよく分かります。個人主義の原点ですからね。それを悪いこととは思いません。ただ、そうまで苦労して撮ったのに、あとに残った貴重な生データが本人以外に利用されることも無いまま破棄されるのがもったいないと思うわけです。今はひとつの方向性にとらわれて善し悪しを決めてしまうよりも、頭を柔らかくしてメリットを探り、夢や構想を練ってゆけば良いかと思います。

久しぶりの土星とタイタンの影のこと2025/06/17

20250617土星
昨夜から今朝にかけて久しぶりに晴れ間がありました。夜半までは雲が多めでしたが、夏の大三角が頭上にかかる頃から朝までは薄雲のみ。本当に久しぶりに仰ぐ星々です。下弦前の月が南の空を飾っていました。

明け方の土星は随分高くなって、高度30度を越す辺りから撮影を始めても余裕で30分は確保できます。望遠鏡に導入したら、本体のすぐ上にミニハットのようなタイタンが。左画像で北側少し右寄りの赤茶の暗い星がそうです。偶然とは言えかわいらしい。シーイングはやや悪かったけれど、高度の有意さに助けられました。

タイタンは軌道傾斜が約0.3°と小さく、ほぼ土星の環の面を回っています。ただ、軌道長半径が120万km以上離れており、今年のように環の面に太陽がないとタイタンの影は土星本体に投影されず、南北にずれてしまいます。

20250616-2000JST土星byStellarium
ちょうど昨夜20時JSTごろに影が通過していました(右図/Stellariumによる)。もちろん日本からは見えません。以前、2024年11月24日記事にも書きましたが、不思議なことに、タイタンの影の土星面通過は前後の環の消失期を含めて計算しても日本から見えるタイミングになりません。偶然にしては意地悪過ぎる星々のサイクルです。

Sky & Telescopeのweb記事に、お馴染みBob Kingさんによる解説やタイムテーブルが掲載されているほか、AstroBinなどで「Titan shadow」と検索すると、去年から今年にかけて撮影された画像がいくつも見つかります。撮ってみたいけれど、このためだけに地球の裏側へ行くのもなぁ…。

今日の太陽2025/06/17

20250617太陽
朝から少し雲が流れているものの、よく晴れています。今年初の熱中症警戒アラートが発令されました。関東は千葉と茨城だけです。近くのアメダスは気温34.3度まで上昇。気象庁アメダス速報値の本日0時から15時までの集計による夏日地点数は797、真夏日地点数は535、猛暑日地点数は62、酷暑日地点数は0、国内最高気温は山梨県甲府ポイントの38.2度。

20250617太陽リム
左は13:20過ぎの太陽。活動領域14114の大きな黒点は中央に達し、太陽観察メガネ越しに肉眼で見えました。プラージュも広くて明るいですね。左上のプロミネンスから続くダークフィラメントが立体的で素敵です。小さいながらあちこちにプロミネンスが生えています。