リザルト・シェア構想(by天リフ山口さん)について ― 2025/06/14
6月5日および6月13日の天リフ・作業配信で山口さんがおっしゃっていた「リコリモのリザルトをシェアする構想」に深く共感しました。これからの天文趣味、観測や一般普及のあり方を試行錯誤する上で重要と思い、記事に残します。構想の要点は次の通りです。(以下はリコリモに限らないので、枠組みを外しています。)
といった感じです。もちろん個々人が自分の機材で撮影する現状を否定するものではなく、共存共栄できます。また考え方は誰にも強制しません。
実はこれ、フィルム時代から私がずっと主張してきたことで、実際に自分の周囲で積極的に実践してきました。天文や自然科学関連の業界に長くご縁があったので、写真に限らず、観測データ、機材、ノウハウなど可能な限り貸し借りするスタンスを今も貫いてます。必要経費以外は原則無償。運用上で機器が壊れたり怪我を負う可能性があるなら保険に入ったこともありました。
もうひとつ古くからの事例を挙げると、学生時代から一緒に天文活動してきた吉田誠一氏が考案したMISAOプロジェクトでは、「世界中で撮影されたアマチュアの天体写真を提供してもらい、新天体発見や追跡観測に有効活用すること」を目的にしています。言い方は悪いけれど、個人撮影の天体写真は当人の自己満足に留まっていてもったいない。それらを世界的に繋げてみれば立派な捜索網・観測網になるじゃないか、という考えですね。画像提供者が多いほど強固になるのですが、根底には「撮影画像を個人に留めないで解放しませんか」という思想があるわけです。無論、今の学習型AIのように同意無くネットから天体画像を集めてしまうのではなくて、各個人のご厚意の元で吉田くんが画像管理するのは言うまでもありません。
これらは、NASAやNOAA、ESAなどが観測画像やデータを広く世間に利用できる体制をとっていることにも通じる考え方です。探査機画像などは巨額の資本や多彩な頭脳、何十年も積み重ねた経験が無ければ得られないもの。一般庶民が「ちょっと木星に寄ってオーロラ撮ってくるよ」なんて一生かかってもできません。だから、そうした成果物を「人類共通の宝物」として無償提供してもらえるのはとてもありがたく、そこから新たな成果(天文に限らない)が得られるかも知れない。生データをもとに、宇宙と無関係だった人々まで巻き込んで新しいレシピを考案できる素地を作っておくのは、マイナス面よりプラスのほうが多いでしょう。これはオープンソースでソフトウェアを構築したり、Wikipedia等に取り入れられているクリエイティブコモンズの精神と同等ですね。
前述した山口さんの「リザルトシェア構想」もベースは同じと思いました。配信では「いま天文界隈で流行りの星野や銀河」を前提とした利用しか語られませんでしたが、これは太陽、月、惑星でも応用できますね。むしろそちらのほうが変化があるし、日々継続撮影する意味も深まります。(※私の夢は「世界中で月面リモート撮影・24時間監視態勢」なのです。)
繰り返しますが、個々人で撮影旅行や雑誌入選を目標に楽しみたいなら今まで通りにすれば良い。だけど、その先に天文活動の本当の醍醐味があると個人的に思っているので、撮影で画像やノウハウを得ることはゴールじゃなくてスタートと考えてます。しかしながら現状は、その“スタート地点”に立つために自力でお金ためて車より高価な機材買って遠方に旅行して何年も武者修行して…とやっているうちに10年、20年が経過してしまい、「もうここがゴールでいいよね」という天文老人会の風潮が固まってしまったように感じられ、残念に思うのです。
誤解を恐れず言えば、今の個人主義的天体写真は「財力自慢」とか「仕上げ方を競うパソコン技能マウント合戦」の様相を呈しています。天文の個人活動は極端な話、高価な機材を用意する経済力や撮影時間確保は人生の運(努力)で決まるし、晴れ間や好シーイングに恵まれるかどうかは自然の運で決まるので、一定レベルのリザルトが得られるかどうかは運次第。その先で更にPC技能が未熟だと土俵にも上がれない雰囲気が待ちかまえているのでは、バクチ要素やリスクが大き過ぎて、天文に興味が無い人まで巻き込めるほどのムーブメントは起きないでしょう。スマート望遠鏡はひとつの打開策に思えるけれど、まだまだ高い敷き居と思います。もしこのまま温暖湿潤が続いて日本の晴天率や透明度が半分に落ちた場合、冴えない夜空のためにどれだけの人(特に若い世代)がこの趣味や観測研究にお金を落とすのか考えてみてください。これ、数十年内に十分起こり得る未来ですよ。高い結像性能の望遠鏡を高価で売る時代は終わりつつあるように思えます。
本来人間として時間や頭を使うべきは「修行編」じゃなくて、天体を楽しむ新たな切り口を探したり、長年こつこつ観察記録をためて、誰も気付かなかったような微少変化をとらえる、と言った「創造の柱」を建てる過程ではないでしょうか。(※修行が無駄とは微塵も思っていません。)撮影はハードウェア完全自動化、画像処理などのソフトウェア制御も得意な人のフローやAIに任せる事ができるなら、余った時間を別のこと…写真や天文の原点に立ち戻って楽しんだり解析することに充てられるでしょう。もちろん機材やソフトの超絶テクニックそのものを極めたいならそうすればよいし、むしろそういう方が先陣切って処理フローの公開や管理をしていただきたいですね。
13日の配信では山口さんから更に突っ込んだ意見が出ました。おおよそ次のように理解しました。括弧内に私見も添えて書き出します。
将来機材が変わってしまうかも知れませんが、一定の品質が保証された原画が毎年溜まってゆくということは、それだけで高い価値が見出せると思います。天文は長いスパンで行う趣味/研究分野ですからね。一個人では不可能な総露出5000時間といった途方もない星野画像から新たな宇宙の一面が見えるかも知れないし、それは広写野を何十時間も撮影できないHSTやJWSTでは絶対成しえない分野です。
大事なのは、この考え方が現代社会に自然に組み込め、権利なども守られ、他権利も侵害しないで実現可能と言う点。例えば「シェアデータ使用権をサブスク化」するようなビジネスモデルを考えた場合、サブスク登録時にそれらの条件に承諾していただく必要があります。強い底力を秘めるため乱用や横流しを避けるいっぽうで、「儲けにならないからダメ」などと過度に制限したら「単なる使い捨てビッグデータ」に留まり、価値は沈むし市場も萎むでしょう。空に恵まれた土地でのリモート・リザルトは多くの人にとって宇宙望遠鏡以上の価値があるのですから、価値観を制限しない使い方が望まれます。
若いうちは門限や勉学に縛られ、年老いたら免許返納とか病気とか経済事情とかで遠星や夜間活動が無理になったりします。そんな世代でも自由に宇宙旅行できる(オンラインゲーム並に一般化した)データ空間を築いてほしいと切に願います。これくらいのロードマップを敷いておけば、かなりのところまで実現可能ではないでしょうか。
(記事内使用画像はNASAサイトから引用。)
- リモート天文台などを利用して撮影する場合、プランが同じなら誰が撮っても同じリザルト。
- それなら、撮影から下処理までは運営者が行い、リザルトを皆で共有・活用したほうが効率良いのでは?
- 活用の仕方をそれぞれが考え、楽しめば良い。もし収益があれば運営側に還元。
といった感じです。もちろん個々人が自分の機材で撮影する現状を否定するものではなく、共存共栄できます。また考え方は誰にも強制しません。
実はこれ、フィルム時代から私がずっと主張してきたことで、実際に自分の周囲で積極的に実践してきました。天文や自然科学関連の業界に長くご縁があったので、写真に限らず、観測データ、機材、ノウハウなど可能な限り貸し借りするスタンスを今も貫いてます。必要経費以外は原則無償。運用上で機器が壊れたり怪我を負う可能性があるなら保険に入ったこともありました。
もうひとつ古くからの事例を挙げると、学生時代から一緒に天文活動してきた吉田誠一氏が考案したMISAOプロジェクトでは、「世界中で撮影されたアマチュアの天体写真を提供してもらい、新天体発見や追跡観測に有効活用すること」を目的にしています。言い方は悪いけれど、個人撮影の天体写真は当人の自己満足に留まっていてもったいない。それらを世界的に繋げてみれば立派な捜索網・観測網になるじゃないか、という考えですね。画像提供者が多いほど強固になるのですが、根底には「撮影画像を個人に留めないで解放しませんか」という思想があるわけです。無論、今の学習型AIのように同意無くネットから天体画像を集めてしまうのではなくて、各個人のご厚意の元で吉田くんが画像管理するのは言うまでもありません。
これらは、NASAやNOAA、ESAなどが観測画像やデータを広く世間に利用できる体制をとっていることにも通じる考え方です。探査機画像などは巨額の資本や多彩な頭脳、何十年も積み重ねた経験が無ければ得られないもの。一般庶民が「ちょっと木星に寄ってオーロラ撮ってくるよ」なんて一生かかってもできません。だから、そうした成果物を「人類共通の宝物」として無償提供してもらえるのはとてもありがたく、そこから新たな成果(天文に限らない)が得られるかも知れない。生データをもとに、宇宙と無関係だった人々まで巻き込んで新しいレシピを考案できる素地を作っておくのは、マイナス面よりプラスのほうが多いでしょう。これはオープンソースでソフトウェアを構築したり、Wikipedia等に取り入れられているクリエイティブコモンズの精神と同等ですね。
前述した山口さんの「リザルトシェア構想」もベースは同じと思いました。配信では「いま天文界隈で流行りの星野や銀河」を前提とした利用しか語られませんでしたが、これは太陽、月、惑星でも応用できますね。むしろそちらのほうが変化があるし、日々継続撮影する意味も深まります。(※私の夢は「世界中で月面リモート撮影・24時間監視態勢」なのです。)
繰り返しますが、個々人で撮影旅行や雑誌入選を目標に楽しみたいなら今まで通りにすれば良い。だけど、その先に天文活動の本当の醍醐味があると個人的に思っているので、撮影で画像やノウハウを得ることはゴールじゃなくてスタートと考えてます。しかしながら現状は、その“スタート地点”に立つために自力でお金ためて車より高価な機材買って遠方に旅行して何年も武者修行して…とやっているうちに10年、20年が経過してしまい、「もうここがゴールでいいよね」という天文老人会の風潮が固まってしまったように感じられ、残念に思うのです。
誤解を恐れず言えば、今の個人主義的天体写真は「財力自慢」とか「仕上げ方を競うパソコン技能マウント合戦」の様相を呈しています。天文の個人活動は極端な話、高価な機材を用意する経済力や撮影時間確保は人生の運(努力)で決まるし、晴れ間や好シーイングに恵まれるかどうかは自然の運で決まるので、一定レベルのリザルトが得られるかどうかは運次第。その先で更にPC技能が未熟だと土俵にも上がれない雰囲気が待ちかまえているのでは、バクチ要素やリスクが大き過ぎて、天文に興味が無い人まで巻き込めるほどのムーブメントは起きないでしょう。スマート望遠鏡はひとつの打開策に思えるけれど、まだまだ高い敷き居と思います。もしこのまま温暖湿潤が続いて日本の晴天率や透明度が半分に落ちた場合、冴えない夜空のためにどれだけの人(特に若い世代)がこの趣味や観測研究にお金を落とすのか考えてみてください。これ、数十年内に十分起こり得る未来ですよ。高い結像性能の望遠鏡を高価で売る時代は終わりつつあるように思えます。
本来人間として時間や頭を使うべきは「修行編」じゃなくて、天体を楽しむ新たな切り口を探したり、長年こつこつ観察記録をためて、誰も気付かなかったような微少変化をとらえる、と言った「創造の柱」を建てる過程ではないでしょうか。(※修行が無駄とは微塵も思っていません。)撮影はハードウェア完全自動化、画像処理などのソフトウェア制御も得意な人のフローやAIに任せる事ができるなら、余った時間を別のこと…写真や天文の原点に立ち戻って楽しんだり解析することに充てられるでしょう。もちろん機材やソフトの超絶テクニックそのものを極めたいならそうすればよいし、むしろそういう方が先陣切って処理フローの公開や管理をしていただきたいですね。
13日の配信では山口さんから更に突っ込んだ意見が出ました。おおよそ次のように理解しました。括弧内に私見も添えて書き出します。
- 撮影はモデレータを中心にスケジュール化。(定番だけなく、参加者からのリクエストも受け付ける?)
- ある程度はシステマチックに撮影。(可能なら定期的に同じ場所を撮影。流星、突発天体、NEO、PHA、人工衛星増加率とか軌道の分析、大気光や光害といった気象解析などにも利用できる。)
- データの一次処理…ダーク・フラット・初期ストレッチなど…は自動化。一次処理してない画像も利用可。
- 二次処理(仕上げ)はベテランによる処理フローをパッケージ化して用意。そのパッケージを使っても良いし、自前の処理を楽しんでも良い。
- (広範囲モザイクを繰り返せば、全球タイプの精密データ構築も夢ではない。ウェブ星図で使われるHEALPix型のビックデータとして管理できれば天文界の大きな財産になる。→HEALPix参考資料。)
- (別の個人撮影データと合成したり、他のリモート施設データと規格化共用して一定の研究に利用するなどのケースでは、著作権の移動範囲、収益の行方に注意。)
将来機材が変わってしまうかも知れませんが、一定の品質が保証された原画が毎年溜まってゆくということは、それだけで高い価値が見出せると思います。天文は長いスパンで行う趣味/研究分野ですからね。一個人では不可能な総露出5000時間といった途方もない星野画像から新たな宇宙の一面が見えるかも知れないし、それは広写野を何十時間も撮影できないHSTやJWSTでは絶対成しえない分野です。
大事なのは、この考え方が現代社会に自然に組み込め、権利なども守られ、他権利も侵害しないで実現可能と言う点。例えば「シェアデータ使用権をサブスク化」するようなビジネスモデルを考えた場合、サブスク登録時にそれらの条件に承諾していただく必要があります。強い底力を秘めるため乱用や横流しを避けるいっぽうで、「儲けにならないからダメ」などと過度に制限したら「単なる使い捨てビッグデータ」に留まり、価値は沈むし市場も萎むでしょう。空に恵まれた土地でのリモート・リザルトは多くの人にとって宇宙望遠鏡以上の価値があるのですから、価値観を制限しない使い方が望まれます。
若いうちは門限や勉学に縛られ、年老いたら免許返納とか病気とか経済事情とかで遠星や夜間活動が無理になったりします。そんな世代でも自由に宇宙旅行できる(オンラインゲーム並に一般化した)データ空間を築いてほしいと切に願います。これくらいのロードマップを敷いておけば、かなりのところまで実現可能ではないでしょうか。
(記事内使用画像はNASAサイトから引用。)