夏至の昼時間は本当に年間最大か? ― 2025/06/21
春分や秋分の日は昼と夜が同じ長さって、どなたでもご存知でしょう。天文に詳しい皆さんなら「実は違う」ことまで説明できるかも知れません。日本では日出没が「太陽上辺が見かけの地平に接した時」と定められているからです。
実際の太陽は太陽半径分地面の下にあり、更には水平だと思っている方向も大気の浮き上がりや観察者の標高によって幾何学的水平とは異なります。昼の時間を「日没時刻−日出時刻」とすれば、昼夜が半々になるのは春分の日の3、4日前、または秋分の日の3、4日後になります。
では、「夏至の日は昼時間が年間で最も長い」というのは本当でしょうか?よく説明に使われる右下図(wikiより転載)のような描き方・考え方は、太陽が「その日は天球上の位置を全く変えない」状態になってしまっています。でも実際は夏至当日の24時間でけっこう動くんです。特に、高度に影響を与える赤緯方向の移動が気になります。何らかのトリックによって昼時間最大が別の日にずれることはないのでしょうか?これ、随分前から疑問に思っていました。
夏至の日は「夏至瞬時を含む日」のことで、夏至の瞬時は「太陽黄経が90.0°(夏至点)を通過する瞬間」です。今年で言うと2025年6月21日11:42:15JSTですね。(時差が異なる国同士では日付がずれる事もあるので時差とセットで考えると良いでしょう。)この瞬時は一意に決まるので、別の理由で変わることはありません。逆に言うと「太陽黄経が90.0°」以外はどうでもよいのです。
少し前に最低高度の満月を解説した記事に「天体赤緯が高度を左右する」と散々強調しました。これは太陽も同じ。夏至の頃は赤緯が北へ移動し、北半球から見れば日出没が北寄りになるため、長い間天空に留まって昼が長くなるのです。ですが、「太陽黄経が90.0°」のときに赤緯が最大値になるというわけではありません。全く無関係ではないけれど、同時に起こる保証はないのです。
実際に計算した結果を記事下A・B図として掲載しました。夏至の日の0:00JSTを基準に、24時間前から48時間後までの太陽赤緯を図化したものです。当然ですが一日の間にも太陽の赤緯は変化します。グラフの山は夏至の日内にあるときもあれば、無い時もありますね。測心計算(日本経緯度原点基準)では自転による視点の動きも加わって、こんなに複雑な変化をするのです。この変化が一日続いた結果が昼夜の時間として積算されるので、なんだか「夏至の日に昼時間最大」にならない年もありそうな気がしませんか?
とは言え、この手の計算は天体位置や時刻の計算を高精度でキープしなければならない事例なので簡単ではないでしょう。精度に注意しながら計算プログラムを作って日出没と昼の長さを計算。その年の最高値になるかどうか検証してみました。1900-2100年の201年間ですと、日本経緯度原点では1965年と2023年が「夏至よりも昼時間が長い日がある」という結果になりました(下表)。わずか1/100秒のオーダーですが、翌日のほうが長かったのです。それぞれ夏至瞬時が日付変更直前のケースですね。下図A・Bのグラフに入っている2023年(グレイの線)を見ると、確かに夏至当日よりも翌日のほうが赤緯が高い状態で、さもありなんという感じ。常識にとらわれず、計算してみるもんですね。
日本経緯度原点では下表の2例だけでしたが、観測場所を変えて計算すると増えたり減ったり別の年になったりします。例えば福岡なら1903年、1990年、2052年、2081年の4例が「前日最大」でした。いずれも日付が変わってすぐ夏至瞬時になる年です。ざっくり言うと、標準時子午線より東では「日付変更直前に夏至瞬時が訪れる年は翌日最大」、標準時子午線より西では「日付変更直後に夏至瞬時が訪れる年は前日最大」になる傾向のようです。真夜中近くに夏至瞬時があることだけではなく、地理的要因も関係するのですね。ご興味ある方はぜひ詳しく調べてみてください。
参考:
気温・気圧の変化と日出没への影響(2025/06/22)
実際の太陽は太陽半径分地面の下にあり、更には水平だと思っている方向も大気の浮き上がりや観察者の標高によって幾何学的水平とは異なります。昼の時間を「日没時刻−日出時刻」とすれば、昼夜が半々になるのは春分の日の3、4日前、または秋分の日の3、4日後になります。
では、「夏至の日は昼時間が年間で最も長い」というのは本当でしょうか?よく説明に使われる右下図(wikiより転載)のような描き方・考え方は、太陽が「その日は天球上の位置を全く変えない」状態になってしまっています。でも実際は夏至当日の24時間でけっこう動くんです。特に、高度に影響を与える赤緯方向の移動が気になります。何らかのトリックによって昼時間最大が別の日にずれることはないのでしょうか?これ、随分前から疑問に思っていました。
夏至の日は「夏至瞬時を含む日」のことで、夏至の瞬時は「太陽黄経が90.0°(夏至点)を通過する瞬間」です。今年で言うと2025年6月21日11:42:15JSTですね。(時差が異なる国同士では日付がずれる事もあるので時差とセットで考えると良いでしょう。)この瞬時は一意に決まるので、別の理由で変わることはありません。逆に言うと「太陽黄経が90.0°」以外はどうでもよいのです。
少し前に最低高度の満月を解説した記事に「天体赤緯が高度を左右する」と散々強調しました。これは太陽も同じ。夏至の頃は赤緯が北へ移動し、北半球から見れば日出没が北寄りになるため、長い間天空に留まって昼が長くなるのです。ですが、「太陽黄経が90.0°」のときに赤緯が最大値になるというわけではありません。全く無関係ではないけれど、同時に起こる保証はないのです。
実際に計算した結果を記事下A・B図として掲載しました。夏至の日の0:00JSTを基準に、24時間前から48時間後までの太陽赤緯を図化したものです。当然ですが一日の間にも太陽の赤緯は変化します。グラフの山は夏至の日内にあるときもあれば、無い時もありますね。測心計算(日本経緯度原点基準)では自転による視点の動きも加わって、こんなに複雑な変化をするのです。この変化が一日続いた結果が昼夜の時間として積算されるので、なんだか「夏至の日に昼時間最大」にならない年もありそうな気がしませんか?
とは言え、この手の計算は天体位置や時刻の計算を高精度でキープしなければならない事例なので簡単ではないでしょう。精度に注意しながら計算プログラムを作って日出没と昼の長さを計算。その年の最高値になるかどうか検証してみました。1900-2100年の201年間ですと、日本経緯度原点では1965年と2023年が「夏至よりも昼時間が長い日がある」という結果になりました(下表)。わずか1/100秒のオーダーですが、翌日のほうが長かったのです。それぞれ夏至瞬時が日付変更直前のケースですね。下図A・Bのグラフに入っている2023年(グレイの線)を見ると、確かに夏至当日よりも翌日のほうが赤緯が高い状態で、さもありなんという感じ。常識にとらわれず、計算してみるもんですね。
日本経緯度原点では下表の2例だけでしたが、観測場所を変えて計算すると増えたり減ったり別の年になったりします。例えば福岡なら1903年、1990年、2052年、2081年の4例が「前日最大」でした。いずれも日付が変わってすぐ夏至瞬時になる年です。ざっくり言うと、標準時子午線より東では「日付変更直前に夏至瞬時が訪れる年は翌日最大」、標準時子午線より西では「日付変更直後に夏至瞬時が訪れる年は前日最大」になる傾向のようです。真夜中近くに夏至瞬時があることだけではなく、地理的要因も関係するのですね。ご興味ある方はぜひ詳しく調べてみてください。
【夏至の昼時間が年間最大にならない例/1900-2100年/日本経緯度原点】
日付(JST) | 日出(JST) | 日没(JST) | 昼時間(秒) | 夏至瞬時(JST) |
---|---|---|---|---|
1965-06-21(夏至当日) | 04:25:10.750 | 18:59:43.585 | 52473.510 | 1965-06-21 23:55:33 |
1965-06-22(夏至翌日) | 04:25:22.640 | 18:59:56.177 | 52473.537 | −− |
2023-06-21(夏至当日) | 04:25:28.250 | 18:59:59.294 | 52471.044 | 2023-06-21 23:57:49 |
2023-06-22(夏至翌日) | 04:25:40.933 | 19:00:11.986 | 52471.053 | −− |
- 表および図は自作プログラムによる計算です。(使用暦表JPL-DE440)
- 日出没は、厳密には日本の定義ではなくアメリカ海軍天文台が定める方式(太陽中心の天頂角が90.8333°になる瞬間)を採用しました。端数の0.8333°=50分角は、太陽半径16分角と、平均大気による地平の屈折34分角を足した値です。
- 日出没計算は年間を通して行われるため、太陽の大きさや大気の屈折率に影響を与える気温・気圧などの要素を平均的な定数として扱うことが多いです。
- 当記事内では太陽直径を固定値で計算しましたが、地心距離の変化に連動させて計算しても、年間最大がずれる傾向はほぼ同じでした。(日出没時刻や昼時間そのものは太陽視直径が変わると変化します。)
参考:
気温・気圧の変化と日出没への影響(2025/06/22)