アーカイブ:月の形 「月齢と月の形」1970/02/01

「月齢」によって月の形を推し量ることができます。大雑把には0が新月、15が満月、7が上弦で22が下弦。後述しますが整数でなく少数表現することもできます。でも月齢による形の表現、厳密には正確ではありません。

右下の写真をご覧ください。異なる日に撮影した上弦前の月ですが、欠け際のカーブが違うことがお分かりいただけるでしょうか?実はこれ、両方とも撮影時の月齢が7.0(少数第2位を四捨五入)の月です。肉眼で見ても気づくほど欠け際の形に差がありますね。
同一月齢の形比較
月齢は時として少数で表現されるので、何かを正確に表しているように感じます。それを「月の形」と思いこんでいる方は多いことでしょう。学校でもそう習います。でもこの例から分かるように、月齢が一緒なのに形が少し違うことは多々あるのです。

月齢の定義を調べますと、「新月の瞬間を0とした経過日数を月齢と呼ぶ」と書いてあります。経過日数とは私たちが普段使う「1日」に他なりません。

例えば10月1日の正午(12時)に新月だったとすると、翌日の正午は月齢1です。1日を分割すれば少数以下の桁も定義できます。この例だと10月1日18時は新月から6時間(0.25日)だけ経過してますから、月齢0.25という具合ですね。このように月齢の値は「実際の月がどうであろうと関係なく」1日に1ずつ増えてゆきます。

でも実際の月は日々均等に空を移動するわけではありません。地球を巡る月軌道は楕円ですので、速くなったり遅くなったりします。また軽い天体である月の移動を乱す要因は他にもたくさんあるのです。月齢は毎回新月の位置でリセットされますので、月齢0は間違いなく新月。でもその後の月齢は月の満ち欠けに要する時間と関係なく「機械的に」カウントしますから、同じ月齢なら同じ形という保証はないわけですね。実は新月から新月までの「朔望周期」も一定ではありませんから、0にリセットされる直前の月齢が29.3に届かないときもあれば29.8を過ぎることもあります。形として同じはずなのに月齢数値が0.5も違うわけですね。

いっぽう、月の形を比較的正確に示す別の表現があります。月の見かけは観察者(地表面)の位置、月の位置、そして月を照らす太陽の位置によって一意に決定されます。これらの関係をきちんと表す値が、下図の「位相角」や「離角」です。位相角とは太陽、月、観察者のなす角、また離角とは太陽、観察者、月のなす角です。地球-月間の距離に比べて地球-太陽間がとても長いことから、「離角=180度-位相角」としても差し支えないほどの量になります。(他の惑星など相対距離を無視できない天体ではこうは行きません。)

位相角と離角
月と太陽は微妙に異なる平面上にありますから、太陽を基準に月が何度離れたかを「黄経差」、つまり黄道面上の経度差として測るのと、地球・月・太陽が作る平面上で測るのとではわずかに差が生まれます。また、通常天文計算では地域差を考えなくてよい「地球中心(地心)で考えた黄道座標」で測りますが、地表面で観察する私たちは「観察者中心(測心)の黄道座標」という数値になります。両者は少し違うのです。

ただ、このサイトではそこまで細かいところは目指していませんので、月相を撮りためる「月の形アーカイブ」では黄緯差を無視した「地心黄経差」を離角と見なし、位相区分の値として扱います。厳密な離角を採用すると満月でも180度とならず、「太陽と正反対」というニュアンスがなくなってしまうということもあります。

一般に新月は離角0度(太陽、月、観察者の順に一直線)とし、上弦は離角90度、満月は離角180度(太陽、観察者、月の順に一直線)、下弦は離角270度という表現になります。実際の天体は大きさを持ち、天体や観察者間の距離も有限です。また観察者は地球中心ではなく地表にいます。さらに軌道を立体で考えるといつも月が自転軸に垂直な方向から照らされているとは言えず、それによって見かけが変化するのも事実です。厳密に言えば位相角や離角をもってしても正確な形の表現ではないでしょう。でも少なくとも月齢より何桁も精度良く「見かけの形」に直結した値ということにはなると考えられます。

本アーカイブではこの離角(黄経差)によって月の形の区分を行っています。元々この写真集を作ろうと思ったきっかけが、「月齢に基づいた誤差のある資料ではないものを作りたかった」からです。回転方向のずれもクレーター位置などによって補正し、上下方向をできるだけ月の極方向に合わせています。

なお必要な精度というのは、その目的に応じて変化してよいと思います。だから小学生が月齢と月の見かけを関連付けることに「間違いだ」などと言うつもりはないことを記しておきます

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