雲越しのアンタレス掩蔽 ― 2023/09/22
昨日21日に起きた月によるアンタレス掩蔽、当地はほぼ雲に覆われており、雨雲も迫っていて全く見ることができませんでした。潜入直後に5分ほど雲越しに月が見えたのですが、アンタレスを隠している月は「ただの朧月」なので有り難みがありませんね。せめてアンタレスが隣に並んで見えていれば楽しめたのですが…。
夜中になって、愛知県に住む星仲間が「雲間から辛うじて見えたよ」と写真を送ってくれました(左画像)。出現の瞬間に撮影されたもので、右端やや下にアンタレスとその伴星が写っているようです。本日にあらためて元画像を送っていただき分析したので、ご本人の了解を得て掲載いたします。
愛知もやはり雲が多かったそうで、出現前後に何枚か撮影できたけれど、その後は雷雨になってしまったとのこと。全国的に天気が優れなかったようで、特に重要な出現側が見えたところは極端に少なかったようです。それだけにこの画像はとても貴重と感じました。口径65mm、fl500mm+2倍テレコン直焦点での撮影、ピント合わせもままならない状況だったことが窺えます。口径200mm超えで撮ったような高精細さは期待できませんが、できるだけ情報を引き出してみました。
ところで、アンタレスの伴星は現在右図のような位置関係になっています。これはSixth Orbit Catalogの2023年8月版(現時点で最新)に掲載されている軌道要素を元に自作プログラムで描いたもの。原点に対し、図の上方向が天の北方向、右方向が天の西方向です。伴星の周期2666.5年弱に対して、観測期間は高々200年も達していません。軌道要素は今後何百年もかけて修正されるでしょうから参考程度にご覧ください。
2023年9月現在、主星から見た伴星の方向角(位置角)は276.75°、離角は約2.60秒角。方向角とは天の北方向を基準に、反時計回りに測った角度。つまり主星から見て伴星は概ね天の西側へ2.6秒角離れているということです。
伴星と思われる光点の諸元を確認をするためには、月面の角度を正確にしなくてはなりません。冒頭画像は概ね「見た向き」になっていますので、このままでは検証しづらい…。幸いクレーターがたくさん写っていますので、これを頼りに誤差0.1°程度まで赤道座標の東西南北に合わせました。その上でアンタレス周囲を切り出したのが左下画像です。原画を4倍に拡大してあります。
主星のスペクトルはM型、伴星はB型ですから、見事な赤と青の二重星です。画像にはそれをほのめかす色要素が出ていますね。青光が若干北へずれているのは観測高度が低いことが主な理由と思われます。アンタレスのすぐ上に描いてある点線は、主星から見た伴星の方向角に平行な線。少し異なる印象もありますが、大気差の影響を補正すれば一致するのかも知れません。また恒星の芯が分かりにくく離角が測りづらいですが、3秒角程度と思われます。ですので、写っているのはアンタレスとその伴星のペアと考えて間違いないものと思われます。
右下はだいぶ離れてからのワンショット。こうなるとアンタレスはひとつの星にまとまってしまい、重星には見えなくなります。冒頭画像に比べアンタレスがかなり明るく見えます。雲や画像処理の影響もあるけれど、冒頭画像ではまだ主星が出切っていないと考えたほうが自然かも知れません。一般的な恒星掩蔽がパッと消えパッと出現するのに対し、超巨星であるアンタレス主星は1/10秒程度時間がかかります(主星視直径=約0.04秒角に対し、平均的な月速度=約0.5ミリ秒角/秒)。fps30コマの動画で撮影しても3フレームほどかかるのです。星が全く瞬かないようなシーイングなら、じわっとした潜入・出現が現在の機材で撮れることでしょう。
掩蔽時ではない、普段の状態のアンタレスを重星として写すことは可能ですが、良く調整された光学系と適切な撮影条件、そして何よりも抜群のシーイングが必要です。明るい主星の揺らめきに伴星が飲み込まれてしまうのはシリウスに限らずにアンタレスでも起こること。それだけに今回のアンタレス掩蔽は貴重なチャンスでした。全国的な悪天が悔やまれます。
参考までに、英語版wikipediaにオーストラリアで見えた2006年アンタレス掩蔽・出現側の動画があります。伴星と主星が時間差で登場する様子なのですが、あたかもひとつの星が急増光したように見えます。現在の機材なら分離したままの撮影も可能だろうと思います。左下動画は2022年11月8日に起きた月食中の天王星掩蔽(出現側)。このときの天王星視直径は約3.77秒角ですので、この動画程度の拡大率を保てばアンタレスの主星・伴星を分離しつつ撮影できる可能性がありますね。
提供頂いた画像は静止画ながら、わずかな雲間からこれ以上ない見事なタイミングで得た画像であり、本当に素晴らしいと思いました。小さな望遠鏡でも伴星がきちんと分離していることは何より驚きです。日本でアンタレスの高度のシーイングがあまり期待できないだけに、何だか希望をもらえる1枚でした。
夜中になって、愛知県に住む星仲間が「雲間から辛うじて見えたよ」と写真を送ってくれました(左画像)。出現の瞬間に撮影されたもので、右端やや下にアンタレスとその伴星が写っているようです。本日にあらためて元画像を送っていただき分析したので、ご本人の了解を得て掲載いたします。
愛知もやはり雲が多かったそうで、出現前後に何枚か撮影できたけれど、その後は雷雨になってしまったとのこと。全国的に天気が優れなかったようで、特に重要な出現側が見えたところは極端に少なかったようです。それだけにこの画像はとても貴重と感じました。口径65mm、fl500mm+2倍テレコン直焦点での撮影、ピント合わせもままならない状況だったことが窺えます。口径200mm超えで撮ったような高精細さは期待できませんが、できるだけ情報を引き出してみました。
ところで、アンタレスの伴星は現在右図のような位置関係になっています。これはSixth Orbit Catalogの2023年8月版(現時点で最新)に掲載されている軌道要素を元に自作プログラムで描いたもの。原点に対し、図の上方向が天の北方向、右方向が天の西方向です。伴星の周期2666.5年弱に対して、観測期間は高々200年も達していません。軌道要素は今後何百年もかけて修正されるでしょうから参考程度にご覧ください。
2023年9月現在、主星から見た伴星の方向角(位置角)は276.75°、離角は約2.60秒角。方向角とは天の北方向を基準に、反時計回りに測った角度。つまり主星から見て伴星は概ね天の西側へ2.6秒角離れているということです。
伴星と思われる光点の諸元を確認をするためには、月面の角度を正確にしなくてはなりません。冒頭画像は概ね「見た向き」になっていますので、このままでは検証しづらい…。幸いクレーターがたくさん写っていますので、これを頼りに誤差0.1°程度まで赤道座標の東西南北に合わせました。その上でアンタレス周囲を切り出したのが左下画像です。原画を4倍に拡大してあります。
主星のスペクトルはM型、伴星はB型ですから、見事な赤と青の二重星です。画像にはそれをほのめかす色要素が出ていますね。青光が若干北へずれているのは観測高度が低いことが主な理由と思われます。アンタレスのすぐ上に描いてある点線は、主星から見た伴星の方向角に平行な線。少し異なる印象もありますが、大気差の影響を補正すれば一致するのかも知れません。また恒星の芯が分かりにくく離角が測りづらいですが、3秒角程度と思われます。ですので、写っているのはアンタレスとその伴星のペアと考えて間違いないものと思われます。
右下はだいぶ離れてからのワンショット。こうなるとアンタレスはひとつの星にまとまってしまい、重星には見えなくなります。冒頭画像に比べアンタレスがかなり明るく見えます。雲や画像処理の影響もあるけれど、冒頭画像ではまだ主星が出切っていないと考えたほうが自然かも知れません。一般的な恒星掩蔽がパッと消えパッと出現するのに対し、超巨星であるアンタレス主星は1/10秒程度時間がかかります(主星視直径=約0.04秒角に対し、平均的な月速度=約0.5ミリ秒角/秒)。fps30コマの動画で撮影しても3フレームほどかかるのです。星が全く瞬かないようなシーイングなら、じわっとした潜入・出現が現在の機材で撮れることでしょう。
掩蔽時ではない、普段の状態のアンタレスを重星として写すことは可能ですが、良く調整された光学系と適切な撮影条件、そして何よりも抜群のシーイングが必要です。明るい主星の揺らめきに伴星が飲み込まれてしまうのはシリウスに限らずにアンタレスでも起こること。それだけに今回のアンタレス掩蔽は貴重なチャンスでした。全国的な悪天が悔やまれます。
参考までに、英語版wikipediaにオーストラリアで見えた2006年アンタレス掩蔽・出現側の動画があります。伴星と主星が時間差で登場する様子なのですが、あたかもひとつの星が急増光したように見えます。現在の機材なら分離したままの撮影も可能だろうと思います。左下動画は2022年11月8日に起きた月食中の天王星掩蔽(出現側)。このときの天王星視直径は約3.77秒角ですので、この動画程度の拡大率を保てばアンタレスの主星・伴星を分離しつつ撮影できる可能性がありますね。
提供頂いた画像は静止画ながら、わずかな雲間からこれ以上ない見事なタイミングで得た画像であり、本当に素晴らしいと思いました。小さな望遠鏡でも伴星がきちんと分離していることは何より驚きです。日本でアンタレスの高度のシーイングがあまり期待できないだけに、何だか希望をもらえる1枚でした。





