光害地から黄道光は見えるのか?2023/03/27

20131010明け方の黄道光
黄道光は夜空の黄道に沿って帯状(舌状)に淡く光る現象で、天文薄暮が終わった頃の西空か、天文薄明が始まる前の東空で見ることができます。地球軌道面に広がる微小物質が太陽光を反射/散乱させて光っていることから黄道放射とも言われます。全く光害が無い場所で見る黄道光は黄道を途切れなく照らし、対日照も含むひと繋ぎになっていると聞きます。

地上から見る黄道光は極めて淡いため、光害や月明かり、空の透明度などに大きく左右されてしまい、現代生活のなかでは滅多にお目にかかることがありません。黄道光が見えるかどうかは天の川と共に星空観察環境のバロメーターになるでしょう。恥ずかしながら私も天文活動が長い割に夕方側の黄道をはっきりと見たことがありません。明け方は何百回も見てきましたが(左画像)、夕方に挑戦してもまず見えないのです。宵はまだ人間の活動時間だと言うことに加え、当地・茨城県南部からみると西から南にかけて東京+近県の都市が集中しており、県内の人口分布だけ考えても西高東低ということが大きな理由でしょう。

無論、県内外の星見一等地に出かけてじっくり観察すれば全く見えないこともないのでしょうが、未だ良いタイミングに出会えたことはありませんでした。大げさだけれど、「死ぬまでに一度は見てみたい身近な天文現象」のひとつなのです。そんな折りにふと夕方西空に出る黄道光の片鱗でもとらえられないか考え始めたのは数年前。色々調べると黄道光はかなり広い波長で分布しているため、可視光にこだわらず「いちばん捉まえやすい波長」で見てみれば良いのでは、と思ったのです。

黄道光の見やすさは、地平線に対する黄道の角度も重要なポイントです。これは2017年10月14日記事でも示しました。ある観察地点を設定したとき、天の赤道位置は月日が経っても変化しませんが、黄道は月日や時刻によって見かけ位置がどんどん変わります。地平面に対する黄道面の見かけの傾斜角に注目すると、例えば当ブログ基準地の茨城県つくば市では下A図のようになります。これは2023年の例ですが、他の年でも大差ありません。また国内の他の観察地でも、角度の差はありますが極大極小の時期は概ね一緒です。

夕方西空(天文薄暮終了時)の場合、大ざっぱに言うと3月初旬プラスマイナス1ヶ月付近の黄道が一番高くそそり立ち(下B図/水色の角度)、8月中旬プラスマイナス1ヶ月付近の黄道が一番寝そべります(下C図)。そそり立つ時期のほうが光害や低空モヤの影響は少ないですから、先月や今月は宵の黄道光観察最適期だったことになりますね。(※B・C図とも各日の天文薄暮終了時/Stellariumによる作図。)

  • 地平線に対する黄道の年変化(2023年・茨城県つくば市)

    A.黄道の年変化
  • 20230301-1900黄道の立ち上がり角

    B.2023年3月1日の黄道
  • 20230815-2006黄道の立ち上がり角

    C.2023年8月15日の黄道


ではこの最適期のうち透明度が高い宵に、通常の星景撮影のような可視光全域ではなく、例えば光害の影響を受けづらい特定のセミナローバンドや近赤外波長などで撮影したらどうなるだろうと思った訳です。2月中旬頃までに機材を準備し、ようやく撮影できたのが2月21日(下D画像/近赤外画像)でした。これ以降は天気や月齢などのタイミングが悪化してしまい、これ一回だけになってしまいました。

D画像に何が写っているか少し分かりづらいけれど、中央下側の地上光に埋もれて木星(上)と金星(下辺すれすれ)が写っています。右下の四角の光は近くのマンション、中央から右へ向かう傷のような線は航空機、星の中の小さな傷はホットピクセルです。この画像で等光度曲線を描いてみたのがE画像。中央にかけて地平との平行線より上側に膨らんだ部分が見られますね。位置は正に黄道に沿っているので黄道光の可能性はありますが、地上光がここだけ強かったとか、他の理由も考えられます。一例だけでは何とも判断できません。他の波長も含め、何年かかけて調べてみようと思います。

  • 20230221西空

    D.2023年2月21日・西空
  • 20230221西空

    E.D画像の等光度曲線


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