6・7月は土星の環がぺったんこ2024/05/30

20240530土星
昨夜から今朝は度々雲の通過があったものの、ここ数週間の中ではかなり晴れ間がある夜でした。5月も終わりますので、明け方に少しずつ高度を増している土星に望遠鏡を向けてみました。

隣に並ぶ月も朧になるほどの雲に邪魔されたものの、隙間を狙って何とか撮ったものが左画像。大気分散補正プリズムの類は使ってないため、地面に垂直な方向に少しひしゃげていますがご容赦を。環が直線的になり、麦わら帽子やシャンプーハットみたいな面影が無くなりましたね。画像上方向が土星の北方向で、本体上の環の影や環に見える本体の影から、土星の北東(左上)から太陽に照らされていることが分かるでしょう。

ご存知のように現在の土星は地球から見て環が水平になる向きになりつつあります。でも環を見込む角が単純に減少するのではなく、右下図のように波打ちながらゼロに近づきます。2024年6月から7月にかけてかなり水平になりますが、冬には一時的にリバウンドして南北幅が太くなります。2025年3月と5月に起こる環の消失はいずれも低空過ぎ+太陽に近過ぎて観察が困難。ある程度見やすい来年1・2月や6・7月は今年の6・7月より環が開いているという衝撃の事実があることから、今のうちに棒状の環を堪能しておくことを強くお勧めします。右下図では見辛い黄色帯のところを避けて、見やすい緑帯のところを活かそう、と言うこと。2025年11・12月ごろもかなり平たくて、抜群に見やすい時期ですからお忘れなく。この時期は眼視でも見込む角が2°違えばてきめんに差が出ますよ。

2025年・土星の環の消失
露出を長めにして衛星もとらえてみました(下A画像)。環が水平になると言うことは、土星の赤道面に対して軌道傾斜が小さな衛星たちもほぼ直線的に動いて見えると言うこと。アマチュアの望遠鏡で観察可能な土星の衛星(直径が二桁km以上)の軌道傾斜はイアペトゥスの約7.6°を除き、みんな0°に近く、つまりは環の延長面上を回っているのです。(※一部、逆回りもあります。)

ですから環が消失する時期の衛星は「横並びになりがち」なのですね。環に重なってしまうことが頻発し、撮影しても写らないことが多くなるでしょう。下画像でタイタンが環の延長から少しズレているのは土星から遠いところを回っているためズレが拡大された影響、またイアペトゥスが大きく外れているのはタイタンより更に遠く、軌道傾斜も他より大きい影響と考えられます。

前日宵には紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)も撮ってみました(下B画像)。ガイドの調子が悪くて星像が肥大、薄雲通過で更に不安定になりながらも、長い尾が写りました。彗星が発達したということよりも、尾を横から見る角度関係になったことが主要因と思われます。

  • 20240530土星と衛星

    A.土星周囲の衛星
  • 20240529紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)

    B.紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)


ひとしれず金星と木星が大接近2024/05/24

20240523-0706UT_SOHO_LASCO-C3
昨日23日夕方、地球上からは見えない太陽近傍で金星と木星が大接近しました。この様子を太陽観測衛星SOHOのLASCO-C3カメラが捉えています。

左画像はSOHOサイトからの引用で、23日7:06UT(16:06JST)の画像。金星と木星がダルマのようになっていますね。前後のSOHO画像を見比べ、最も近いと思う画像を選びました。なお地心計算では17:19:12JST、日本経緯度原点での測心計算では17:21:00JSTが最接近時刻です。

SOHOは太陽-地球系ラグランジュ点L1(地球から太陽側に約150万km近い地点)を周回するハロ軌道にいますから、地球から見た場合とは惑星の視位置が若干異なります。最接近の時刻差はこのためです。太陽近傍にはプレアデス星団やヒアデス星団が見えています。ヒアデス星団筆頭のアルデバランはまだ写野外ですが、もうすぐ現れるでしょう。なかなか豪華な眺めですね。

日本経緯度原点での測心計算では、今回の大接近は離角0.1901°という稀なものでした。離角が0.2°を下回ったケースは2014年08月18日(0.1976°)や2016年08月28日(0.0664°)に起きていますが、いずれも昼間だったり超低空だったりと、条件は良くありません。次回は2040年09月02日2:39:50JST(0.1687°/日本から見えない)、

金星の外合・通過経路
2041年11月18日9:15:40JST(0.1354°/昼間)、2056年02月12日22:03:11JST(0.1197°/日本から見えない)と、やはり条件は良くありませんね。離角1°内外まで「ほどほどに近い」ケースはそれなりに起こりますから、それらを楽しむとしましょう。直近では来年2025年08月12日明け方でしょうか。

ところで、金星は向かって左に移動しており、6月4日から5日にかけて“太陽によって掩蔽”されます。多くの場合、金星の外合は太陽位置から外れたところを通りますが、5回に1回は太陽に隠されるルートを通ります。

右図は2022年10月22日記事に掲載した金星外合時の太陽との位置関係。前回太陽に掩蔽されたのは2016年6月の外合時でした。次回は2032年6月の外合時です。16年ごと、5月末から6月頭にかけて起こる外合は太陽に掩蔽される、という結果になっています。実に興味深い周期性ですね。

昼過ぎに火星掩蔽が起こりました2024/05/05

20240505月による火星掩蔽(潜入)
(※6日2:00記:画像と記事を差し換え&追加しました。)

本日昼過ぎごろ、月が火星を隠す掩蔽現象(火星食)が起こりました。今年世界のどこかで見える惑星の掩蔽は28回あり、そのうち火星食は2回。12月18日の火星食は日本から見えないため、今日が唯一となります。

午前のうちに機材を用意し、2時間ほど前から月を追尾。火星は11時ごろには明るい姿を確認できました。と言ってもベースの青空光がかなり明るく、昼間の天体を観るには邪魔者でしかありません。左画像は近赤外透過フィルターを使い、青空光を大幅にカットしています。青空相手にカラーで撮る意味はほとんど無いので、今回は白黒カメラです。

残念ながら昼には風が強くなり、月も火星も視野内を飛び跳ねてしまう状態。それでも構わず数千コマ撮影をこなしました。左上画像は当地から見て火星が半分隠される12:11:40JSTを基準に、12:05:40、12:07:40…と2分おき4コマを月位置基準で重ねたもの。最後のコマは地面にめり込んでいますよ。火星の視直径は4.77″と地球接近時よりずっと小さかったけれど、天王星よりひと回り大きい量で、きちんと大きさを持って見えていました。

20240505月による火星掩蔽(出現)
また右画像は出現の様子で、火星が半分見える13:19:46と、その2分後の13:21:46の2コマを重ねてあります。13:19:46の火星はとても微かですが見えますか?潜入より暗く見える理由として、現在の火星は向かって右側に自身の影ができており、半分月に隠された状態だと火星本体の影が占める面積が大きいためと考えられます。

左側の欠け際に見える大きなクレーターはシッカルト(半分)と、その下のフォキュリデスです。位置的にはバイイも見えてますが、よく分かりませんね。なお二枚の画像とも、上方向を月の北極方向に概ね揃えてあります。

潜入は見やすかったのですが、出現はどこから出るか予想が付かない暗出(月の影側から出現)ですし、月高度が低くなって霞んでしまい、風がますます強まってシーイング劣悪、とても見苦しかったです。快晴なのに強風に邪魔されるのは天文あるある(特に関東)ですが、終了した頃はめまいがするほどヘトヘトでした。でも無事観ることができて大満足。日本から見える火星掩蔽は今後しばらくありません。

慣例的に火星食とか惑星食などと言われますが、実際は「食」ではなく「掩蔽」です。「食:eclipse」は天体の影が別天体を隠す(陰らせて暗くする)現象、「掩蔽:occultation」は天体が別天体を直接隠す現象で、まったく別もの。月食は「食」で間違いありませんが、日食は月による太陽の「掩蔽」です。


夜明けに月と土星が接近2024/05/04

20240504月と土星の接近
昨夜から今朝は安定した晴れ間でした。前夜より4度ほど暖かかったせいか透明度が少し落ちたものの、雲の飛来はありません。明け方に昇った月が土星に接近しましたので、望遠鏡を向けてみました。

左画像は4時ごろのようす。左上の明るい星が土星、土星の右に接する微光星が衛星タイタン、左に接する星が衛星レア。なるべく暗い星や地球照も掬い上げるように多段階露光にしたけれど薄明のせいかうまく繋がりません。撮影時はもう空が白んでいましたが、細くなった月と土星の並びは美しいものでした。金星と月のペアは両方ともギラギラしてしまいますが、土星はかなり控えめです。

撮影時の離角は約2.7°でした。このあと9:37ごろに1.235°まで接近(日本経緯度原点計算)したはずです。6月28日に昇った月と土星は今回より更に近いですから、天気が良ければご覧ください。また今年は世界のどこかで見える土星の掩蔽(土星食)が10回もあり、そのうち2回は日本から見ることができます。

2月29日に合を迎えてから二ヶ月以上経ったものの、まだまだ土星は目立つ高さに昇って来ません。左上画像も隣家の屋根と電線の隙間からやっと撮ったものです。来年はいよいよ環の消失を迎えますが、来年いちばん環が開いているのは2025年1月1日。このときよりも今年4月5日から9月22日までの期間のほうが環が閉じています。つまり先行して細くなっている環を観察できるわけです。もう少し経てば高くなってきますから、ぜひ望遠鏡を向けてみてください。

20240504_M27
月と土星に先立ち、昨日から続けている機材調整をしていました。右画像は試写のM27。最微光星15.0_15.5等あたりが見分けられます。まぁ、どうにか正しくガイドしてくれる状態になったでしょうか。まだまだ不安はありますが…。