黒い環から暗い環へ2025/05/15

20250515土星
毎日天気がくすぶっている関東。今朝は濃霧予報が外れて晴れが持ちこたえてくれました。全体的にモヤがあるものの、東は低空まで晴れているので土星に挑戦。5月5日に見て以来なので、隣家の屋根から見え出すのが早く感じられます。

南西に傾いた月がピンク色に見えるほど減光する空である反面、シーイングはビックリするくらい良好。土星の環は南側が淡く光り出しているのが分かり、高度が上がるにつれてどんどんクリアに。本体の模様まで見えています。こういうの、ワクワクしますね。太陽に照らされず真っ黒だった環が、ようやく「暗いけど見える」程度まで回復してきました(左画像)。

長めの露出をかけると環と一緒に周囲の衛星が浮かんできました(右下画像)。露出をかけても酷いシーイングで何も見えなかった5月初旬までが嘘のようです。

20250515土星と衛星
しばらくは環から見た太陽高度が低いため暗いままですが、じきに環の種類や間隙も判別できるようになるでしょう。環が開いてない土星が好きなので、今から楽しみです。

昨年の9月から10月に向かって環が本体より明らかに暗くなりました(下A画像)。この切り替わったときの「環から見た太陽高度」は4°前後。ということは、環の南側から見た太陽高度が4°を越す今年12月上旬まで、本体よりも環が暗いままでしょうか?それとも、もっと早く回復する?

ちなみに本日4:00JST時点の太陽高度は南側に約0.1489°。4°に達するのは12月11日0:00JSTごろ。土星の衝(黄経)は2025年9月21日ですから、その頃はまだ暗いままかなぁ?消失時期が終わっても、しばらくは目が離せませんね。

  • 2024土星の環の変化

    A.土星の環の明るさ変化
  • 土星の環の傾き

    B.土星の環の消失と傾斜角


今日の太陽と明け方の土星2025/04/30

20250430太陽
昨夜から今朝は概ね快晴。今日朝からも良く晴れています。時々風が強く吹いています。

20250430太陽リム
左は9:30過ぎの太陽。左上リム近く、活動領域14079が目立ってきました。まだ肉眼黒点としては見えないようです。もう数日したら見えるでしょう。中央右上、蛇のようなダークフィラメントが素晴らしいですね。このまま端まで持ちこたえて欲しい。左リムからも新たなプロミネンスが出てきました。

20250430土星
【追記】
27日明け方に続き、本日30日明け方にも土星観察実施。1.5時間前の準備中は穏やかな晴れ間でしたが、金星が隣家の屋根から見え出す頃には4m/sを越す強風が鏡筒を揺らし始めました。通常なら惑星強拡大などしない風速でしたが、やむを得ず実施。どのロールも写野外にはみ出てしまうほど揺れました。強引に4ロールをスタックして、それを更にコンポジットしたのが左画像です。27日より更に強めに処理してますが、元々ダメショットばかりなので環の影は見えませんね。

ただ、たった三日の差ながら10分ぶんほど土星が高くなりましたので、とても写しやすくなったことを実感しました。超低空の撮影は高度がわずか数度変わっただけでも大きく違います。5月7日までに穏やかな晴れ間がやって来て欲しいですね。

環のない土星2025/04/27

20250427土星
昨夜から今朝は曇りのち快晴。明け方低空まで良く晴れてシーイングもそこそこ良かったので、薄明中の土星に望遠鏡を向けてみました。

金星が隣家の屋根から現れたのは4時ごろで、航海薄明が始まっていました。10分ほど経つと土星も昇ってきました。ファインダーでしっかり捉えることができ、すぐに撮影開始。この時点で土星高度は約10.5°なので、まだゆらゆらして暗かったです。そこから20分ほど粘りましたが、あまり改善されませんでした。少し前にRB星のブログの熊森さんが「ADCで目一杯、効果強度を上げても足りない」とおっしゃってましたが、正にその通りでした。補正し切れない大気差の色ズレが残っています。

左は何枚かのスタック結果を更に加算平均したもの。かなり強めのデコンボリューションなどもかけてみたけれど、20cm望遠鏡では環の様子が分かりませんね。

20250427土星の品質グラフ(AS4!)
AutoStakkertなど通常のスタックソフトでは「像が明るいほどボケていないと判断されるので(背景が被ったフレームは)鮮明な画像」という結果になってしまうため、薄明でどんどん明るくなる状況下の撮影では『実際にボケていようが崩れていようが関係なく』品質グラフは右肩上がり(薄明が進むほど星像品質が高いと誤認)になってしまうのです(右図参照)。真夜中の撮影でも見えないような淡い雲がかかって被ったショットが良像判断になる事も経験しました。スタックソフトの致命的・構造的欠点とも言え、なんとかしてほしいものですね。

ともかく、明確な環は見えていないことは確かめられました。※現在の環は背面照射の状態です。シーイングが良ければ環の影側が細い筋になって見えるかも知れません。日々高度が上がって条件が良くなるので、また安定した晴れ間に恵まれれば撮ってみようと思います。

参考:
土星の環の『背面照射』を観る貴重なチャンス(2025/04/24)

土星の環の『背面照射』を観る貴重なチャンス2025/04/24

20090812_Saturn_by_Cassini
今年の天文現象でレア度ナンバーワンなのに、ニュースになれど実際は見向きもされない「土星の環の消失」。太陽に近いため望遠鏡を向けられない、観察も撮影もできない…。そんな事情は分かるけど、虐げられ過ぎてかわいそう。もう少し日の目を当てましょうよ…ということで、今回は環の話題。

一ヶ月ほど前の3月23日18時UTごろ、地球中心(地心)が土星の環の平面を北から南へ横切りました。この瞬間に地心から見た土星の環は厚みが感じられなくなり「消失」となったのでした。今後約15年に渡って地球から見える土星の環は「南側」ですから間違えずに覚えておきましょう。

ご存知のように環の消失はもう一種類あって、「太陽中心(日心)が環の平面を横切る」ときです。今年このタイプの消失も5月6日15時UTごろ起こります。土星から見た太陽は地球から見る視直径の1/9ほどで、これを点光源(大きさを無視)と考えれば、環は薄い紙を真横から照らしたような状態になり、縁を除く大部分に日光が当たらないため、地球はもとより太陽系のどこからも視認できなくなります。「環自身による環の食」「宇宙のどこからも環が見えない」というのがこの「日心通過による消失」タイプの特徴ですね。今回は日心が北から南へ横切るので、今日現在(4月24日)はまだ環の北側がわずかに照らされていることになります。太陽高度を計算すると環の面からわずか0.24°。地平線ならぬ「環平線」に沈みそうな極小太陽が弱々しい斜陽となって環を照らしていることでしょう。

ところで、環の消失で引き合いに出されるのが冒頭画像。土星探査機カッシーニが2009年8月12日に撮影したものです(NASAサイトからの引用)。ちょうど前回の「日心通過による消失」から約30時間後の撮影だそうで、本体に投影された環の影も極細ですね。このとき環の面からの太陽高度は約0.01°。太陽がほぼ環にくっつている状況です。みなさんはこの画像をご覧になって、違和感を感じなかったでしょうか?私は一瞬「フェイクじゃないか?」と思いました。

先ほど言ったことを思い出してください。日心が環面を横切るときは、例え近くを飛んでいるカッシーニからも環が見えないはず。消失瞬時から1日あまり経ったとは言え、画像に残るほど明るくなるとは思えません。地球照のように土星本体からの照り返しがあるかも知れませんが、そんなに強くないはず。画像処理過程を知るよしもなく初見当時は信じるしかありませんでしたが、後に充実が図られたカッシーニの映像アーカイヴの解説で真実を知りました。これは何枚も撮影された画像をモザイク合成したもので、そのままの輝度では全く環が見えないため、惑星面比で20倍(太陽から遠い環の側は更に暗いため60倍)もの輝度ストレッチをかけているとのこと。やはり違和感は正しかった…。

20090812_Saturn_by_Cassini
試しに冒頭画像の土星本体をマスク除外してから環の輝度だけ1/20にすると右のようになりました。少なくとも可視光域では地球から見ても、また土星の近くで見ても環が全く光らず、こんなふうに見えるんですね。

現在の土星はとても貴重な状態にあります。それは「環の北面が照らされているのに地球からは南面を見ている」ということ。つまり背面照射に似た状態なんです。照射面の裏側(影側)を見るチャンスは環の消失が起こる約15年ごとに1、2回起こります。今期を例にすると、下A図の黄色の部分のように0°を挟んで地球と太陽とが別々の側を見ている(照らしている)期間がそうなのです。期間が短いときもあれば長いときもあります。このとき、背面からは全く見えないのか、またはわずかに光って見えるのか興味があるところ。

国内外の惑星観測家から優秀な観測画像が集まる月惑星研究会のサイトを拝見すると、4月に入って名だたる観測者の35-45cm望遠鏡による土星画像が集まり出しました。とは言え4月15日時点では、赤道直下でも航海薄明開始時の土星高度が14°弱、日本では市民薄明開始時ですら7°程度。大きな望遠鏡でもくっきりとは行きませんが、可視光では全く環が見えず、近赤外ではわずかに光っているといった報告がなされています。

月末になれば市民薄明開始前に10°を越し始めるので、小口径持ちアマチュアでもなんとか土星を確認できるかも知れません。5月6日までは背面照射継続中ですからとても貴重な機会。晴れたらぜひ低空の土星を拡大して観察してくださいね。今回を逃すと次の背面照射は約15年後の2038-2039年。このときは下B図の通り4回の環の消失があり、背面照射のチャンスは分割2クール、トータル6ヶ月余りに及びます。

はっ、しまった!環に日の目を当てるはずが、日が当たらない話だった…。

  • 2025年・土星の環の傾斜と背面照射の観察チャンス

    A.2025年
  • 2038-2039年・土星の環の傾斜と背面照射の観察チャンス

    B.2038-2039年

  • 本文に出ている消失日時や上図は自作プログラムによる計算・描画です。環の消失は使用暦表や計算アルゴリズムによって数時間程度のばらつきが生じます。一応JPL-HORIZONSの計算値に対して誤差30分以内に収まっています。
  • 背面照射という表現をしていますが、光源と視線が完全に反対と言う意味ではなく、環を挟んで太陽照射と観測者(地球上)視線が南北にまたがっている、という位置関係を表現しています。