土星の環の『背面照射』を観る貴重なチャンス ― 2025/04/24
今年の天文現象でレア度ナンバーワンなのに、ニュースになれど実際は見向きもされない「土星の環の消失」。太陽に近いため望遠鏡を向けられない、観察も撮影もできない…。そんな事情は分かるけど、虐げられ過ぎてかわいそう。もう少し日の目を当てましょうよ…ということで、今回は環の話題。
一ヶ月ほど前の3月23日18時UTごろ、地球中心(地心)が土星の環の平面を北から南へ横切りました。この瞬間に地心から見た土星の環は厚みが感じられなくなり「消失」となったのでした。今後約15年に渡って地球から見える土星の環は「南側」ですから間違えずに覚えておきましょう。
ご存知のように環の消失はもう一種類あって、「太陽中心(日心)が環の平面を横切る」ときです。今年このタイプの消失も5月6日15時UTごろ起こります。土星から見た太陽は地球から見る視直径の1/9ほどで、これを点光源(大きさを無視)と考えれば、環は薄い紙を真横から照らしたような状態になり、縁を除く大部分に日光が当たらないため、地球はもとより太陽系のどこからも視認できなくなります。「環自身による環の食」「宇宙のどこからも環が見えない」というのがこの「日心通過による消失」タイプの特徴ですね。今回は日心が北から南へ横切るので、今日現在(4月24日)はまだ環の北側がわずかに照らされていることになります。太陽高度を計算すると環の面からわずか0.24°。地平線ならぬ「環平線」に沈みそうな極小太陽が弱々しい斜陽となって環を照らしていることでしょう。
ところで、環の消失で引き合いに出されるのが冒頭画像。土星探査機カッシーニが2009年8月12日に撮影したものです(NASAサイトからの引用)。ちょうど前回の「日心通過による消失」から約30時間後の撮影だそうで、本体に投影された環の影も極細ですね。このとき環の面からの太陽高度は約0.01°。太陽がほぼ環にくっつている状況です。みなさんはこの画像をご覧になって、違和感を感じなかったでしょうか?私は一瞬「フェイクじゃないか?」と思いました。
先ほど言ったことを思い出してください。日心が環面を横切るときは、例え近くを飛んでいるカッシーニからも環が見えないはず。消失瞬時から1日あまり経ったとは言え、画像に残るほど明るくなるとは思えません。地球照のように土星本体からの照り返しがあるかも知れませんが、そんなに強くないはず。画像処理過程を知るよしもなく初見当時は信じるしかありませんでしたが、後に充実が図られたカッシーニの映像アーカイヴの解説で真実を知りました。これは何枚も撮影された画像をモザイク合成したもので、そのままの輝度では全く環が見えないため、惑星面比で20倍(太陽から遠い環の側は更に暗いため60倍)もの輝度ストレッチをかけているとのこと。やはり違和感は正しかった…。
試しに冒頭画像の土星本体をマスク除外してから環の輝度だけ1/20にすると右のようになりました。少なくとも可視光域では地球から見ても、また土星の近くで見ても環が全く光らず、こんなふうに見えるんですね。
現在の土星はとても貴重な状態にあります。それは「環の北面が照らされているのに地球からは南面を見ている」ということ。つまり背面照射に似た状態なんです。照射面の裏側(影側)を見るチャンスは環の消失が起こる約15年ごとに1、2回起こります。今期を例にすると、下A図の黄色の部分のように0°を挟んで地球と太陽とが別々の側を見ている(照らしている)期間がそうなのです。期間が短いときもあれば長いときもあります。このとき、背面からは全く見えないのか、またはわずかに光って見えるのか興味があるところ。
国内外の惑星観測家から優秀な観測画像が集まる月惑星研究会のサイトを拝見すると、4月に入って名だたる観測者の35-45cm望遠鏡による土星画像が集まり出しました。とは言え4月15日時点では、赤道直下でも航海薄明開始時の土星高度が14°弱、日本では市民薄明開始時ですら7°程度。大きな望遠鏡でもくっきりとは行きませんが、可視光では全く環が見えず、近赤外ではわずかに光っているといった報告がなされています。
月末になれば市民薄明開始前に10°を越し始めるので、小口径持ちアマチュアでもなんとか土星を確認できるかも知れません。5月6日までは背面照射継続中ですからとても貴重な機会。晴れたらぜひ低空の土星を拡大して観察してくださいね。今回を逃すと次の背面照射は約15年後の2038-2039年。このときは下B図の通り4回の環の消失があり、背面照射のチャンスは分割2クール、トータル6ヶ月余りに及びます。
はっ、しまった!環に日の目を当てるはずが、日が当たらない話だった…。
一ヶ月ほど前の3月23日18時UTごろ、地球中心(地心)が土星の環の平面を北から南へ横切りました。この瞬間に地心から見た土星の環は厚みが感じられなくなり「消失」となったのでした。今後約15年に渡って地球から見える土星の環は「南側」ですから間違えずに覚えておきましょう。
ご存知のように環の消失はもう一種類あって、「太陽中心(日心)が環の平面を横切る」ときです。今年このタイプの消失も5月6日15時UTごろ起こります。土星から見た太陽は地球から見る視直径の1/9ほどで、これを点光源(大きさを無視)と考えれば、環は薄い紙を真横から照らしたような状態になり、縁を除く大部分に日光が当たらないため、地球はもとより太陽系のどこからも視認できなくなります。「環自身による環の食」「宇宙のどこからも環が見えない」というのがこの「日心通過による消失」タイプの特徴ですね。今回は日心が北から南へ横切るので、今日現在(4月24日)はまだ環の北側がわずかに照らされていることになります。太陽高度を計算すると環の面からわずか0.24°。地平線ならぬ「環平線」に沈みそうな極小太陽が弱々しい斜陽となって環を照らしていることでしょう。
ところで、環の消失で引き合いに出されるのが冒頭画像。土星探査機カッシーニが2009年8月12日に撮影したものです(NASAサイトからの引用)。ちょうど前回の「日心通過による消失」から約30時間後の撮影だそうで、本体に投影された環の影も極細ですね。このとき環の面からの太陽高度は約0.01°。太陽がほぼ環にくっつている状況です。みなさんはこの画像をご覧になって、違和感を感じなかったでしょうか?私は一瞬「フェイクじゃないか?」と思いました。
先ほど言ったことを思い出してください。日心が環面を横切るときは、例え近くを飛んでいるカッシーニからも環が見えないはず。消失瞬時から1日あまり経ったとは言え、画像に残るほど明るくなるとは思えません。地球照のように土星本体からの照り返しがあるかも知れませんが、そんなに強くないはず。画像処理過程を知るよしもなく初見当時は信じるしかありませんでしたが、後に充実が図られたカッシーニの映像アーカイヴの解説で真実を知りました。これは何枚も撮影された画像をモザイク合成したもので、そのままの輝度では全く環が見えないため、惑星面比で20倍(太陽から遠い環の側は更に暗いため60倍)もの輝度ストレッチをかけているとのこと。やはり違和感は正しかった…。
試しに冒頭画像の土星本体をマスク除外してから環の輝度だけ1/20にすると右のようになりました。少なくとも可視光域では地球から見ても、また土星の近くで見ても環が全く光らず、こんなふうに見えるんですね。
現在の土星はとても貴重な状態にあります。それは「環の北面が照らされているのに地球からは南面を見ている」ということ。つまり背面照射に似た状態なんです。照射面の裏側(影側)を見るチャンスは環の消失が起こる約15年ごとに1、2回起こります。今期を例にすると、下A図の黄色の部分のように0°を挟んで地球と太陽とが別々の側を見ている(照らしている)期間がそうなのです。期間が短いときもあれば長いときもあります。このとき、背面からは全く見えないのか、またはわずかに光って見えるのか興味があるところ。
国内外の惑星観測家から優秀な観測画像が集まる月惑星研究会のサイトを拝見すると、4月に入って名だたる観測者の35-45cm望遠鏡による土星画像が集まり出しました。とは言え4月15日時点では、赤道直下でも航海薄明開始時の土星高度が14°弱、日本では市民薄明開始時ですら7°程度。大きな望遠鏡でもくっきりとは行きませんが、可視光では全く環が見えず、近赤外ではわずかに光っているといった報告がなされています。
月末になれば市民薄明開始前に10°を越し始めるので、小口径持ちアマチュアでもなんとか土星を確認できるかも知れません。5月6日までは背面照射継続中ですからとても貴重な機会。晴れたらぜひ低空の土星を拡大して観察してくださいね。今回を逃すと次の背面照射は約15年後の2038-2039年。このときは下B図の通り4回の環の消失があり、背面照射のチャンスは分割2クール、トータル6ヶ月余りに及びます。
はっ、しまった!環に日の目を当てるはずが、日が当たらない話だった…。
- 本文に出ている消失日時や上図は自作プログラムによる計算・描画です。環の消失は使用暦表や計算アルゴリズムによって数時間程度のばらつきが生じます。一応JPL-HORIZONSの計算値に対して誤差30分以内に収まっています。
- 背面照射という表現をしていますが、光源と視線が完全に反対と言う意味ではなく、環を挟んで太陽照射と観測者(地球上)視線が南北にまたがっている、という位置関係を表現しています。