天気のシンギュラリティ(特異日)2017/11/03

青空と柿の実
数学や物理学などで特異点を表す「シンギュラリティ/singularity」という言葉を覚えたのは大学の頃でした。同じ頃、高い確率で晴れになる「晴天特異日」という言葉も知りました。ところが両者が同じ意味として結びついたのは最近になってから。今更ですがビックリ。

天気の特異日と聞くと、「とんでもない異常気象が起こるのでは?」と勘違いする人も少なくないようですが、全く関係ありません。ある観測地点で天気の統計を取ったとき、特定の天気になる確率が非常に高い日のことを指します。つまり特異なのは「確率の高さ」であって、天気の内容ではありません。本日11月3日は「東京での晴天特異日」として知られています。もちろん雨や雪、気温や日照などの特異日もあります。観察場所によってかなり違いますし、あくまで統計上の話なので将来の天気を推察することはできません。また時代と共に日付が変わったり、なくなったりします。統計上のお遊びと捉えてください。

特異日を見つけるには天気の統計手法が必要ですが、もう少し身近な手段で気軽に考えることもできます。手っ取り早いのは各地の気象台が発表している「天気出現率」を調べる方法。後述のルールに基づいて1日ごとに「晴・曇・雨・雪」という区分に分け、一定期間集計して出現率を算出します。下のA・B・C図は当地・茨城の県庁がある水戸と、比較のため、緯度が水戸とほとんど変わらない日本海側の金沢、そして雪が降らない那覇についてグラフにしたもの。それぞれ異なる特徴が出ていますね。(データソース:東京管区気象台および沖縄気象台。)

  • 天気出現率・水戸

    A:茨城県水戸市
  • 天気出現率・金沢

    B:石川県金沢市
  • 天気出現率・那覇

    C:沖縄県那覇市

同様の集計を東京でも行ったのですが、不思議なことに11月3日は取り立てて晴天出現率が高いわけではなく、70.0%でした。(※30年間の『11月3日』で、7割が「晴」だったという意味です。)東京の場合は80%を越す日が27日もありましたので、「11月3日が晴天特異日」というのは集計方法が違うのか、観察地や時期が違うのか、それとも都市伝説なのか、疑問に思う次第。なお晴天出現率がもっとも高いのはクリスマスイブの93.3%でした。なんと言うことでしょう、都内でホワイトクリスマスは望めそうにないのでした…。

天気ごとに考えたとき、何パーセントの確率が出やすいのか気になりました。更に集計を進め、下のD・E・F図も描いてみました。これを見ると、例えば水戸では雨と判断される日が出現するのはせいぜい50%止まりだとか、金沢の雪は70%付近の高確率までコンスタントに出現する(確実に雪が降る)などと言ったことが分かります。天気ごとのグラフの山が近いほど「天気が定めにくい」ことを意味します。実際の降水量・降雪量までは分かりませんが、「この季節に高い確率でこんな天気が現れる」と知っただけでも大きな特徴をつかめたと言えるでしょう。また、「どの程度の確率と出現頻度を特異日の閾値とするか」ということもこの集計から推し量れます。高い確率で晴れたとしてもそれが年間100日もあるなら、もはや『日常』ですよね。たとえば水戸を例にして「年間で数日以内の出現度数をもって特異日を定める」ことにした場合、確率の閾値は次の様になりました。

晴…85%以上(12月23日、12月30日)
曇…45%以上(6月28日、7月7日、7月11日)
雨…55%以上(7月4日、9月30日、10月8日)
雪…25%以上(1月12日、2月1日、2月3日、2月24日)

同じような出現度数でも、12月23日に晴れることと、1月12日に雪が降ることは確率が全く異なるのです。さすがに25%程度では特異と言えないので、「水戸では雪の特異日が設定できない」となるでしょう。天気の特異日とは元々「偶然とは思えない高確率」であることが前提ですからね。何を持って「特異」とするかは気候変動でも変わってゆくのでしょうから、こうした特異日の変化を追いかけることは意味がありそうです。みなさんもご自分の街のシンギュラリティを探してみてください。

惜しむらくは、この天気出現率が全国規模・同一基準・同一期間で整備されていないこと。各気象台がおまけ程度で発表しているような扱いで、とてももったいないと感じました。また天気出現率と言いながら確率が載ってないサイトや、期間がバラバラだったり集計方法が明記されてない情報源などもあります。せっかく天気の理解を深める良いソースなのですから、全国統一で整備してほしいと思います。

  • 天気出現率と日数・水戸

    D:茨城県水戸市
  • 天気出現率と日数・金沢

    E:石川県金沢市
  • 天気出現率と日数・那覇

    F:沖縄県那覇市

付記:気象台の統計によると、天気の分類は以下の1から4に向かって判断します。
  • 優先順位1・「雪」:雪日数に数えられる大気現象(雪、霧雪、細氷、ふぶき)が観測された
  • 優先順位2・「雨」:日降水量が1.0㎜以上あった
  • 優先順位3・「曇」:日降水量が1.0㎜未満で、日平均雲量が8.5以上あった
  • 優先順位4・「晴」:日平均雲量が8.5未満だった
  • 沖縄のデータでは「雪」のケースがありません。
  • うるう日の2月29日は件数が少ないので統計から除きます。


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