虹星カペラと星の瞬き[1]2017/11/11

20131003ぎょしゃ座
ぎょしゃ座が宵の北東に昇る季節となりました。この星座にある1等星「カペラ」は全天21個の1等星のなかでは最も北に位置します。1等星と言っても実際には0.1等星ほどの明るさを誇り、また色合い(スペクトル)は太陽と同じG型(黄や白金に例えられる色)です。左画像はぎょしゃ座の全景。一番明るい星がカペラです。11月中旬は21時頃にこんな向きで北東の中空に見えていますよ。

フラムスチードのぎょしゃ座
カペラを開始点に明るい星を五つ結ぶと、「ひしゃげたホームベース」の形が作れるでしょう。右図はフラムスチードによるぎょしゃ座の星座絵(オーストラリア国立図書館より引用・90°反時計回りにすると左上星座写真に一致・青補助線は筆者)。これを参考にすると五角形が御者の体を構成していると分かります。カペラと、近くに見える細長い三角星列の位置には小脇に抱えた3匹のヤギ(母ヤギと2匹の子ヤギ)。カペラとは「雌ヤギ」の意味なのです。どうしてヤギなのか…それは神話の本を紐解いてくださいね。

カペラは古くから「虹星」の別名があったそうです。昔読んだ本に「カペラは低空に見える時間が長いので、星の瞬きによって七色になる時間が長い」といった理由が書かれていましたが、書籍名を失念してるためはっきり思い出せません。(※ちなみに一般的に「虹星」とはかんむり座を指し、「虹のアーチに形が似てるから」という理由です。)当時は色変化の仕組みが全く理解できませんでしたが、その後実際に見た低空のカペラはほんとうに目まぐるしく色を変え、「虹星だ!」と実感したことを覚えています。でも「虹星と呼ぶ理由」はあまり納得できませんでした。全ての星は低空を通って昇り、低空へ沈むからです。ならば、どんな星も「虹星」でしかるべき。

カペラが唯一無二の「虹星」と言うことではないのでしょうが、特別そう呼ばれるには何らかの明確な理由があるはず。ここでは呼称の真偽は問わないことにして、「虹星カペラ」を追求してみましょう。これを紐解くには、少なくとも次の三つのことを明らかにしなくてはいけません。

  • 星が瞬くと虹色になるってどういうこと?
  • カペラが他の1等星より低空に位置する時間が優位なのは本当?
  • 低空であること以外に理由はないの?

当記事はこの題材に沿って三回シリーズでお伝えします。今回は「星の瞬きと見かけの変化」です。

20171101カペラの色
左画像はちょっと特殊な方法で撮影した低空のカペラ。日周する星をモーターで追いかけて「点像」に写した記事最初の画像みたいな方法ではなく、逆に高速で動かして「線像」にしたのです。こうすると画像を横切る数秒間にどんな変化があるのか分かります。(※3回行った画像を並べました。)

大気は気圧差や温度差によって細かく密度を変えるため、まるで「コップにギッシリ詰めた透明消臭ビース」を揺らしながら宇宙を見ている状況を作ります。それは絶えず移ろい、遠方からやってくる星の光を歪ませ、「位置」「明るさ」「色」を高速で変化させてしまうのです。望遠鏡をのぞきこんだこどもたちが真っ先に「月が燃えてる!」と叫ぶのは月面観察会の「あるある反応」。陽炎越しのようにモヤモヤ動く月面や輝星は、正に燃えているように感じるのでしょう。「月は暑いんだねぇ」と真顔で語る親御さんもいます。

星像を乱す原因になる現象を「大気のシンチレーション」と呼んでいますが、一般には「星の瞬き」のほうが馴染みある言葉でしょう。左上画像はシンチレーションによって変化するもののうち、色と明るさを顕著に表しています。(※輝線がふらついているのは手動で動かしたためなので、ここでは気にしないでください。)くり返しますが、この1本の線はわずか1、2秒の出来事ですよ。

私たちの目は敏感なので、肉眼でも色や明るさが細かく変わる様子が分かります。恒星が低い位置ほど大気間を長距離通りますから、シンチレーションの影響も膨大になります。太陽や月は頭上より沈むときの方が暗くダルマ状に変形しますが、これも影響の一種。同じ事は恒星でも起こるのです。恒星は極めて小さい点像なので、太陽や月・惑星よりも変化がずっと明確です。「低い位置の恒星ほど虹色に見える」とはこんな理由なのでした。もちろん更に超低空だと、全ての恒星や惑星は夕日のように真っ赤になってしまいます。

20171027月面X原画
参考までに「シンチレーションによる位置ずれ」の例もご覧いただきましょう。右画像は2017年10月27日に見えた月面Xで撮影したコンポジット前の元画像(X地形付近の原寸トリミング)。各撮影は数秒おきですが、X地形や周辺クレーターの形が撮影毎に変形しています。パッと見て分からない程度でも、画像上で数ピクセル以上ずれているので、シンチレーションがひどい夜は何十枚コンポジットしてもボケた像になってしまうのです。

特に冬場の乾燥空気で多いシンチレーション。星が瞬くのは肉眼で眺めるのにとてもキレイですが、写真を撮る人にとっては大敵。月や惑星を拡大撮影する方は高層天気図とにらめっこしますよね。何を追い求めるかは人それぞれですが、今回のネタである虹星カペラはシンチレーションの多くなる今が旬です。


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今日の太陽2017/11/11

20171111太陽
昨夜は天気が崩れ、明け方には近隣で小雨が降ったり風が強く吹きました。太陽が昇ってからは回復しましたが、朝のうち強風が残りました。

20171111太陽リム
左は10:45頃の太陽。今日も活動領域はありません。左上リムに目立つプロミネンスが出ています。右下にもループ状のものが薄く見えます。午後からはやや雲が多くなりました。