地球に近づく小惑星は秋に多い?2025/09/04

Asteroid 1999 JM8
昨日なにげにYahooニュースを見ていたら、たまたまNewsweekスペースチャンネルで地球接近小惑星を取り上げていました。しかもそれぞれ別の小惑星だったのが面白い。少し前に小惑星2024 YR4が地球や月にぶつかる確率が話題になった時、様々なメディアがこぞって取り上げたものですが、今回のように全く違う、話題にもなってない小惑星が個別のニュースになったのは珍しいかも。

さて、随分前から「地球近傍小惑星の接近が特定日/特定時期に集中することはあるのだろうか」と気になっていました。2018年9月12日記事では「1週の間に月より近くなった小惑星が6つも!」と題して当時立て続けにやって来たPHA(Potentially Hazardous Asteroids)を取り上げました。例えば流星群の日は一定の方向からやってくる流星や火球が一気に増えますね。同じようなことが小惑星にあるのか、という疑問なんです。もしあるとすればランダムに見える小惑星分布にも、所々に人間が気付けない程度の「小惑星銀座」みたいな通り道、あるいは何らかの理由で密度が周囲より高い部分があることになります。

毎日見ているSpaceWeather.comサイトの表紙下部にNear Earth Asteroidsの一覧表が載っていて楽しみ(?)にしています。これを日々集計すれば、特定日に集中することがあるのかどうかが分かるはず。と言うことで、現時点で閲覧可能な2017年4月15日から昨日9月3日まで8年4.5ヶ月あまりの間に掲載された全ての表を集計してみました。(※それ以前のものはフォーマットが違うので今回は含めませんでした。)

PHA最接近個数の推移(2017-2025)
結果が右グラフ。同じ小惑星を重複して数えないよう気を付けながら、地球最接近日ごとにカウントしたものです。この期間で一番多かったのは2024年10月28日UT。たった1日の間に15個ものPHAが地球から0.05天文単位内を通って行きました。恐ろしぃぃぃ…。具体的には「2020 WG」「2024 SE26」「2024 UC11」「2024 UF4」「2024 UF6」「2024 UG6」「2024 UO2」「2024 UO4」「2024 UO5」「2024 UQ1」「2024 UT2」「2024 UT4」「2024 UV7」「2024 UW7」「2024 UX」の15個。一番大きかったのは2020 WGで160m。一番近かったのは2024 UO4で0.2LD(月までの距離の20%)。一番高速だったのは2024 UW7で秒速15.8km。

前出「一週間に6個」のページを書いた際にも「秋に多いな」とは感じたのですが偶然だろうと思ってました。でも右上図でもやはり各年の秋に山があります。これには驚きました。この先100年分くらい集計したら傾向が分かるでしょうか。まぁ単純に内的要因…例えば天の川に邪魔されず探しやすい時期等と言った探す側に起因することなのかも知れません…。サーベイ施設が北半球だけなら昼時間の増減は大きな要因でしょうが、ATLASとかSiding Spring Surveyなど南半球勢も活躍してるし…。それでも北半球が多めなので、内的要因のひとつになり得るかな。これは未来への宿題ですね。距離を限定したり、大きさを限定したり、あるいは発見した空の位置などに注目して集計し直すと別の側面が見えて興味深いかも。(※当然ながらサーベイ施設の増加や機材アップデートのたびに発見数が飛躍すると思うので、厳密な比較は難しいでしょう。)

現在新たに見つかるPHAの多くは直径が数十メートル以下で、地球に近づいてようやく見つかるか、または通り過ぎるときに見つかるものがほとんど。1996年10月に日本スペースガード協会が設立されてもうすぐ29年。世界各地に多くの小惑星サーベイ基地が作られてきましたが、それでもまだ見逃しは多いのでしょうね。地球の防衛はまだまだです。

今日の太陽2025/09/03

20250903太陽
昨夜は曇り。明け方明るくなってきた頃に雲がだいぶ取れて、東空の木星や金星、冬を飾る星々を楽しむことができました。朝から昼までは概ね晴れていたけれど、午後はどんより。15時ごろには近くを雷雲が通るようになりました。

20250903太陽リム
左は9:20ごろの太陽。左端やや下リムに小黒点を伴った活動領域14211ができました。現在見える側には17ヶ所もの活動領域があります。いやぁありがたい。ダークフィラメントも立派だしプロミネンスもそこそこ見えていてイイですねぇ。

気象庁アメダス速報値の本日0時から15時までの集計による夏日地点数は844、真夏日地点数は588、猛暑日地点数は120、国内最高気温は山梨県勝沼ポイントの38.5度。熱帯低気圧の日本横断で、明日や明後日は一時的に気温が下がるかな?

どうなるレモン?光度曲線の舞台裏2025/09/03

20250902_レモン彗星(C/2025 A6)

9月2日明け方のレモン彗星(街中撮影)
※西北西に短い尾が伸びている。
「彗星の光度予報は難しい」「騒ぎ立てると明るくならない」などと言われます。迷信はともかく、光度の予報にどんな難しさがあるのか、明るくなると騒がれたレモン彗星(C/2025A6)の予報が撤回されてしまったのはなぜか、他人の予報を参考にする上での注意点などを探ってみます。(※特定の人や考えを責める意図はありません。あくまで個人が感じたことです。)

この記事内容は彗星観測家には当たり前のことだけれど、一般にはあまり馴染みが無いでしょう。天体光度は「正しい手順で観測された数値」が絶対です。優れた天気予報も、台風予報も、地震予知も、AI思考も、現実にそぐわないものは切り捨てられるのと同じこと。周期的なパターンが多い変光星等と比べて彗星が大きく異なるとすれば、天体で起こる突発的な変化(アウトバーストや核崩壊)が予測できないこと、そして、それでも「基本的な光度式から逸脱しない」という制限があるところ。基本的な光度式、というのは「見た目の光度=絶対等級+地心距離の関数+日心距離の関数」で表されます。ここは深入りしませんので学びたい方は調べてください。

地球から見た彗星の明るさは「基準の明るさ=絶対等級」に対して地球や太陽との距離に応じた増減があるよ、ということです。彗星が地球近くにやってきたら明るく見えるし、太陽に接近しても明るくなります。この「縛りプレイ」を守りつつ観測値に合うような関数の係数を求めればいいので、難しい話じゃありません。(※実際は前方散乱/後方散乱などといった微調整もありますが、大勢には影響しません。)ちなみに表計算ソフトなどで適当な散布図を描き、近似曲線を求めるとスプライン補間などを使った近似…いわゆるトレンド曲線が簡単に求まります。でもこの方法は光度式の縛りに従ってないので、完璧なフィッティングだとしてもNG。

予想できないバーストや崩壊で光度が極端に変化したりしない限り、光度式の係数が決まれば今後の変化が予測できる仕組みです。更に言うと曲線云々よりも、質の良い光度観測をいかにたくさん集めるかが一番大切、かつ難しいのです。

レモン彗星光度曲線(Vanbuitenen)
Vanbuitenen氏のサイトで8月26日頃発表された光度曲線を右に引用しました(書き込みは筆者)。これを見たとき「明らかにおかしい」というポイントを幾つか見つけたのですが、真偽の判断より早く世界中に広まってしまいました。こういう風潮は褒められたものではありません。確かに「明るく育って欲しい」のは私を含め多くの愛好家の望みでしょう。夢を抱くのは自由です。でも、だからといって科学的なプロセスを経た見極めもせず、嬉しさの勢いに任せて情報拡散するのはいかがなものでしょうか。

古くからの星仲間である吉田誠一くんは若い頃から熱心に彗星光度の観測と集計に取り組んでおり、当時作ったComet for Windowsという集計ソフトは今も彼のサイトで活用され、世界中から閲覧されたりwikiで引用されています。以下、彼のサイト内グラフとVanbuitenen氏のグラフを見比べながら、私がチェックしたポイントを挙げていきます。

◎初期の観測値が反映されていない
この彗星は今年1月3日に21.6等の小惑星としてLemmonサーベイに引っかかりました。初期データは重要で、観測が少ない時期の拠り所になるでしょう。しかも20等以下ですからアマチュア観測網はほとんど当てになりません。発見前に撮影された画像からも検出され、また彗星活動も確認され、数ヶ月後には昨年11月(22等以下)から今年3月までの光度や位置の精測データが揃いました。吉田くんのサイトではそれらが全てプロットしてありますが、Vanbuitenen氏のグラフには初期の精測データが一切含まれていません。この時点でおかしいと気付くべきでした。前出グラフ曲線では2月でまだ22等ですから、11月まで遡ったら24等以下になってしまうのです。

◎太陽に近くて見えない時期があった
彗星に限らず、惑星、小惑星、変光星などを一年中追いかけている方はご存知と思います。天体の継続観測はたいてい太陽が邪魔で見えない時期があるものです。また初期のレモン彗星のように暗過ぎて大望遠鏡が必要な場合、施設によっては主鏡支持が不安定な姿勢になるため、水平方向に向けられない場合もあります。低空ギリギリまで追えるわけではありません。レモン彗星は今年4月から8月上旬まで観測できませんでした。

◎太陽から離れつつある途中での増光
ようやく明け方に回ったレモン彗星が捉えられ始まったのは8月9日。概ね予想通りの15等前後でした。ところが二日後にいきなりアウトバーストして11等台になったのです。吉田くんの予報の立て方はこうした元々の光度曲線に乗らない場合、そこから新しいカーブに乗り換えます。新たなカーブは太陽から離れると元のカーブに合流するのが筋ですから、カーブの性質を極端に変えないまま合流したところで元の曲線に戻します。観測値の推移が曲線からずれた場合は新たにフィッティングし直します。私が知る限りこの分割方式は彼しか使っていませんが、バーストや崩壊にも対応できる合理的な手法と言えるでしょう。反面、彗星ひとつにつき複数の式を管理しなくてはならない煩雑さも要求されます。

◎Vanbuitenen氏の光度曲線は…
Vanbuitenen氏のフィッティングに使っているデータはCOBSのみであったことを確認しています。前出グラフの時点で使われたCOBSデータは初期の14件のみ。このデータは4月前の2件と増光直前の1件しか含まれず、他は全て増光後の値でした。従って前出グラフに書き込んだA群とB群の二点だけ通ればいい光度式になってしまい、ピークがマイナス2.5等というトンデモグラフになったと思われます。もし本当にそれしかデータが無かったら誰が描いてもそうなったでしょうが、既に多数存在する「初期観測」「増光直前のデータ」が反映されてないのは致命的。これも吉田くんのグラフと見比べればすぐ分かること。曲線に目が行きがちだけれど、大事なのはプロットデータのほうです。

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レモン彗星光度曲線(比較)
念のため、その後3、4日かけて全ての測光データを一次情報源まで辿って顛末の全容について裏を取り、今回の記事を書くに至りました。左図はあらためて4種の光度曲線を比較するため自作プログラムで描いたもの。(光度データはV等級とG等級のみ/8月31日現在まで。)9月2日現在公開されているVanbuitenen氏のグラフ(ほぼピンクの線から変わっていない)も、過去のデータ(8月上旬以前)はかけ離れており、良くなったとは言えません。一本線でバーストまで含めるのは無理があるようです。

また、吉田くんがデータの明るいほうに寄せているのに対し、MPCの曲線は低いほうに寄せています。「これより明るくならない」「これより暗くならない」という算出方針の違いが見受けられ、光度曲線にも恣意的な側面があることが伺えます。この辺りは長期にわたって安定した測光データが揃っている周期彗星の光度曲線を各サイトで見比べるといっそうはっきりします。光度曲線を単純な当たり外れで区別するのは「あの神社のおみくじは良く当たる」と言ってるようなレベルなので避けるべき。どこが良くてどこが悪いか、元データとのフィッティングをしっかり解析しましょう。

「これはおかしい」と気付けることに特殊な能力は必要ありません。ちょっとした気遣いみたいなものです。勘のいい人なら中高生でも見抜けるでしょう。どうか拡散する前にひと呼吸おいて、「本当にこれは正しいのか調べてみよう」「正しいかどうか判断できないなら拡散しないでおこう」「詳しい人に聞いてから判断しよう」と思いとどまる勇気を持ってください。そのプロセスによって皆さんご自身もたくさん勉強することになり、情報判断スキルが劇的に成長するはずです。

彗星光度くらいなら大間違いしても誰も傷つかないわけで、「そんなムキにならなくても、たかが趣味なんだし」とスルーできるかもしれません。でも垂れ流す癖がある人はどんな時でも素が出てしまうもの。「大地震が来る」「大きな隕石が降ってくる」「株が暴落する」「たったいま事故に遭った、助けて」みたいなフェイクかも知れない話に脊髄反射的リツイートしてたら情報混乱を誘発し、シャレになりません。一度大きなニュースになってしまったらAIが既成事実として吸収して剥がせなくなるリスクだって大きい。

たまたま昨日9月2日の天リフ作業配信で同調圧力の話が出てました。圧力に屈しないのは当然としても、ひとつのサイトの光度曲線だけ見て大騒ぎし、みんなを飲み込んでしまう圧力を仕掛ける側に立ってしまった、なんてことも避けなくちゃならんでしょう。複数ソースでファクトチェックは基本中の基本。また、明るくなると思い込んで初心者が観測すると、同調性バイアスによって明るめに見積もってしまったり、画像を明るく仕上げてしまう傾向があります。平常心、公明正大って難しい。

彗星の光度
最後にもうひとつ、『情報はただではありません』。キーを叩けば何でも分かる時代ですが、例えば一本の光度曲線を得るのにどれだけの人が労力を費やしているか意識したことはあるでしょうか。寝る間も惜しんで(もちろん無償で)彗星観測をライフワークとしている方々が日本や世界にいらっしゃるおかげで、私のような末端のアマチュアは「今度明るい彗星が来る」と分かるんです。農家の努力がなければオニギリひとつ食べられないのと同じですね。

天体発見者は褒め称えられ栄誉を得ますが、地味な観測者はたいした表彰もされませんし、50年観測続けても世間に知られることすら無いでしょう。筋を通すなら、そうした観測者にも感謝を伝え、一件でも多くの位置・光度測定を手土産に提供したらいいと考えるわけです。特に天文情報や知見を『使わせてもらって』自分のアイデンティティーを着飾っている人は、情報の根っこを支える方々への敬意や恩義があって然るべきじゃないでしょうか。これ、タダで情報が手に入るのをいいことに好き勝手活用してる私たちに大きく欠けてしまった心構えと思いますよ。彗星王国日本を支えてきたのは、発見者だけでなく観測者や計算者を含めた全員なのですから。

みなさんも見栄えする時期ではなく、暗いころの彗星を観たり撮ったりして、光度を測ってみてください。写真測定では強調などせず、リニア画像のままコマの広がりを見極め、測らなくてはなりません。いかに難しい作業か分かると思います。眼視測定も他人より暗い測定値になってしまう、明るく見積もってしまうといった個人の癖が出てしまい、私も若いころ散々悩みました。集光度、機材の規模、空の環境にも左右されます。一筋縄で行かないのが彗星光度観測の世界。光度グラフの片隅の小さなドットをひとつ得るだけでも大変な作業。それをしっかり身に刻んだら、不確実情報を右から左へ流すことが迂闊だったと思い知らされるでしょう。願わくばリスペクトがつながる天文の世界を。

散々書きましたが、レモン彗星がどうなるかはまだまだ分かりません。明暗に関わらず、できるだけありのままを観測記録しましょう。記事内で使用した主なデータの出展は以下の通り。(これはほんの一部です。)



今日の太陽2025/09/02

20250902太陽
昨夜は少し風が強めだったものの、とても良い天気。明け方は晩秋を思わせる透明度の良さでした。でもシーイングは悪目。そして気温も29度…。朝からも快晴で蒸し暑くなりました。

20250902太陽リム
左は9時ごろの太陽。活動領域14207以降、新たな黒点は入ってきてないようです。X線フラックスも下降気味で、黒点は多いけれど穏やかになりました。左上リム高緯度にループになりかけのプロミネンスがかっこいいですね。

30日20:00UT(31日5:00JST)に発生したCMEは今朝方地球を直撃したようで、北米やヨーロッパで低緯度オーロラが発生したようです(右下図参照)。

20250901_CME_IMPACT
気象庁アメダス速報値の本日0時から15時までの集計による夏日地点数は814、真夏日地点数は654、猛暑日地点数は238、国内最高気温は埼玉県鳩山ポイントの39.8度。またしても鳩山、そして40度に迫る…。