速いは正義か? ― 2024/12/02
みなさんは惑星をデジタル機器で撮影したり電子観望する際、露出をどの程度に設定しておられますか?対象の明るさにも寄るでしょうが、多くの場合は定石に従いシーイングの悪影響を避けるため、また一回の撮影あたりのフレーム数を稼ぐため、暗い土星でも1/30秒、明るい木星や金星では1/100秒以下にしているのではないでしょうか。
天文学辞典によると、「(大気密度変化による)光度の変化をシンチレーション、位置の変化をシーイングと呼ぶ」そうです。私たちを取り巻く大気はマクロ視点でもミクロ視点でも常に密度が変化しますから、地上へ到達する星の光は無数の屈折を経ています。結果、大気が無い場合と比較して光が届く場所も強さも変わってしまうと言うこと。
バーティノフマスクなど回折系ピント治具の像をじっくり観察すると、ごく短時間で細かくブレたり、ピント面が前後に変わっていることに気付くでしょう。これがボケを生み、明るさを変化させ(=シンチレーション)、美しい円形であるはずの結像をアメーバみたいに変形(=シーイング)させます。波長によっても変化の度合いが変わるため、特定色以外はぼけるような変化もあるから始末に負えませんね。
短周期のピンボケは私たちアマチュアレベルの望遠鏡では為す術が無く、できるだけ大気が薄い場所で観測するくらいしか手立てがありません。ですが動画処理ソフトウェアで暗いフレーム(=ピンボケ)を排除すれば「変形していてもピントが合った像」だけを選択できますから、スタック過程や後処理で位置変化のみ対処して精鋭化すれば良いことになるでしょう。Autostakkertなどのスタックソフトは初期選別にこのような処理をしていると考えられます。(※従って、青空の中の金星を撮るなどの状況下では薄雲が通過して明るくなった画像が“良画像”と誤判定され、雲のないフレームは捨てられてしまいます。経験済み…。)
ここまではまぁ分かるのですが、「速いシャッタースピードは正義」かというと、私は疑問を抱きます。求めるものによるでしょうが、最終的に一枚の画像として仕上げる場合と、動画そのものが必要=配信や電子観望としての即時演示が目的の場合とでは、設定の考え方が全く違うと考えています。
冒頭は12月1日宵の土星。30分かけて20本の動画を撮影し、スタック、デローテーションを経て一枚画にしました。1フレームの露出は32ミリ秒、だいたい1秒あたり30フレームですね。これとは別に、露出を8倍の256ミリ秒にした動画も撮影しました。もちろんヒストグラムが同じになるようゲインを調整してあります。このそれぞれの動画を「撮影時とほぼ同じ速度」で再生するように作ったGIF動画を下に掲載しました。「動画として」どちらが見やすいか見比べてみてください。
動画として撮っているとは言え、32ミリ秒あるいは256ミリ秒ぶんの光をいったん蓄えて一枚画とし、ズラッと並べたのが動画ファイルです。短時間ではあってもシーイングやシンチレーションの変化で光量や形が変化し、それがちらつきや震えとして見えています。この土星はかなりシーイングが悪い状態で撮りました。動画Aは臨場感があるけれど、配信や電子観望演示でこれを見続けると、私なら頭が痛くなってしまうでしょう。いっぽうBのほうはフレームレートが抑えられ、また粒状性も格段に良くなって「カクカクなのに滑らか」に感じます。暗黙に光学系側で「加算平均」されている訳ですね。(※逆に言うと最終目標が一枚画の場合、光学系側にピンボケもろとも加算平均させないよう、撮影時の時間分解能を上げて不良画像を丁寧に取り除くため「速いは正義」にしていると考えれば納得が行きます。)
人によって好みはあるけれど、月や惑星では通常の数倍から数十倍の露出にしたほうが「観賞/観察するための動画」として美しく感じることが多いと思っています。日本が誇るアニメーションの世界でもリミテッドアニメ(フレームレートを抑えたアニメ)がちゃんと成立してますから、伝えたいことが伝わるなら1秒30フレームにこだわらなくても大丈夫。
もちろん、露出を伸ばす代償として「しっかりガイドし続けていること」「ピリオディックモーションや地面からの振動、強風など、ブレの外的要因が少ないこと」等の前提が必須です。また、これはダイナミックな変化がない対象だから通じること。「月を横切る国際宇宙ステーションを電子観望で見よう」といった企画でこの手法を使っても対象が速すぎて成り立ちません。流星群ライブなども紙芝居になってしまうでしょう。使いどころを選ぶ手法と言う訳ですね。
下には日付が11月30日になったころ撮影した木星の例も掲載しました。DはCの元となった動画、Eは露出を10倍以上長くした動画。このときは土星よりも若干シーイングが良かったです。こうして比べるとブレが少ないですね。同様の方法は暗い天体や重星の撮影などでも効果を発揮します。当然ながらシーイングが良いほど長露出動画が静止画のごとくピタッと止まり、感動しますよ。速い露出が善か悪かと決めつけるのではなく、ノウハウのひとつとして覚えておくと何かと役に立つでしょう。
天文学辞典によると、「(大気密度変化による)光度の変化をシンチレーション、位置の変化をシーイングと呼ぶ」そうです。私たちを取り巻く大気はマクロ視点でもミクロ視点でも常に密度が変化しますから、地上へ到達する星の光は無数の屈折を経ています。結果、大気が無い場合と比較して光が届く場所も強さも変わってしまうと言うこと。
バーティノフマスクなど回折系ピント治具の像をじっくり観察すると、ごく短時間で細かくブレたり、ピント面が前後に変わっていることに気付くでしょう。これがボケを生み、明るさを変化させ(=シンチレーション)、美しい円形であるはずの結像をアメーバみたいに変形(=シーイング)させます。波長によっても変化の度合いが変わるため、特定色以外はぼけるような変化もあるから始末に負えませんね。
短周期のピンボケは私たちアマチュアレベルの望遠鏡では為す術が無く、できるだけ大気が薄い場所で観測するくらいしか手立てがありません。ですが動画処理ソフトウェアで暗いフレーム(=ピンボケ)を排除すれば「変形していてもピントが合った像」だけを選択できますから、スタック過程や後処理で位置変化のみ対処して精鋭化すれば良いことになるでしょう。Autostakkertなどのスタックソフトは初期選別にこのような処理をしていると考えられます。(※従って、青空の中の金星を撮るなどの状況下では薄雲が通過して明るくなった画像が“良画像”と誤判定され、雲のないフレームは捨てられてしまいます。経験済み…。)
ここまではまぁ分かるのですが、「速いシャッタースピードは正義」かというと、私は疑問を抱きます。求めるものによるでしょうが、最終的に一枚の画像として仕上げる場合と、動画そのものが必要=配信や電子観望としての即時演示が目的の場合とでは、設定の考え方が全く違うと考えています。
冒頭は12月1日宵の土星。30分かけて20本の動画を撮影し、スタック、デローテーションを経て一枚画にしました。1フレームの露出は32ミリ秒、だいたい1秒あたり30フレームですね。これとは別に、露出を8倍の256ミリ秒にした動画も撮影しました。もちろんヒストグラムが同じになるようゲインを調整してあります。このそれぞれの動画を「撮影時とほぼ同じ速度」で再生するように作ったGIF動画を下に掲載しました。「動画として」どちらが見やすいか見比べてみてください。
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A.32ms/frの撮影 -
B.256ms/frの撮影
動画として撮っているとは言え、32ミリ秒あるいは256ミリ秒ぶんの光をいったん蓄えて一枚画とし、ズラッと並べたのが動画ファイルです。短時間ではあってもシーイングやシンチレーションの変化で光量や形が変化し、それがちらつきや震えとして見えています。この土星はかなりシーイングが悪い状態で撮りました。動画Aは臨場感があるけれど、配信や電子観望演示でこれを見続けると、私なら頭が痛くなってしまうでしょう。いっぽうBのほうはフレームレートが抑えられ、また粒状性も格段に良くなって「カクカクなのに滑らか」に感じます。暗黙に光学系側で「加算平均」されている訳ですね。(※逆に言うと最終目標が一枚画の場合、光学系側にピンボケもろとも加算平均させないよう、撮影時の時間分解能を上げて不良画像を丁寧に取り除くため「速いは正義」にしていると考えれば納得が行きます。)
人によって好みはあるけれど、月や惑星では通常の数倍から数十倍の露出にしたほうが「観賞/観察するための動画」として美しく感じることが多いと思っています。日本が誇るアニメーションの世界でもリミテッドアニメ(フレームレートを抑えたアニメ)がちゃんと成立してますから、伝えたいことが伝わるなら1秒30フレームにこだわらなくても大丈夫。
もちろん、露出を伸ばす代償として「しっかりガイドし続けていること」「ピリオディックモーションや地面からの振動、強風など、ブレの外的要因が少ないこと」等の前提が必須です。また、これはダイナミックな変化がない対象だから通じること。「月を横切る国際宇宙ステーションを電子観望で見よう」といった企画でこの手法を使っても対象が速すぎて成り立ちません。流星群ライブなども紙芝居になってしまうでしょう。使いどころを選ぶ手法と言う訳ですね。
下には日付が11月30日になったころ撮影した木星の例も掲載しました。DはCの元となった動画、Eは露出を10倍以上長くした動画。このときは土星よりも若干シーイングが良かったです。こうして比べるとブレが少ないですね。同様の方法は暗い天体や重星の撮影などでも効果を発揮します。当然ながらシーイングが良いほど長露出動画が静止画のごとくピタッと止まり、感動しますよ。速い露出が善か悪かと決めつけるのではなく、ノウハウのひとつとして覚えておくと何かと役に立つでしょう。
【余談】
本記事と全く関係ありませんが、11月30日宵に撮影した紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)を一ヶ月前のものと並べてみました。機材や露出時間、スケールなどは一緒です。ううぅ、ちっちゃくなっちゃったねぇ…。あと一ヶ月くらいは宵空で追えるでしょうか?
本記事と全く関係ありませんが、11月30日宵に撮影した紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)を一ヶ月前のものと並べてみました。機材や露出時間、スケールなどは一緒です。ううぅ、ちっちゃくなっちゃったねぇ…。あと一ヶ月くらいは宵空で追えるでしょうか?
2024年で日没が最も早いシーズン&今日の太陽 ― 2024/12/02
今年も残り一ヶ月弱でおしまい。「年齢が上がるほど月日が過ぎるのを早く感じるようになるのは、これまで生きた時間と比べるからだ」と誰かに聞いた覚えがあるけれど、正にいまそれを噛みしめています。
左に2024年の「日没最早日マップ」を掲載しました。今日はもう南西諸島を北上しきって屋久島や種子島へ到達。明日より九州から北海道まで一週間あまりで北上します。地図に書いてある日が日没の最も早い日ですから、翌日からは少しずつ遅くなり始めるということ。
現在まだ宵空の紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)の観察を継続している方は少なくないでしょうが、最早日以降は薄暮終了も次第に遅くなりますから、観察時間設定に留意しましょうね。といっても、実感できるほどのズレが生じるのは年が明けてからでしょう。彗星が夕空から姿を消すほうが先ですね。なおご存知かと思いますが、日の出はまだ遅くなり続けていますので、両者の差、つまり昼時間は冬至まで短くなり続けます。
昨夜は快星のち曇り、今日は晴れたり曇ったりが続いています。夜は冷えるけれど、日中の日向はまだ暖かさを感じます。今週末7日は二十四節気の「大雪」、その二週間後の21日は「冬至」です。
左は10:10ごろの太陽。左リムの大規模なプロミネンスは継続中。足元が光球内に入ってきたかな?といった感じです。南半球の黒い三連星的な黒点達はだいぶ右リムに近づきました。
参考:
日出没・暦関連の記事(ブログ内)
左に2024年の「日没最早日マップ」を掲載しました。今日はもう南西諸島を北上しきって屋久島や種子島へ到達。明日より九州から北海道まで一週間あまりで北上します。地図に書いてある日が日没の最も早い日ですから、翌日からは少しずつ遅くなり始めるということ。
現在まだ宵空の紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)の観察を継続している方は少なくないでしょうが、最早日以降は薄暮終了も次第に遅くなりますから、観察時間設定に留意しましょうね。といっても、実感できるほどのズレが生じるのは年が明けてからでしょう。彗星が夕空から姿を消すほうが先ですね。なおご存知かと思いますが、日の出はまだ遅くなり続けていますので、両者の差、つまり昼時間は冬至まで短くなり続けます。
昨夜は快星のち曇り、今日は晴れたり曇ったりが続いています。夜は冷えるけれど、日中の日向はまだ暖かさを感じます。今週末7日は二十四節気の「大雪」、その二週間後の21日は「冬至」です。
左は10:10ごろの太陽。左リムの大規模なプロミネンスは継続中。足元が光球内に入ってきたかな?といった感じです。南半球の黒い三連星的な黒点達はだいぶ右リムに近づきました。
参考:
日出没・暦関連の記事(ブログ内)