見納めの水平月2021/11/04

20211104極細月と水星
昨夜から今日明け方も前夜同様に時折雲が行き交う空。幾分前夜より雲量少な目でしたが、透明度は悪い感じでした。

明日5日朝に新月を迎えるので、明け方の月は今日まで。かなり横倒しになった様子を見たいところでしたが、深夜に周囲を見渡すと低空の雲がなかなか取れません。自宅からは低すぎて絶対見えないため視界が開けた場所へ移動しなくてはなりませんが、半身麻痺の自分にはなかなか難しい判断です。でも今年ラストチャンス、見えなくても構わない覚悟で機材を抱え30分ほど歩いて行きました。

薄明が始まっている上空は星が綺麗でしたが、低空は四方とも雲だらけ。特に西と東はいつまで経ってもなかなか動きません。5時を過ぎて高度10°を越したアルクトゥルスはぎりぎり発見できましたがスピカは見えず。その近くにあるはずの水星と、更に高度の低い月はいっこうに見えませんでした。

いくらか雲の隙間があったため、闇雲にシャッターを切り、何か写っていないか確かめてゆきました。この方法でようやくコップ座やからす座、おとめ座の一部が分かり、5:20にようやく水星発見。そこから月位置を目見当で写野に入れ、雲が途切れるのを待ち続けました。幸い5分ほど経ったところで月も登場。何度か邪魔されつつも雲の上辺に月全体が現し、水星とのツーショットを拝むことができました(冒頭画像)。10月のときほどスッキリ行きませんでしたが、それでも記憶に刻むことができたことは嬉しい限りです。

20211104-34567月
またすぐ雲に覆われそうだったので何十枚か最大ズームで撮影。さすがに激しく乱れた低空のシーイングでぼけぼけになってしまいましたが、それも含めて貴重な記録です。右画像は5:31の撮影で、太陽黄経差は約345.67°、撮影高度は約6.2°、月齢28.39。カメラ内蔵の水準器により左右を水平にしてあります。両カスプを結ぶ弦の傾斜は-5.92°。ここ三日間の撮影で最も水平に近くなりました。ただ、低空で少し楕円になっていることや、昨日の記事に書いた通り肉眼やカメラを通した「見かけの弦」は少し異なるのでご注意。

参考までに今年3月11日に同じ場所で撮影した明け方の月を下A画像として掲載しました。太陽黄経差にして約16°ほど異なりますが、新月二日前のとても細い月です。このときの弦傾斜は-68.00°。春と秋とではこんなに傾き具合が異なっていたんですね。今年の水平月シーズンは今日で概ね終了ですが、水平月だけ見ても有り難味は少ないでしょう。年間を通して観察を続けてこそ面白さが倍増する現象です。朝夕ともに、ぜひこれからも観察してみてください。

さて、日付が変わる前に山形県の板垣公一さんがNGC2403に18.3等の突発天体を発見した情報が伝わってきたので、月撮影に出る直前まで撮影していました。これは新規発見ではなく、AT2016ccdとして過去発見された天体( LBV:Luminous Blue Variable)の再増光らしいです。(※AT2016ccd以前にも、以降にも、何度も増減光しているとのこと。)星仲間の(の)さんの昨夜の観測では既に19等まで減光していたとのことで、急遽撮影条件を変更して対処。さすがに19等は我が家でも限界以下でしたが、なんとか像として浮かび上がらせることができました(下B画像)。

  • 20210311-32958月

    A.2021年3月11日明け方の月
  • 20211103_TCP J07370425+6535472

    B.NGC2403


今後のために二点メモしておきます。

【弦傾斜は急に変わるわけではない】
新月前日の弦傾斜


新月翌日の弦傾斜
明け方の水平月は、主に秋シーズンの新月直前にチャンスが訪れます。でもいきなり水平になったり、急に水平でなくなるわけではありません。特集記事「横たわる有明月を観よう・Part1」の記事末に載せたグラフの通り、状態は緩やかに振動するのです。

もう少し具体的にみるため、2021年始から2025年末に起こる全ての新月を基準に、新月日(新月瞬時を含む日)の前日において、月出時刻と日出時刻の弦傾斜がどんな値なのか国内4地点について計算してみました(右上図)。この図から地域の南北差、東西差、月出から日出までに弦傾斜がどう変化するか、季節による違いなどたくさんの情報が見て取れるでしょう。来年は北海道内でもほぼ水平、本州以南では逆転月になるチャンスがあるので、晴れてほしいものです。

なお新月翌日における夕月の弦傾斜について日没時と月没時の計算値は右下図の通り。2025年以降にやってくる夕方の水平月に向けて徐々に変化していますので、こちらもお楽しみに。(※2024年や2025年に札幌で90°を超えているケースがあるのに注目!これは「新月翌日でも太陽より月のほうが低い=早く沈む」ことを意味しています。高緯度ほど傾向が強く、たとえばモスクワ北部付近では2024年10月24日に太陽と三日月が一緒に沈む=三日月を太陽が右方向真横から照らす=弦傾斜90.0°、といったことが起こります。これはこれで面白い!)


【カメラ水準器の精度】
前述の特集記事・Part2にちょっと書きましたが、カメラに内蔵されている水準器や外付けの水準器(三脚についている気泡水準器なども含む)には誤差があります。特にカメラ内蔵のものは「本当の水平に対してどれくらいずれているか(取り付け誤差)」と「水準センサー自体の検知幅(アソビ)」というふたつの曖昧さがあります。外付けのものも、装置自体が高精度でも取り付け部には必ずガタがありますから過信してはいけません。可能なら実際に計測して把握すると良いですね。取り付け誤差が分かってもユーザーが修正できないタイプもありますからご注意。

「取り付け誤差」の測定は水平表示されたカメラで「下げ振り」などを撮影し、画像からずれを測る方法が一般的と思います。ただしこの方法だとカメラの固定時に既にアソビを含んでしまうため、先に「検知幅」を測り、アソビの中間位置で下げ振り撮影という手順が良いでしょう。

赤道儀に寄る水平検知幅の確認
検知幅を測る方法も様々考えられますが、ここは天文ファンらしく赤道儀を使いましょう。赤道儀は毎秒約15″(毎分約0.25°=4分で約1°角)という超低速で回転する装置ですから、うってつけですね。昼間に室内で測定できます。赤道儀に真北または真南に向けてカメラをセット→子午線通過少し前から少し後まで恒星時回転させ、水平表示の点灯から消灯までの時間を測る→水平表示される検知幅を計算、という手順です。回転はとても遅いので、10倍速などのモードを使うと良いかも。赤経体の傾斜が気になる方は軸を寝せて経緯台状態にすると良いですね。前述の「アソビの中間位置」は、同様に回転させながら水平点灯開始から検知時間の半分過ぎたところでモーターを止めれば良いのです。そのままカメラに触らず下げ振り撮影しましょう。

私のカメラでは水平点灯したのが約50秒間(6倍速/3回平均)なので、15×50×6=4500秒角=1.25度角の範囲が検知幅でした。このアソビは必要で、もしこれをゼロにしてしまったら何時間かかってもカメラが水平表示してくれないでしょう。人が手作業で誤差ゼロに設置することは不可能だからです。

蛇足ながら、錘をつけた紐が指すのは重力の方向であって、必ずしも天文学的な天頂-天底方向とは限りません。深く広がる地盤・密度の高い地質が近くにあれば、錘はそちらへ偏って引っ張られてしまいます。日本中で錘を下げても、その糸の方向は一点に交わらないでしょう。海面や湖面も平面ではなく重力に沿った曲面ですし、太陽や月などの影響もありますね。回転楕円体で代用される地球の中心と、地球の重力中心も異なります。下げ振りで完璧に水平が出せたとしても、天文学としての水平垂直とは異なるということを頭の片隅に入れておいてください。(参考→2017年10月17日記事「土星の環の傾きが最大になりました」欄外のメモ「環の傾きを示す中央緯度とはどこの角度?」もご覧ください。)



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