変化する薄明間隔の感覚 ― 2024/09/25
所属している天文同好会の月例会で、博識のFさんから「海外には薄明時間の天体写真を研究している人たちがいる」といった話を伺ったことがありました。星景という言葉すらなかった、何十年も前のことです。天体写真と言ったら(太陽を除けば)ふつうは夜に撮るもの。でも薄明薄暮に輝く金星や月は本当に美しい。科学記録とはまた違う分野として成り立ってもおかしくないでしょう。
以来私も意識して撮るようになり、当時はまっていたポジフィルムを何百本消費したか分かりません。それで何か悟りに至った訳では無いけれど、一夜の最初と最後に訪れる薄明薄暮はどこへ行っても大切な思い出になりました。どういう過程を経て夜になり昼になるのかを目の当たりにする時間として、とても面白いと感じました。今でも追い続けています。
左画像は地球影とともに薄暮が空を覆う過程を飛行機から撮ったもの。地球影の頭頂(一番高いところ)方向は太陽と反対側ですが、この画像は太陽から東回りに90°の方向です。見えているのは「地球影が水平線から立ち上がる根元」。虹にも地面から立ち上って見えるところがあるように、地球影もまた水平面から生えてくるのです。夕方に飛行機で帰ることがあったらぜひ眺めてください。
日本で見え始まった紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)は、9月25日現在明け方の航海薄明終了間際にしか見えません。写真を撮る方は必然的に「低空のモヤから脱する暗い彗星」と「急激に明るくなる薄明」とのせめぎ合いに身を投じることになります。ここ二日の間に何人もの方から「こんなに薄明が速いとは知らなかった」という言葉を聞きました。そうなんです、じっくり向き合うと、わずか数十秒の時刻差でも露出や感度、絞りを変えなくてはいけない。それが薄明薄暮の天体写真の難しさであり、楽しさであります。
実はこの薄明速度は年間でかなり変動し、また観察場所によっても影響を受けます。昨日の記事で6都市について「彗星が5°になる時刻と太陽高度」を示しましたが、年間でこの6都市の薄明速度を計算すると下図のようになります(※2025年の例ですが、違う年でもほぼ一緒)。図中で使っている「市民薄明間隔」とは、市民薄明開始(=航海薄明終了)から市民薄明終了(=日出)までの時間幅という意味。他も同様です。宵の場合は薄暮という表現に切り替えていますが、計算すると薄明も薄暮もほぼ変わりません。※実際は市民・航海・天文薄明がひと繋ぎなので積み立てグラフにするべきですが、今回はそれぞれの時間幅を単独でご覧頂きたいので三つに分けました。
日本の多くの地域で市民薄明・薄暮は30分弱なのですが、夏と冬はやや長く、春と秋はやや短くなります。また北ほど夏にかなり長くなる(薄明が始まってもなかなか夜が明けない)傾向が顕著ですね。夏至の頃に白夜、冬至の頃に極夜となる北極圏事情を考えれば理由は想像付くでしょう。沖縄が好きでよく旅行に行きましたが、日没後すぐ暗くなるのでいつも戸惑います。これも「太陽が海に真っ直ぐ突き刺さるように沈む」ことに気付ければ納得できること。
今の時期はどの地域もグラフが年間最低レベルまで下がっており、つまりあっという間に朝がきて、あっという間に夜になるわけです。なぜ「秋の日はつるべ落とし」と言われるのか、ひとつの理由かも知れませんね(→2015年10月1日記事「秋の日はつるべ落としを考える」参照)。「こんなに薄明が速いのか」と感じたみなさんは、もしかしたら別の季節や地域で感じた「遅い夜明け」を身体が覚えていたのでしょうか。その感覚はとても深く鋭く研ぎ澄まされているものですから、彗星騒動が終わってからも大切にしてください。
以来私も意識して撮るようになり、当時はまっていたポジフィルムを何百本消費したか分かりません。それで何か悟りに至った訳では無いけれど、一夜の最初と最後に訪れる薄明薄暮はどこへ行っても大切な思い出になりました。どういう過程を経て夜になり昼になるのかを目の当たりにする時間として、とても面白いと感じました。今でも追い続けています。
左画像は地球影とともに薄暮が空を覆う過程を飛行機から撮ったもの。地球影の頭頂(一番高いところ)方向は太陽と反対側ですが、この画像は太陽から東回りに90°の方向です。見えているのは「地球影が水平線から立ち上がる根元」。虹にも地面から立ち上って見えるところがあるように、地球影もまた水平面から生えてくるのです。夕方に飛行機で帰ることがあったらぜひ眺めてください。
日本で見え始まった紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)は、9月25日現在明け方の航海薄明終了間際にしか見えません。写真を撮る方は必然的に「低空のモヤから脱する暗い彗星」と「急激に明るくなる薄明」とのせめぎ合いに身を投じることになります。ここ二日の間に何人もの方から「こんなに薄明が速いとは知らなかった」という言葉を聞きました。そうなんです、じっくり向き合うと、わずか数十秒の時刻差でも露出や感度、絞りを変えなくてはいけない。それが薄明薄暮の天体写真の難しさであり、楽しさであります。
実はこの薄明速度は年間でかなり変動し、また観察場所によっても影響を受けます。昨日の記事で6都市について「彗星が5°になる時刻と太陽高度」を示しましたが、年間でこの6都市の薄明速度を計算すると下図のようになります(※2025年の例ですが、違う年でもほぼ一緒)。図中で使っている「市民薄明間隔」とは、市民薄明開始(=航海薄明終了)から市民薄明終了(=日出)までの時間幅という意味。他も同様です。宵の場合は薄暮という表現に切り替えていますが、計算すると薄明も薄暮もほぼ変わりません。※実際は市民・航海・天文薄明がひと繋ぎなので積み立てグラフにするべきですが、今回はそれぞれの時間幅を単独でご覧頂きたいので三つに分けました。
日本の多くの地域で市民薄明・薄暮は30分弱なのですが、夏と冬はやや長く、春と秋はやや短くなります。また北ほど夏にかなり長くなる(薄明が始まってもなかなか夜が明けない)傾向が顕著ですね。夏至の頃に白夜、冬至の頃に極夜となる北極圏事情を考えれば理由は想像付くでしょう。沖縄が好きでよく旅行に行きましたが、日没後すぐ暗くなるのでいつも戸惑います。これも「太陽が海に真っ直ぐ突き刺さるように沈む」ことに気付ければ納得できること。
今の時期はどの地域もグラフが年間最低レベルまで下がっており、つまりあっという間に朝がきて、あっという間に夜になるわけです。なぜ「秋の日はつるべ落とし」と言われるのか、ひとつの理由かも知れませんね(→2015年10月1日記事「秋の日はつるべ落としを考える」参照)。「こんなに薄明が速いのか」と感じたみなさんは、もしかしたら別の季節や地域で感じた「遅い夜明け」を身体が覚えていたのでしょうか。その感覚はとても深く鋭く研ぎ澄まされているものですから、彗星騒動が終わってからも大切にしてください。