夏至の太陽はどこで南中するか2025/06/24

天体位置と各種の角度
今年の夏至瞬時に「皇居の真上に太陽が来る(皇居から見て夏至瞬時に太陽が南中する)」というネタが一部界隈で噂になってたという話を天リフ経由・星沼会のコラム記事で拝見しました。宗教とかスピリチュアルは横に置いといて、本当にそうだったのか気になるところ。

良い機会なので、どこで太陽が南中するか、webを駆使して計算する方法に挑戦してください。太陽だけでなく色々な天体で使えます。ここで夏至瞬時は黄経が90°を通過する瞬間(天文学辞典)という定義に従います。夏至点と冬至点付近では黄道と天の赤道がほぼ平行になるため「赤経が90°を通過する瞬間」と誤解している方も多く、これで計算しても数秒未満の誤差しかないため気付けません。ただ、夏至が二至二分や二十四節気のひとつであることを踏まえると、黄経方向に分割しなければ他の節目が狂ってしまうことが分かるでしょう。

まず左図のとおり、シンプルに地球の経度方向(自転軸周りの回転)=赤経方向に各種角度を考えます。この図は北極方向から見ています。東回り(east positive)、西回り(west positive)がややこしいですが、北半球で南の中空を見たとき、左が(天の)東、右が西ですね。

  • 天体の赤経:α …… 春分点方向を0°として東回りに測った角度。移動する天体なら観測時刻に依存。
  • 観測地から見た天体の時角:H …… 観測地の子午線から何度回転したかを西回りに測る。
  • 観測地経度:λ …… 地球の経度0°=本初子午線≒グリニッジ子午線から東回りに測った角度。
  • グリニッジ恒星時:Θ …… 本初子午線から西回りに測った春分点方向。自転のため観測時刻に依存。

これらの角度の関係は次式の通り(→国立天文台・暦wiki参照)。夏至瞬時を決めるとαとΘが決まるから、H=0(太陽南中は時角がゼロ)になるλを求めればよいことになります。各数値が分かれば計算自体はシンプル。

H = Θ + λ - α

計算方法や使用する暦表によって1秒内外の違いはありますが、今年の夏至は6月21日11:42:15.681JST近辺(使用暦表はJPL-DE440)。時刻が分かっている場合の太陽視赤経とグリニッジ恒星時は国立天文台・暦計算室のこのページこのページが使えます。 するとα=06h00m00s、Θ=20h40m29sとなり、度に換算してλ=139.8777°(東経)になります。この経度上なら、どの緯度でも太陽が子午線上に見えます。(※北回帰線より南では北中ですね。)

東経139.8777°と言うと、皇居ではなくて某ネズミーランド西側アトラクション(スペースマウンテン付近)とか、新しくできたファンタジースプリングス・エリア、あるいは東京湾・海ほたる辺りですね。

この計算で難しいのは「正しい夏至瞬時」を求めることでしょう。上記例では夏至瞬時が天から降ってきましたが、普通は高精度で計算できないから困るのですよね。新聞とか天文情報誌・関連サイトでも秒の桁までは載ってないため、そのままでは位置の精度も分までになってしまいます。夏至瞬時が1分ずれたら天体時角が1分角違うことになって、関東付近の緯度換算では南中経度が22-23kmくらいずれてしまいます。大雑把に東京山手線直径の倍に匹敵する誤差ですよ。自分で計算プログラムを作れるなら秒の桁まで計算できますが、通常の計算サイトで秒まで指定/結果表示できるところは少ないと思われます。

国立天文台・暦計算室の天象年表で太陽の二十四節気を計算しても時刻表示は分の桁まで。世界最高峰と言っていい天文計算サイト「NASA JPL-HORIZONS」も以下のとおり通常操作すればecliptic lon(太陽黄経)が90.0°になるところを探せますが、これも計算間隔指定は分刻どまり。(※計算開始時刻に秒まで指定できるので、一秒ずつ探すことはできる。)

  • Target Body: Sun
  • Observer Location: Geocentric
  • Time Specification:夏至瞬時を挟む前後2分間くらいを指定、計算間隔は最小の1分
  • Table Settings:31番のObserver ecliptic lon. & lat.を指定

実はこのJPL-HORIZONSにはAPIを使った裏技があって、以下の呪文をテキストエディタにコピペして改行を無くし、「全部を区切らず改行もせず一行にして」ブラウザのURL欄に打つと、0.5秒間隔の結果が返ってきます。(意味は「地心原点で日心位置を計算、2025-06-21の02:42:00UTから02:42:00UTまでを120に刻む、表示は視赤経赤緯および視黄経黄緯」です。※0.5秒より細かくはできない。)

https://ssd.jpl.nasa.gov/api/horizons.api
?format=text&COMMAND='10'
&OBJ_DATA='YES'&MAKE_EPHEM='YES'
&EPHEM_TYPE='OBSERVER'&CENTER='500@399'
&START_TIME='2025-06-21 02:42:00'
&STOP_TIME='2025-06-21 02:43:00'
&STEP_SIZE='120'&QUANTITIES='2,31'

出力結果によれば夏至瞬時は02:42:16.500UT=11:42:16.500JSTちょい過ぎあたりでしょうか。私が使っている計算ライブラリ(HORIZONSと同じ暦表が使える)とは1秒程度のずれがありますが原因不明。それはともかく、webのみで秒まで夏至や春分などを求めるなら、この方法が唯一かも知れません。

かくして、今年の太陽は皇居ではなく東京湾上空で夏至&南中を迎えたことが分かりました。日本の空で夏至の太陽南中が起こるのは「日本時間の正午付近に夏至瞬時になるかどうか」で決まるでしょう。調べてみると一定のサイクルで繰り返すことが分かります(下A図)。前回は2021年で、南中経度は慶良間諸島東部付近でした。次回は飛んで2050年、同じく慶良間諸島の西あたり。その次は2054年で、富士山南西を流れる富士川の西と新潟県柏崎を結ぶ辺り…という具合です。

下B図に示したように夏至や冬至付近は日出没の変化や昼時間の変化がゼロに近いため、日々の差異が分からないかも知れません。日を跨ぐと忘れてしまって人の感覚だけではどうしようもないけれど、それでも昔の人は何百年もかけて数分、数秒の違いを見出し、コンピューターがない時代から二至二分の精度を高めていったわけです。それがなかったら今の高精度計算も生まれていません。地道な先人の努力には本当に頭が下がりますね。

  • 夏至の日時変化

    A.夏至の日時変化
  • 日出没変化(2025年/日本経緯度原点)

    B.年間の日出没変化


参考:
気温・気圧の変化と日出没への影響(2025/06/22)
夏至の昼時間は本当に年間最大か?(2025/06/21)
「秋の日はつるべ落とし」を考える(2015/10/01)