明けの明星と宵の明星を同じ日に観る2025/03/24

  • 20250321_昇る明けの明星

    A.昇る明けの明星
  • 20250321_沈む宵の明星

    B.沈む宵の明星


上画像をご覧ください。これは3月21日の日の出ごろに撮影した金星(A画像)および日の入りごろに撮影した金星(B画像)です。1分あまりのインターバルで日周と三日月型を両立させて撮ったものですが、注目点は「同じ日に撮影した」こと。二つの画像の空き時間はわずか半日程度なのです。『明けの明星』と『宵の明星』は内合や外合によってキッチリ二分されるわけではないことが分かるでしょう。

当ブログでは過去にも何度か「北半球では金星が太陽の北側を通って内合を迎えるとき、前後数日に渡って明けの明星と宵の明星が同一日に見える」という解説をしてきました(→2022年1月7日記事など)。実際に自分でも見たいと思って十数年ほどトライしましたが、極めて低空であるため視界確保や気象条件がままなりません。今回が人生で初めての成功となりました。実のところ今回も夕方の霞が酷くてPCモニターでもほとんど分からなかったけれど、炙り出したらしっかり写っていました。

今期の内合は太陽との黄緯差が8°以上離れる「北側に最も遠いグループ」(下C図参照)に属するので、太陽光さえ気を付ければファインダーで見つけやすく、同一日の明け/宵の明星が見える期間も長くなるため絶好の観察機会でした。ちなみに南北の最も遠いグループのときは金星大気による光の回り込みが少なく、一周つながることはありません。そのぶん光っている幅が若干太くなりますから、青空の中でも探しやすいのです。

明けの明星・宵の明星とも太陽より高く、高度は5-6°ありました。太陽が金星より低いことは三日月状の金星の向きから推測できますね。金星は青空の中でも見えますから、空に見えている時間ならいつでも見ることができます。そういう意味ではどっちの明星かこだわるのは無意味かも知れません。でも明星の定義を縛って考えるとき…例えば「太陽よりも金星が高いときに限る」とか「日出または日没ごろの金星に限る」という狭義の明星を設定するなら、同一日に両方見えることはかなり貴重な体験と言えるでしょう。私は19日夕〜23日朝を観察期間に設定、このうち21日と22日の朝夕ペア観察・撮影に成功しました。

  • 金星の内合・通過経路

    C.金星の内合・通過経路
  • 金星の輝面積と太陽黄経差の変化(2024-2026)

    D.金星の輝面積と太陽黄経差の変化


今期の黄経内合を含む外合から外合までの「輝面積と太陽黄経差の変化図」を上D図として示します。金星が一番細くなるのは「位相角最大」の瞬時、視直径が最大になるのは「地球最接近」の瞬時ですから、内合とは関係ありません。「細い金星」の観察・撮影にこだわるなら内合よりも位相角最大日時を気にすると良いでしょう。今期の内合付近における金星イベントを下に書き出しておきます。※これらは地心計算ですので、地上の観察者から観た計算では若干変化します。

    【2025年3月・内合付近の金星メモ】
  • 黄経内合の瞬時:3月23日 10:07:29 JST
  • 赤経内合の瞬時:3月21日 02:53:51 JST
  • 地球最接近:3月23日 00:48:16 JST、0.280602 AU
  • 位相角最大の瞬時:3月23日 15:34:19 JST、168.3319°


日本ではなぜか「21日が内合」と書いてある資料が多く、天文年鑑なども同様で、アマチュア天文家の方々もこれに倣っているようです。いっぽう海外の天文情報サイトなどはほとんどが「23日が内合」で、21日表記は見かけません。もちろん時差のズレではなく、黄経基準か赤経基準かの違いですね。

多くの学生や天文愛好家に「内合を説明する図を描いてください」と言ったら、ほぼ100%の方が太陽を中心に金星と地球の軌道を描いて、地球・金星・太陽が並ぶ位置を指し示すでしょう。つまり描いた紙の面を暗黙に地球(惑星)公転面と想定してますから、自ずと黄経内合を示す図ということ。直感的に私たちは内合=黄経内合と理解しているのです。にもかかわらず、なぜか日本だけ赤経内合が主流になっており、疑問の声も上がらず、合理的な理由もないまま今も続いています。無論どちらでも善し悪しは無いのだけれど、脳内イメージとかけ離れていることが気になります。

競馬やトラック競技、一部の球技などに使われるゴールを決めるラインセンサーは、基準線(または面)が地面に対して垂直であることが大前提です。本来は惑星軌道面の位置関係を示すことなのに、これを軌道と何の関係も無い地球の赤道面基準で判定するのは、ラインセンサーを斜めにして測ってるようなもの。チグハグ感がぬぐえません。上のメモを見ても分かりますが、地球最接近も位相角最大も黄経内合のほうに近くなるのは自明です。

春分や秋分のころ内合を迎える場合、赤道座標と黄道座標とが大きく傾斜して交差する位置になりますから、赤経と黄経が大きくズレることになります。もし夏至点や冬至点近くで起こるなら赤道座標と黄道座標はほぼ平行なのでズレは少なくなります。赤経内合と黄経内合のどちらが先か後かは、「春か秋か」と「太陽の北側通過か南側通過か」の組み合わせで変わり、「春に北側」と「秋に南側」では赤経内合が先に、その逆なら黄経内合が先になります。ところが位置関係が逆転するには長い年月がかかるため、少なくとも前後1000年ほどは「春に北側」「秋に南側」という内合が安定して継続することが分かっています。(例:約1000年前の春の内合...1021年3月18日15:58:53JST・太陽黄経差:北側7.84933°、約1000年後の春の内合...3029年3月22日22:47:11JST・太陽黄経差:北側8.85596°。今年とあまり変わりませんね。)

黄経と赤経の区別を書かない(気にしない)表記は混乱を増長させ、個人的には悪しき伝統と感じます。これは金星だとか内合だとかに限った話ではなく、他の惑星、衝、留などのイベントでも同様。例えば火星でも、2035年9月16日4:38:58JSTに黄経の衝、同9月18日2:43:07JSTに赤経の衝、という具合に二日ほどずれるケースもあります。どの座標系が基準なのかを明確にしなければならないでしょう。特にインフルエンサーや指導者的立場の方は情報の正確な表現や海外との差異など配慮いただければと願っています。

  • 20250321金星

    E.3月21日・正午の金星
  • 20250323金星

    F.3月23日・日出直後の金星(白黒撮影)


気象衛星ひまわり画像に金星が写り始める2025/03/24

20250323_2320気象衛星ひまわりから見た金星
金星の赤緯が+8°付近まで南下してきたことで、気象衛星ひまわりの写野に入るようになりました。左画像は23日23:20撮影のもの(画像元:NICT)。今期の初ショットです、たぶん。

画像は左下インサート全球図の緑矩形を原寸で示したもので、あまりにも真っ暗のため、輝度レベルを4倍にしています。色ズレはひまわりの仕様です。薄く描かれている地図はシベリアの大地。金星は北極側に写っているわけです。黄経内合を過ぎた直後でかなり細身ですが、それでも写っているのは金星光度の為せる技。三日月状に欠けた様子から太陽方向も分かりやすいですね。

金星は4月下旬に天の赤道付近まで南下したあと北上に転じ、6月3日ごろにひまわり写野を抜けてゆきます。年内では9月28日ごろ再び写野に入り、11月3日ごろに南極側から出てゆくでしょう。形がだんだん丸くなりますから、ぜひ追いかけてみてください。