夜明けのオリオンを見てみよう2023/07/20

紫金山・アトラス彗星導入練習
そろそろ本州が梅雨明けしそうな7月下旬、いよいよ明け方にオリオン座が見え始まります。ぜひ時間を作り、超低空のオリオン座が辿れるか、薄明中のオリオン大星雲がどこまで見えるのか、試してみてください。「そんなことして何になるの?」と思われる方も多いでしょうが、実はこうした予備体験を普段から行っておくことで、方向感覚を養ったり、制限時間内に低空の淡い天体を導入する等の訓練になるんです。

例えば来年2024年9月末から10月初旬の明け方に肉眼光度が期待できる紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)が見えます。そのころの位置を調べると、今週のオリオン座の位置にピッタリなのです(左上図/Stellariumによる/観察位置によって天体位置に若干変化あり)。ひょっとしたら紫金山・アトラス彗星はマイナス等級に!?などと騒がれていますが、そうならないかも知れません。そもそも空がかなり明るくなった薄明中の超低空ですから「全光度」ではなく、数段暗い「核光度」で考えたほうが妥当かも知れません。(彗星光度については2018年10月18日記事末の囲み参照。)あるいは快晴でなく雲やモヤが濃いかも知れません。そうした邪魔が入ることを想定した上で、見える場所がほぼ一致するM42のような明るい星雲を近似条件で見ておくことは無駄にならないでしょう。

撮影を予定している方は、実際に予定している場所へ行って撮影してみることをお勧めします。景色と一緒に撮っておくと、どこから登ってくるのか、日の出までにどれだけ猶予があるのか、どれくらいの露出なら写るのか、といった練習になりますね。同様のことは来年の今ごろもう一回できます。練習可能期間は今日から向こう一週間。それ以上ずれるとM42の位置が高くなってしまいます。(※日本から見た紫金山・アトラス彗星は2024年9月28日ごろ高さが最大、10月6日ごろ計算上の明るさが最大になります。)

「赤緯が同じ天体は同じ場所から昇る/同じ場所を通る」という知識を使えば、よほど高倍率でない限り、前もって先行している同一赤緯天体を導入しておくことで、数時間後の目標天体を同じ視野に捕らえることが可能です。赤道儀であれば赤経モーターの作動だけで地平下の天体が昇る位置だって分かるでしょう。日の出直後しか見えない太陽のグリーンフラッシュも正確に捕らえることができるし、明るすぎてファインダー導入が無理な新月前後の極細月、昼間の惑星・恒星導入だって応用できます。私は静止衛星や地球接近小惑星など探し辛い天体、あるいは周辺住宅に隠れて見えない銀河の“出待ち”などにもよく利用します。夜明けが迫って時間に追われる観察等では欠かせない技ですね。

前述の紫金山・アトラス彗星はやり直しが効かないチャンスです。ある程度の高度に至るまでに航海薄明より明るくなってしまいます。当日に必ず晴れるとは限らず、わずかな雲間から撮影しなくてはならない状況だってあるでしょう。それでも事前に赤道儀をセットできて上空のM42付近を導入できさえすれば、そのまま東に回して待ちかまえることで捕捉確率が格段に高まります。撮影当日にいきなり闇雲に実施しても考えることが多くてうまく行きません。貴重な機会を最大限に活かすためにも、普段から「低空慣れ」「導入慣れ」「薄明慣れ」の練習をしておくと良いと思うのです。

今年は「ぎりぎり夏至」2023/06/21

夏至の日付変化
本日は2023年の夏至。でも太陽系のどこかがほんの少し違っていたら、明日になっていたかも知れません。

2022年3月21日記事で、二十四節気(瞬時)が日付境界にとても近い「ぎりぎり二十四節気」というのをご紹介したことがあります。地球が太陽を1年かけて周回する360°を15°ずつ区切り、到達日時を計算したのが計算上の二十四節気瞬時。公転は様々な影響を受けてふらつきが生じるため、同じ節気でも毎年日付や時刻が変化します。

左上図は1800年から2200年までの夏至を計算してグラフにしたもの。縦軸が年と月を取り去った「日時(JST)」を表します。(時刻は小数換算。例えば1日12:00:00なら1.5、23日19:48:00なら23.825。)この範囲での夏至瞬時は20日以上・24日未満に収まっていますね。細かいギザギザは閏日挿入による変化です。

今年の夏至瞬時は21日23:57:49(※あくまで個人計算)です。22日になるまで残り2分11秒しかありません。図を見ると似たようなことが1903年にも起こっており、このときはわずかに日をまたいで23日0:04:15でした。これだけ細かく上下してるのですから、二十四節気のどれかがギリギリになる事態は少なからず起こるでしょう。個人的な最大の関心は「2030年の雨水」。 計算上の瞬時は2月18日23:59:56ですから、秒の桁を切り捨てるか、四捨五入するかで日付が変わってしまいます。その頃までに閏秒がどうなっているかによっても変わるでしょう。国立天文台がどう判断するか楽しみ。

参考:
日出没・暦関連の記事(ブログ内)
ユーティリティ「太陽と月の時刻表/夜空の時刻表」

HAKUTO-Rの残骸が見つかったようです2023/05/25

20230524_05499月
昨夕から夜半前は快晴が続いてくれ、ときおり通過する巻雲を除けば星空散歩するのに差し支えありませんでした。ただシーイングは酷く乱れていました。

西空高く四日月が美しかったので真っ先に望遠鏡を向けました。左画像は24日19:35頃の撮影で、太陽黄経差は約54.99°、撮影高度は約37.83°、月齢は4.78。久しぶりに見る月です。危難の海や豊かの海はすっかり見えており、明暗境界はジャンセンあたりまで進んでいました。

秤動は南極側が有利で、不鮮明ながらデモナックスや二重クレーターのブサンゴも見えます。更に辿るとスコットやアムンゼン、ノビレのクレーター壁も確認でき、驚いたことに南極点を西側にかなり過ぎたコッハー・クレーター付近と思われる地形がカスプ南端に光っています。方向角が南極から実に6.2°も西側!コッハーは西経134°ですから完全に裏側の地形で、つまり右奥側から照らされた裏側地形の一部が地球側から見えてしまったわけです。ポートレート写真で使われるレンブラント・ライトで言うところのプロフィールタイプの照明に、図らずもなっているのですね。(太陽方向を表すLsは126.19°なので、月面を顔に見立てたら、ほぼ理想的な横顔のプロフィール光と言えるでしょう。)

一昨日のニュースで、NASAがHAKUTO-Rの残骸を見つけたと言う報道がありました。場所はアトラス・クレーター内の北寄り付近。左画像にも写っていますが画質が悪いので、4月27日の撮影画像を用いて場所を示します。下A画像、赤丸の中心です。下B画像はNASA発表の画像から引用しました。アトラス・クレーター底が全面に写っており、青×印が落下場所。すぐ南に直径5km弱の小クレーターが見えます。これがA画像・赤丸内に見える小クレーターです。

失敗したのは残念ですが、失敗しない成功続きもまた、とても怖い。トライ・アンド・エラーを重ねていく過程こそ重要なのだと思います。

  • 20230427月

    A.HAKUTO落下地点
  • HAKUTO落下地点

    B.HAKUTO落下地点


20230524_SN2023ixf in M101
月を堪能した後、とっぷり暗くなったところで西空に集まっている天体たち(下C・D画像)と、空高く見えているM101の超新星(左画像)を撮影。西空には四日月を中心に金星と火星、カストルとポルックス、ついでにかに座のプレセペ星団も写野に入ってきました。一週間後には火星がプレセペ星団のど真ん中を横切って行きますよ。

M101の超新星は11等前半まで増光ました。10等台の観測値もあるようです。昨夜辺りから増光が止まってるようですが、しばらくは11等台をキープすることでしょう。小型望遠鏡で眼視でも見える超新星ってなかなか出ませんから、いまのうちにどうぞ!

夜半近くになると巻雲が多くなったので観察は終了。なかなか天気が長続きしません。

  • 20230524宵の西空天体集合

    C.西空を飾る天体たち
  • 20230524宵の西空天体集合

    D.西空を飾る天体たち(星名入り)


別の「みつご座」と金星2023/05/19

20230517金星
2023年5月7日記事に書いた通り、昨日18日はカストル・ポルックス・火星がほぼ一直線に並ぶ状態での「みつご座」の日でした。ただ、天気予報が芳しくなかったため、その前日17日宵に観察を済ませておきました。(案の定、18日宵は曇ってしまいました。)

薄暗くなった頃合いを見計らい、まずは金星に望遠鏡を向けてみます。惑星の拡大撮影は久しぶりで、手順をひとつずつ確認しながら行いました。雲ひとつない天気でしたが、気流は乱れまくってシーイングは酷いものでした。何度かスタックし直して整えたのが左画像。

視直径は20″弱で、随分欠けましたね。内合時はこの3倍弱まで大きく見えます。東方最大離角は6月4日20時ごろ。もうすぐ半月状態になります。その前後には「月と金星がほぼ同じ形に輝く」という珍しい日がやって来ます。2022年2月25日記事の一覧表にある通り、5月28日(完全同位相は9:46)、および6月25日(同7:07)です。小型望遠鏡で確認できますから、夕方になったら見比べてください。今年はこのあともほぼ同じ形のチャンスが度々訪れますので、前出一覧を参考に観察してみましょう。(※8月中旬以降は明けの明星ですからご注意。)

みつご座と金星も記念撮影してみました(下A・B画像/Bの星座絵はステラナビゲーター使用)。カメラレンズを通すと歪みが生じますが、カストル・ポルックス・火星がだいたい一直線になったのは分かりますね。各間隔がだいたい揃った5月10日撮影画像と比べてみてください。どちらが「みつご座」らしいでしょうか?やはり離れてしまった火星は「よその子」に見えてしまいますかね…?

  • 20230517みつご座と金星

    A.みつご座と金星
  • 20230517みつご座と金星

    B.みつご座と金星(星名入り)