ビーナスベルトと共に昇った名月2024/09/18

20240917中秋の名月
17日昼前から快晴のまま、中秋の名月が昇る時間が迫ってきました。満月は明日18日昼ごろですから、今夕の月は太陽から東に180°(正反対)までは離れていないことになります。したがって「丸い月がビーナスベルト付近に見える」という絶好のチャンスになる可能性がありました。

日没ごろ快晴だと、反対の空に地球の影が見えることがあります。また、大気を通り抜ける際に散乱しやすい青成分を失った赤系の光が地球影のすぐ上まで届き、「ビーナスベルト」と呼ばれる赤紫の美しい空を演出します。当ブログで何度かお話ししてきましたが、このビーナスベルトの中に浮かぶ満月期の月は最高に美しく、地上から見える絶景のひとつと言って良いでしょう。特別な場所に出かけなくとも、タイミングさえ合えば見えるところがポイント高いですね。内外の風景写真集をパラパラめくっていると、たまにビーナスベルトと月を組み合わせた写真を見かけます。洋の東西を問わずみなさん何かを感じるのでしょうね。

左上画像は17日日没ごろの撮影で、ちょうど竹林から月が昇ったところ。このとき周囲はかなり明るかったけれど、月の背景はもう背景は薄紫に見えておりワクワクしました。少し引いてみると、絶妙のグラデーションの中で月が輝いていることが分かるでしょう(右下画像)。月よりも低い空は急激に暗青色になっていて、これが地球影。月よりも上は赤紫(ピンク)の淡いグラデーションで、これがビーナスベルト。

20240917中秋の名月
更に広範囲を見ると、昨夕は西から伸びた反薄明光線(雲や高い山などの影/記事末リンク参照)が東へ到達しており、「ここが太陽と反対の方向だよ」と一目瞭然でした(下A・B画像)。ご存知のように地球影に月が入り込むと月食が起きます。日本では見えませんが、実は18日満月時に大西洋を挟む広域で部分月食となるのです。月は現在天の赤道の南西側から北東側に向かっていて、その途中で地球影に出会うわけですが、あらためて下A画像を見ると反薄明光線が向かう先に対して月が南西側(右上側)にいることが分かるでしょう。ひとつひとつバラバラに見える現象が、このように繋がっていると分かれば自然の理解が進みますね。

下C図は今年の地球影と満月の位置関係を図化したもの。3月と9月に地球影の側を通っていて、両方とも月食でした。ちなみにビーナスベルトの赤成分は西空を夕焼けに染める原因であり、また皆既月食を赤銅色に染める要因でもあります。(※C図の地球影は平均的な月距離に対する本影直径を描いており、実際は満月の度に大きさが変わります。月までの距離が変化するからです。)

ところでこうしたチャンスに恵まれても、「ビーナスベルトと丸い月」を写真に撮るのは至難の業。時間と共に地球影やビーナスベルトは急速に暗くなり、いっぽう月は低空の大気減光から脱してどんどん明るくなります。月面の模様が分かるように撮ると空は真っ暗、空の色を出すように撮れば月は真っ白。私の何十年かの体験によるなら、バランスの良い時間帯はせいぜい数分。まるですれ違う新幹線同士の窓から窓へ荷物を受け渡すようなタイミングの見極めです。腕に覚えのある方はチャレンジしてみてください。多重露光やHDRは無しですよ。

  • 20240917中秋の名月

    A.名月と各種現象
  • 20240917中秋の名月

    B.名月と各種現象(文字入り)
  • 2024地球影と満月位置

    C.地球影と満月期の位置関係


20240917月と土星の接近
月がだいぶ高くなると空の明るさが抜け、近くにいた土星が見えてきました(左画像)。輝度差が大き過ぎて、満月の模様は白飛びしてしまいました。このときの離角は約0.7°。近いですねぇ。来月は10月15日月没ごろ月と土星が大接近。翌11月11日は月出に大接近。そしていよいよ12月8日は月による土星の掩蔽が起こります。今冬では一番楽しみなイベントになるでしょう。

なお、今後丸い月とビーナスベルトの絶景にチャレンジしたい方のために、実現の可能性が高い日を計算して下表に挙げておきました。観察の目安にしてください。

【丸い月とビーナスベルトがマッチしそうな日付/日没版/2030年まで】
日付(JST)札幌東京大阪福岡那覇
2024-02-2417:16 / 3.0317:31 / 2.5617:48 / 2.3818:10 / 2.1618:27 / 1.60
2024-06-2119:18 / 1.3719:00 / 2.8219:14 / 2.8919:32 / 2.9619:25 / 4.20
2024-09-1717:41 / 2.1517:45 / 3.4618:02 / 3.5618:22 / 3.6618:31 / 4.81
2024-10-1716:49 / 2.0117:03 / 2.1017:21 / 2.0317:42 / 1.9417:59 / 1.89
2024-12-1516:00 / 4.3516:29 / 3.7616:48 / 3.5617:12 / 3.3317:40 / 2.56
2025-02-1217:01 / 3.8017:20 / 3.4017:38 / 3.2218:00 / 3.0018:20 / 2.49
2025-05-1218:48 / 0.5918:37 / 1.3918:51 / 1.3819:10 / 1.3519:07 / 2.03
2025-09-0717:59 / 1.1718:00 / 1.8018:16 / 1.8118:36 / 1.8118:43 / 2.32
2026-01-0316:12 / 3.9616:40 / 3.3616:59 / 3.1417:22 / 2.8817:50 / 2.13
2026-03-0317:26 / 1.3417:38 / 1.3317:55 / 1.1918:16 / 1.0218:32 / 0.94
2026-05-0118:35 / 1.1318:27 / 1.9418:42 / 1.9219:01 / 1.8919:01 / 2.58
2026-06-2919:18 / 0.3019:01 / 1.5319:15 / 1.6019:33 / 1.6719:26 / 2.75
2026-09-2617:26 / 3.9617:33 / 4.2817:50 / 4.2618:10 / 4.2118:22 / 4.37
2026-10-2616:36 / 3.2016:53 / 2.5817:11 / 2.4117:33 / 2.2117:52 / 1.45
2027-01-2216:33 / 3.2116:57 / 2.9317:16 / 2.7417:39 / 2.5118:04 / 2.11
2027-06-1819:17 / 1.4918:59 / 2.7319:13 / 2.7919:31 / 2.8519:24 / 3.91
2027-08-1718:35 / 0.6418:29 / 0.4718:44 / 0.3819:03 / 0.2819:04 / 0.05
2027-11-1416:12 / 3.0416:35 / 2.3116:54 / 2.1217:17 / 1.8917:40 / 1.02
2028-02-1016:58 / 3.0217:17 / 3.2117:35 / 3.0817:57 / 2.9118:18 / 2.99
2028-05-0818:44 / 2.2118:34 / 3.2518:48 / 3.2419:07 / 3.2219:05 / 4.07
2028-07-0619:16 / 1.2119:00 / 1.8419:14 / 1.8419:32 / 1.8219:26 / 2.32
2028-08-0518:51 / 1.2418:41 / 1.0518:56 / 0.9519:15 / 0.8419:13 / 0.58
2028-09-0418:04 / 2.0218:04 / 1.2818:20 / 1.1218:40 / 0.9418:46 / 0.12
2028-11-0216:25 / 4.4416:45 / 4.1217:03 / 3.9917:25 / 3.8417:46 / 3.35
2028-12-3116:09 / 4.1216:38 / 4.2816:57 / 4.1717:20 / 4.0317:48 / 4.00
2029-02-2817:22 / 3.1417:35 / 3.7317:53 / 3.6518:14 / 3.5418:30 / 3.99
2029-05-2719:03 / 1.9418:48 / 2.8119:02 / 2.7919:20 / 2.7419:15 / 3.43
2029-07-2519:04 / 2.7918:51 / 2.8819:06 / 2.8119:24 / 2.7219:20 / 2.68
2029-08-2418:23 / 2.4418:19 / 1.7418:35 / 1.5818:54 / 1.3918:57 / 0.60
2029-10-2216:41 / 4.2016:57 / 3.9417:15 / 3.8217:37 / 3.6817:55 / 3.26
2030-01-1916:30 / 1.8816:55 / 2.3117:14 / 2.2317:36 / 2.1418:02 / 2.45
2030-03-1917:45 / 3.0217:52 / 3.7618:08 / 3.7118:29 / 3.6318:40 / 4.24
2030-06-1519:16 / 3.4518:58 / 4.0519:12 / 4.0019:30 / 3.9319:23 / 4.31
2030-08-1318:41 / 4.2518:33 / 4.0418:49 / 3.9219:07 / 3.7819:07 / 3.41
2030-10-1116:59 / 4.1217:11 / 3.9817:29 / 3.8717:50 / 3.7518:06 / 3.44
2030-12-0916:00 / 3.9816:28 / 4.6316:47 / 4.6117:10 / 4.5717:38 / 5.00

  • 自作プログラムによる計算です。国内5ケ所について調べました。
  • 各欄に書いてある数字は、該当日・該当場所における日没時刻(JST)と、その時に見える丸い月の高度です。
  • 日没時に月が出ており、かつ月高度が5°以下(ビーナスベルトと地球影との境界から大きく離れない)をピックアップしたので、必ず満月日、または満月前日になります。
  • 日没時の地球影頭頂部高度は0°。ただし大気差を考慮すると、日没瞬時の実際の太陽は地平下にあるため、地球影頭頂は既に地平線上へ昇っていると考えられます。
  • 地球影頭頂高度は太陽の地平下俯角と同じですから、時間と共に上がります。快晴の場合でも30分ほどでビーナスベルトや地球影は薄れて夜へと移行します。
  • 平均的な話をすると、月が高度を上げる速度よりも地球影が上る速度のほうが速いです。日没ごろ地球影の上にある月が、30分後には地球影の中に入ってしまうこともあります。それぞれの速度は方位にも関係し、年間を通して一定と言う訳ではありません。
  • 地球影よりも月高度が高くないと、月と背景との輝度差がかなり強くなります。地球影やビーナスベルトの明るさは時間だけでなく気象条件によっても大幅に変わります。
  • 同じことは日の出直前の西空低空でも起こります。この場合は満月日または満月翌日ですね。


参考:
1ヶ月後の皆既月食と地球影のこと(2018/06/28)
満月のとき、地球の影はどこにいるの?(2017/08/08)
連続する半影月食のヒミツ(2016/08/17)

※薄明光線/反薄明光線の観察・解説は2015年7月21日7月24日8月5日8月6日2016年7月29日8月31日2019年8月5日など随所にあります。


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