2024年のうるう秒調整はなくなりました2024/01/08

2017年1月-2023年12月のLOD累積
国際地球回転・基準系事業(IERS/INTERNATIONAL EARTH ROTATION AND REFERENCE SYSTEMS SERVICE)から本日1月8日に「2024年7月1日(同年6月末UT)のうるう秒挿入はない」と発表がありました(→IERS News:2024年1月8日UT付けBULLETIN-C67)。これにより、少なくとも今年いっぱいUTC-TAI = -37秒が維持されることが確定しました。

左図は2017年のうるう秒挿入直後を原点として、1日ごとのLOD(Length of Day:1日の実測長)差分値を足してゆき(水色線)、正確な時を刻む原子時計に対して自然に基づく時計がどれだけズレているか(緑線)を表したグラフ。(※測定データは昨年12月1日までを利用。)また、LODと24時間=86400秒との差の日々の値(薄青線)、および31日移動平均(赤線)をグラフ化したのが右下図です。毎年この発表があるたびに作図してきました。最後のうるう秒挿入(2017年1月8:59:60JST)から今年の正月で丸7年経ち、今年一年間もうるう秒はありませんので、8年間うるう秒無し確定。観測史上最長を再更新ですね。この半年ほど世界時とのズレはゼロに近く、ズレ量は緩やかにプラス側へ復調傾向にあるようです。マイナス閏秒の危惧は無くなりそうですね。

既に去年から報道されていますが、第27回国際度量衡総会(2022年11月開催)によって「2035年までに閏秒を無くす」「今後100年間は協定世界時を閏秒なしで運用」などの指針が決まりました。従って向こう10年あまりのどこかで今回のような発表は無くなると思われます。ただし自然の生みだす不確実な地球時計と、世界時を管理している絶対ズレない原子時計との差が無くなる訳ではありません。閏秒を使わくなることを「ズレが無くなった」と誤解されることが一番恐れることでしょう。

2015年1月-2023年12月のLOD差分変化
産業界は閏調整のない一貫した時計を使えると喜んでいるようです。世界をがんじがらめにしているコンピューターシステムは1秒の修正忘れだけでもクリティカルエラーを起こし、立ち行かなくなると考えられるからです。IT業界にとって閏調整のない世界こそが理想郷なのですね。では、閏調整を無くすことで困る人はいないのでしょうか?いちばん混乱するのはアマチュア天文関係者ではないかと個人的にぼんやり思います。

天文のプロやハイアマチュアは現象を計算したり観測するのに、途切れたりジャンプしたりせずに一貫して宇宙を流れる「暦表時(ET)」「地球時(TT)」「地球力学時(TDT)」といった時間軸を考案し使ってきました。ですから閏秒など地球自転の不確実を気にすることなく矛盾もない天文計算や観測管理が可能です。ところが最終的に私たちが使っているのは時計が刻む時刻であって、この時刻は原子時計(TAI)に同期した世界時(UTC)に準じます。つまり、UTCとTAIとは未来予測できないズレを内包しています。アマチュアレベルで使う天文カレンダーに載っている現象時刻は「TDTで求めた時刻にズレを加算しUTCを生成する」という過程を必ず経て時計時刻に換算されています。逆に、何かの天文現象を観測したら、そのとき読み取った時計時刻からズレを引いてTDTなどの天文共用の時刻に直してから解析や研究に使う必要があります。

例えばアーカイブ「地球の近日点通過日と遠日点通過日」には2200年の地球近日点通が

   2200年1月6日00:25:45TT = 2200年1月6日09:24:35JST

とあります。この表でTTの値は200年経っても変わりません。いっぽうJSTの値は現行システムで閏秒を推測し、時差も加算した時刻になっています。将来はズレが予測より少し変わると思われますからプラスマイナス数秒程度の誤差をはらんでいます。(※上の等号は、厳密にはニアリーイコール「≒」や「≈」で表現すべきものです。)ただ、この計算を行った時点で大まかなズレ量の修正は済んでいますから、現在表示している日時から大きく外れることはないでしょう。ですが「100年間は修正しない=修正してはならない」との勧告に準じてしまうと、天文計算のしきたりに関係なく「ズレ予測を全く修正していないエセ天文カレンダー」が出回ってしまう可能性も否定し切れません。

本来このUTCやJSTへの修正(換算)過程は閏秒があろうがなかろうが必ず必要です。今後「閏」の扱いがどうなろうとも、天体観測や計算をやっている人は「その時点のズレの量」や「未来のズレの予測」を知らなければ正確な現象カレンダーを編むことができません。ややこしいのは100年から1000年オーダーで前後する予測が必要なときや、TDTで管理されていない過去データとの比較が必要なときでしょうか。「天文分野ではプロアマ問わずTDT表現を使うこと」にするなら間違いはないけれど、それにしたって現象記録を腕時計やネット時計に頼る限りズレ量の把握と変換が都度必要ですよね。

閏秒を使わないシステムでは将来の時計がズレを含んでいないため、2200年になったとき自分の腕時計とTTとの差はそのとき調べなければ分かりません。従って100年先、200年先の天文現象を単純変換でUTCやJSTにしても意味が無く、結局計算時に閏秒累積=原子時計と世界時のズレを修正しておかなくてはならないわけで、現状と全く同じ労力が必要になると思われます。

   2200年1月6日09:24:35JSTに地球が近日点を通過する

という表現を見て、それがいつの時点のズレ修正なのか、あるいはズレを修正してないのか全く分からないことが問題になりそうです。ズレを考慮した0:00JSTは今日に入りますが、考慮しない0:00JSTは実際のところ昨日なのか今日なのか分かりません。天文分野に限るなら修正してあるだろうと考えられますが、例えば地震発生や津波到達時刻、満潮時刻といった地球内外の事象が微妙にクロスオーバーしている分野の時刻管理や分析には軋轢が生じないでしょうか?日本は分野の縦割りが強いのでとても心配です。津波予想が時計より1分遅れていたら、命に関わるでしょう。

個人的には閏秒修正が入ってない時計を使い続けることは地球時計とズレたまま生活することになるため、例え1秒内外のことだろうと生理的に嫌ですね。新年のカウントダウンだって、もし100年経って数十秒もずれているなら天文学的には正しくないイベントに成り下がります。

参考:
日出没・暦関連の記事(ブログ内)

コメント

トラックバック