「124年ぶり」の2月2日節分にはもっと上があるよ ― 2021/01/24
暦の上ではあと10日ほどで春がやってきます。そう、二十四節気の「立春」です。ご存知のように立春の前の日が「節分」。今年の立春は2月3日ですから、節分は2月2日になります。
昨年暮れ頃から度々「124年ぶりに2月2日が節分」というニュースを目にしました。確かに珍しいことではありますが、当ブログの2020年3月20日記事に「124年間で最も早い春分」を取り上げた頃は、世間の話題になったという記憶が全くありません。原理的には同じことで、春分は祝日になるほど重要なのに、この差は一体…。やはり豆まきをしたり恵方巻きを頂くようなイベント事が絡まないと話題性に乏しいんですかねぇ…。悲しい。
ともあれ、昨年の春分記事で描いたような日付変化グラフを「立春」に置き換えて描いてみました(左上図)。当記事に掲載した図表は自作プログラムによる計算値であり実際の測定値ではないこと、国立天文台などが公式発表する日時と若干異なる可能性があることを予めお断りしておきます。
これらのグラフは「毎年の該当節気瞬時の日時(JST)がどう変化するか」を表したもの。縦軸が年と月を取り去った「日時」のみを表し、このうち時刻は小数換算しています。例えば1日12:00:00なら1.5、23日19:48:00なら23.825といった具合。毎年瞬時のグラフですから線で結ぶ必要はないのですが、結んだほうが時系列を追いやすいため描きました。
春分記事と同じことを再度書きますが、4年ごとにギザギザと上下しているのは閏日による変化。もし閏補正をしなければ、全ての二十四節気は毎年遅れ続けてゆきます(このグラフでは上にシフトします)。閏年の翌年の立春は「前年に挿入された閏日」によってほぼ4年前まで早まり(グラフが下にずれ)、大きなずれが生じないようになっています。
でも4年前ピッタリには戻らず、ほんの少し早くなってますね。この「補正しすぎ」のため、ギザギザ全体は右下がりになってしまいます。そこで、次の様なややこしい閏年ルールが定めてあるのです。
つまり、西暦1700年、1800年、1900年、2100年は4で割り切れても閏年にならず、西暦2000年は100で割り切れても閏年です。このルールのおかげで今のところ補正の過不足が最小限に抑えられています。グラフに沿って見てゆくと、確かに1897年2月3日のあと、今年まで「2月3日立春」は起きていませんね。
ところでグラフを見ると、もっと長いスパンで「同一日にならない」ケースが生じる気がしました。そこで他の節気も含め、100年以上同一日にならないケースを算出。当記事下の一覧表にまとめましたので参考にしてください。例えば3年後、2024年の小暑は7月6日で、これは228年ぶり(右上図)。2056年の夏至は6月20日で360年ぶり。2072年5月4日の立夏は、なんと1000年以上遡っても同一日は現れませんでした(左図)。上には上があるもんですねぇ。もちろん昔の暦の仕組みは今と違いますから、これはあくまで「現代暦」を過去や未来まで延長した数字あそびに過ぎません。誤解のないようにお願いします。
グラフをじっくり見ると「何年ぶり」ということ以外にも様々なことに気がつくでしょう。いくつか立夏のグラフに紫字で書きましたが、例えば一年ごとの点の間隔が一定ではありません。4年おきの点々は一定の斜線を描きますが、正確な直線にならず小さな凸凹があります。この斜線も、実は節気ごとに傾きが異なっています。
この原因は「節気の間隔が不安定」であることに起因します。例えば2020年立春から2021年立春までの間隔は365.246849日、2021年立春から2022年立春までの間隔は365.244443日と、3.46分も異なります。(※もちろん他の節気でも同様。)また、両間隔とも1年(1太陽年=2021年立春時点で365.242188日)ぴったりにはなりません。この揺らぎまで説明してあるニュースサイトはひとつもありませんでしたが、国立天文台の暦計算室「暦Wiki」内にドンピシャの解説ページがありました。流石です。(ここ数年の暦Wikiの充実っぷりは目を見張るものがあり嬉しい!)
暦Wiki該当ページの最初に「各節気間隔と1太陽年との差」のグラフが載っています。2000年からの20年間でプラスマイナス15分もぶれるのですね。もう少し長期ではどうなるか知りたくなって、下A図(100年間)を描いてみました。この図には各年の春分と秋分も重ねてプロットしてあります。これを見る限り、ひとつの節気について注目しても、直ちに分かるような周期性は見えない、ということ。しかしながら、この一見ランダムな数値は一定範囲に収まっており、前出の斜線の微妙な凸凹を作りつつも大きく乱れることはないのでした。
更に計算を延長し、1900年から2199年までの全節気について1太陽年とのずれを算出し、平均したのが下B図です。ここまで進めると斜線の傾きが節気によって変化する仕組みまで見えてきますね。ばらつきのあるずれを平均で考えるなら「1月初旬の地球近日点通過ごろが最大、遠日点通過の7月初旬ごろ最小」になっているようです。直接関係するか分かりませんが、各節気から1日後に視黄経が何°動いたのかB図緑線として重ねました。これはいわばケプラーの第二法則、節気ごとに角速度が異なることを示しています。
この記事をお読みのどなたも生きていない時代になってしまうけれど、何万年も経って地球近日点位置などの移動が顕著化すると、節気ごとのずれ時間は変わるし、それに伴って日付変化の傾向もかなり異なってくるでしょう。そもそも今の暦作りが通用するか分かりません。今年の「2月2日が節分だなんて珍しいね」というお話しの奥には、広大な太陽系の運動や自然由来の揺らぎが存在しているよ、というお話しでした。
参考:
124年間で最も早い春分(2020/03/20)
日出没・暦関連の記事(ブログ内)
昨年暮れ頃から度々「124年ぶりに2月2日が節分」というニュースを目にしました。確かに珍しいことではありますが、当ブログの2020年3月20日記事に「124年間で最も早い春分」を取り上げた頃は、世間の話題になったという記憶が全くありません。原理的には同じことで、春分は祝日になるほど重要なのに、この差は一体…。やはり豆まきをしたり恵方巻きを頂くようなイベント事が絡まないと話題性に乏しいんですかねぇ…。悲しい。
ともあれ、昨年の春分記事で描いたような日付変化グラフを「立春」に置き換えて描いてみました(左上図)。当記事に掲載した図表は自作プログラムによる計算値であり実際の測定値ではないこと、国立天文台などが公式発表する日時と若干異なる可能性があることを予めお断りしておきます。
これらのグラフは「毎年の該当節気瞬時の日時(JST)がどう変化するか」を表したもの。縦軸が年と月を取り去った「日時」のみを表し、このうち時刻は小数換算しています。例えば1日12:00:00なら1.5、23日19:48:00なら23.825といった具合。毎年瞬時のグラフですから線で結ぶ必要はないのですが、結んだほうが時系列を追いやすいため描きました。
春分記事と同じことを再度書きますが、4年ごとにギザギザと上下しているのは閏日による変化。もし閏補正をしなければ、全ての二十四節気は毎年遅れ続けてゆきます(このグラフでは上にシフトします)。閏年の翌年の立春は「前年に挿入された閏日」によってほぼ4年前まで早まり(グラフが下にずれ)、大きなずれが生じないようになっています。
でも4年前ピッタリには戻らず、ほんの少し早くなってますね。この「補正しすぎ」のため、ギザギザ全体は右下がりになってしまいます。そこで、次の様なややこしい閏年ルールが定めてあるのです。
- 西暦年が4で割り切れる年は閏年。
- ただし西暦年が100で割り切れる年は平年。
- ただし西暦年が400で割り切れる年は閏年。
つまり、西暦1700年、1800年、1900年、2100年は4で割り切れても閏年にならず、西暦2000年は100で割り切れても閏年です。このルールのおかげで今のところ補正の過不足が最小限に抑えられています。グラフに沿って見てゆくと、確かに1897年2月3日のあと、今年まで「2月3日立春」は起きていませんね。
ところでグラフを見ると、もっと長いスパンで「同一日にならない」ケースが生じる気がしました。そこで他の節気も含め、100年以上同一日にならないケースを算出。当記事下の一覧表にまとめましたので参考にしてください。例えば3年後、2024年の小暑は7月6日で、これは228年ぶり(右上図)。2056年の夏至は6月20日で360年ぶり。2072年5月4日の立夏は、なんと1000年以上遡っても同一日は現れませんでした(左図)。上には上があるもんですねぇ。もちろん昔の暦の仕組みは今と違いますから、これはあくまで「現代暦」を過去や未来まで延長した数字あそびに過ぎません。誤解のないようにお願いします。
グラフをじっくり見ると「何年ぶり」ということ以外にも様々なことに気がつくでしょう。いくつか立夏のグラフに紫字で書きましたが、例えば一年ごとの点の間隔が一定ではありません。4年おきの点々は一定の斜線を描きますが、正確な直線にならず小さな凸凹があります。この斜線も、実は節気ごとに傾きが異なっています。
この原因は「節気の間隔が不安定」であることに起因します。例えば2020年立春から2021年立春までの間隔は365.246849日、2021年立春から2022年立春までの間隔は365.244443日と、3.46分も異なります。(※もちろん他の節気でも同様。)また、両間隔とも1年(1太陽年=2021年立春時点で365.242188日)ぴったりにはなりません。この揺らぎまで説明してあるニュースサイトはひとつもありませんでしたが、国立天文台の暦計算室「暦Wiki」内にドンピシャの解説ページがありました。流石です。(ここ数年の暦Wikiの充実っぷりは目を見張るものがあり嬉しい!)
暦Wiki該当ページの最初に「各節気間隔と1太陽年との差」のグラフが載っています。2000年からの20年間でプラスマイナス15分もぶれるのですね。もう少し長期ではどうなるか知りたくなって、下A図(100年間)を描いてみました。この図には各年の春分と秋分も重ねてプロットしてあります。これを見る限り、ひとつの節気について注目しても、直ちに分かるような周期性は見えない、ということ。しかしながら、この一見ランダムな数値は一定範囲に収まっており、前出の斜線の微妙な凸凹を作りつつも大きく乱れることはないのでした。
更に計算を延長し、1900年から2199年までの全節気について1太陽年とのずれを算出し、平均したのが下B図です。ここまで進めると斜線の傾きが節気によって変化する仕組みまで見えてきますね。ばらつきのあるずれを平均で考えるなら「1月初旬の地球近日点通過ごろが最大、遠日点通過の7月初旬ごろ最小」になっているようです。直接関係するか分かりませんが、各節気から1日後に視黄経が何°動いたのかB図緑線として重ねました。これはいわばケプラーの第二法則、節気ごとに角速度が異なることを示しています。
この記事をお読みのどなたも生きていない時代になってしまうけれど、何万年も経って地球近日点位置などの移動が顕著化すると、節気ごとのずれ時間は変わるし、それに伴って日付変化の傾向もかなり異なってくるでしょう。そもそも今の暦作りが通用するか分かりません。今年の「2月2日が節分だなんて珍しいね」というお話しの奥には、広大な太陽系の運動や自然由来の揺らぎが存在しているよ、というお話しでした。
【日付が一致するのに100年以上かかる節気】
節気名 | 起点日時(JST) | 前回の同一日日時(JST) | 何年ぶり? |
---|---|---|---|
啓蟄 | 1903年3月7日 2:58:11 | 1519年3月7日 0:20:57 | 384 |
春分 | 1903年3月22日 4:14:05 | 1531年3月22日 0:33:15 | 372 |
立夏 | 1903年5月7日 2:24:41 | 1543年5月7日 0:32:08 | 360 |
夏至 | 1903年6月23日 0:04:14 | 1543年6月23日 0:27:01 | 360 |
立秋 | 1903年8月9日 3:15:08 | 1555年8月9日 0:40:10 | 348 |
小寒 | 1904年1月7日 2:36:22 | -- | 1000 < |
秋分 | 2012年9月22日 23:48:58 | 1896年9月22日 22:02:46 | 116 |
小満 | 2016年5月20日 23:36:29 | 1896年5月20日 23:03:51 | 120 |
穀雨 | 2020年4月19日 23:45:28 | 1896年4月19日 23:12:16 | 124 |
立春 | 2021年2月3日 23:58:47 | 1897年2月3日 21:28:21 | 124 |
小暑 | 2024年7月6日 23:20:03 | 1796年7月6日 21:18:32 | 228 |
処暑 | 2024年8月22日 23:55:02 | 1796年8月22日 21:01:25 | 228 |
大雪 | 2028年12月6日 23:24:39 | 1896年12月6日 22:38:56 | 132 |
寒露 | 2048年10月7日 23:26:51 | 1796年10月7日 22:49:26 | 252 |
小雪 | 2052年11月21日 23:46:14 | 1796年11月21日 21:33:40 | 256 |
大寒 | 2053年1月19日 23:59:28 | 1797年1月19日 20:45:08 | 256 |
夏至 | 2056年6月20日 23:28:35 | 1696年6月20日 23:37:33 | 360 |
霜降 | 2064年10月22日 23:42:52 | 1696年10月22日 19:14:24 | 368 |
立冬 | 2068年11月6日 23:14:08 | 1696年11月6日 18:15:36 | 372 |
立夏 | 2072年5月4日 23:54:33 | -- | 1000 < |
立秋 | 2072年8月6日 23:40:11 | -- | 1000 < |
啓蟄 | 2088年3月4日 23:38:31 | 1696年3月4日 22:08:37 | 392 |
白露 | 2088年9月6日 23:45:27 | -- | 1000 < |
春分 | 2092年3月19日 23:35:17 | -- | 1000 < |
芒種 | 2092年6月4日 23:39:22 | -- | 1000 < |
小寒 | 2093年1月4日 23:48:42 | 1697年1月4日 20:14:38 | 396 |
- 自作プログラムによる概算です。国立天文台などの公式発表値と比べて差が出ることがあるかも知れません。
- 過去から未来に渡り、現在と同じ暦方式が使われているものと仮定しています。
- 1900年から2100年までの計算結果の中から、日付が一致するのに100年以上かかったもののみを挙げています。
- 日付の一致に過去1000年以上遡る場合は計算をストップしていますので「1000<」として表記しました。
- 現在から離れる日時については不確定要素があるため、誤差が大きくなることが考えられます。
- 二十四節気は太陽視黄経15°等分割の定気法によります。
- この表は日本の中央標準時(JST)における日付区切りに準じるため、タイムゾーンが異なる国では成り立ちません。
参考:
124年間で最も早い春分(2020/03/20)
日出没・暦関連の記事(ブログ内)