変化する火星の砂嵐、美しい冬の1等星二重星も2020/11/15

20201114火星
昨夜から今朝にかけて、最近では一番良い晴れ間が訪れました。宵のうちに機材を出して、気になる火星の砂嵐経過を観察。

望遠鏡は外気に十分慣らしましたが、火星像はあまり良くありません。気温が急激に下がっている最中だったので大気が乱れていたのでしょう。でも何とか観察と撮影はできました。

20201113火星
昨日ほぼ同時刻に撮影したもの(右画像)と比べると、渓谷に沿って出ている黄雲の配置や形が変わっていますね。火星のLs(Areocentric Longitude of Sun)は昨夜19:00JST時点で314.2°。地球なら立春のころに相当するので、北半球は冬の、また南半球は夏の真っ盛りと言ったところでしょうか。

今回の帯状黄雲は赤道または若干南半球寄りですから季節はあまり関係ないのかな?一部は南半球中緯度(アルギュレ北端、S40°あたり?)まで流れてるようにも見えます。一晩前と同様条件で撮ったのに北半球のアルベド模様が弱かった(煙たい感じ)のも気になります。しばらくは経過観察ですね。もう一ヶ月位は粘れるかな?

20201114ラッセル・リニア彗星(156P)
続いて狙ったのはラッセル・リニア彗星(156P)。前回の撮影は11日夜でしたが、透明度が悪かったことと、やや低くなってからの撮影ですぐ屋根に隠れてしまったのが心残りでした。今回は南中直後からたっぷり露出できました。

相変わらず核が異様に明るく、コマも太陽側に光が偏っています。短い尾もよく見えました。なんとも面白い姿。計算上の光度ピークは過ぎつつありますが、北上しているのでもうしばらく楽しめそうですね。

夜半までにシーイングが持ち直したようで、登ってきた冬の星座たちがとても美しい…。試しに1等星の二重星に望遠鏡を向けてみたら驚くほど安定して見えました。特にシリウスの伴星が素晴らしい!今まで数え切れないほど見てきたけれど、トップクラスの夜だと感じました(下A画像)。関東の晩秋も捨てたもんじゃないですね。リゲルも当たり前のように見えるし(下B画像)、カストルは明るいA系B系とともに暗いC系まできっちり確認できました(下C画像)。いずれの画像も同一倍率で、画像上方向が天の北方向です。

2018年11月4日の記事にシリウスの軌道図を示しましたが、あと2年ほどで伴星が最も離れます。スパイダーが出る光学系では方向に気をつけつつ、ぜひ狙ってみてください。惜しいことにリゲルはちょっとピンぼけになってしまいました。毎回念入りに合わせているのですが、何かの弾みにずれてしまったのでしょう。また機会を見つけたいと思います。いつまでも見ていたい空だったけれど、宵の火星からフルスロットル状態だったため流石に体調が持たない…。残念ですがお開きとしました。

  • 20201115シリウス

    A.シリウス
  • 20201115リゲル

    B.リゲル
  • 20201115カストル

    C.カストル


【付記:黄雲の発生場所はどこ?】

火星や火星図を見慣れている方は別として、接近時くらいしか眺めない方は火星画像と火星図を見比べてもなかなかピンと来ないでしょう。月面のように目印となる巨大クレーターや山脈などが見えるわけでもありません。またステラナビゲーターやStellariumなどのシミュレートソフトで使われている標準の火星表面は(多分)NASA由来(バイキングモデル)と思いますが、実際に見える明暗模様(アルベド模様)と微妙に食い違っている点も混乱の元と思われます。

私はStellariumの隠しフォルダにある火星テクスチャをオリジナルのものに入れ替えて使っています(下D図)。これはMars Global Surveyorに搭載されているTES(Thermal Emission Spectrometer)で計測されたアルベド地図と、同MOLA(Mars Orbiter Laser Altimeter)による標高データから自作した傾斜図を組み合わせたものです。(主な地図はアリゾナ州立大学の「Mars Space Flight Facility」サイトなどから公開されています、ご参考まで。)

さて黄雲の発生箇所を特定する方法はいくつか考えられますが、手っ取り早くStellariumの表示と重ねてみるのが簡単です。下の画像は11月13日に火星を撮った時刻の様子なので、これに撮影画像を組み合わせたものが下E図。中央付近のモヤッと明るいところが黄雲。地上撮影ではシーイングなどによる像変形があってピッタリは重ならないけれど、なるべく矛盾なく重ねることで、どこに黄雲が発生したか見当がつけられます。(Stellariumには地形名称表示機能もあります。)今回は平野部ではなく峡谷に沿って発生している事がわかるでしょう。

  • Stellarium火星

    D.Stellarium火星テクスチャ(カスタマイズ)
  • 20201113黄雲位置

    E.11月13日の黄雲と組み合わせたもの

ここに自作texture画像を置いておきます。もしご自身のStellariumで火星textureを交換できる技術をお持ちの方はダウンロードしてやってみてください。動作保証することはできませんから自己責任でお願いします!画像は2048×1024px、約1.7MBの白黒pngです。記事画像のものとは少し異なりますので、お好みで濃度調節やカラー化してみてください。本家のものは512×256pxですが、同一比率ならピクセル数を多くしても表示できました。※ver.20にて確認。ご自身で経緯線や赤道を入れたり地名を書き込むのも良いですね。画像中央が経度緯度0°地点です。また極近くの一部は元々データがないため不連続です。


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