技術実証機ヴィクラムの墜落痕が発見される2019/12/03

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インドの月探査計画「チャンドラヤーン2」で、月面に降り立つ予定だった技術実証機ヴィクラム。消息を絶ってから3ヶ月、ようやく「落下墜落した場所を特定した」とのニュースが本日のNASAニュースで流れてきました。墜落は残念ですが、これでひと区切り付けて弔うことができますね。

左はNASAサイトからの引用で、墜落した周辺の様子。部品が散乱した痕など、生々しい現場です。Impact Siteのところを強拡大したのが右下画像。中央に周囲と違う色の部分が確認できます。月面分解能が数メートルというのも驚きの技術ですが、今後はもっと詳しい様子も分かる時代が来るのでしょう。

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9月19日の記事に掲載しましたが、今回見つかった周辺の様子を私の自宅から撮影したもの(下A画像)、およびNASA Moon Trekによる近くの画像(下B・C・D画像)を掲載しておきます。B画像はA画像付近、B画像の黄色矩形内がC画像、C画像の黄色矩形内がD画像、D画像の黄色矩形内が冒頭の画像につながります。落下予測位置(A画像内のピンク円)に寸分違わず発見されたことは驚きでした。

科学の冒険に失敗はつきもの。ここからたくさん学んで、次の成功につなげて欲しいと願わずにはいられません。ちょうど今日12月3日あたりからManzinusクレーターやSimpelius Aクレーターあたりに光が差す様になり、明日4日はCurtiusクレーターが明暗境界になります。月面Xを見るついでで構いませんから、ヴィクラムにも思いを馳せてください。

  • 20190516月の南側

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  • vikram_impact chart2

  • vikram_impact chart3



ボリソフ彗星がそろそろ見納め2019/12/04

20191204パンスターズ彗星(C/2017T2)
昨夜から今朝にかけてよく晴れてくれました。日中は暖かかったので夜の湿度が高くなり、機材や作業机がビショビショになりましたが、それを除けば申し分ありません。大気の揺らぎも、この季節にしては落ち着いていました。

メインターゲットは間もなく見えなくなる明け方のボリソフ彗星(2I・C/2019Q4)。でも視界に現れるまで時間があるため、夜半に子午線を越えたパンスターズ彗星(C/2017T2)を先に撮ってみました(左画像)。相変わらず写真映えする立派な姿。天頂付近と言うこともあって、光害の影響を受けにくいのもGood。

20191204シューメーカー第3彗星(155P)
パンスターズ彗星を撮り終えてもまだボリソフ彗星は低くて、近所の屋根に隠されています。仕方ないので、11月22日に露出が不十分だったシューメーカー第3彗星(155P)に望遠鏡を向けました。

ボリソフ彗星より若干明るい程度ですが、幸い位置が少し高いぶん写りが良くなります(右画像)。西北西向きの尾が確認できます。小柄ですが、なかなか彗星らしい立派な姿です。

20191204ボリソフ彗星(2I・C/2019Q4)
4時近くなってようやく姿を見せ始まったボリソフ彗星。数日後には太陽へ最接近、今月半ばに光度ピークを迎えますが、ずいぶん南下してしまいました。月齢や天気の起伏を考えると、向こう一週間が最後の見頃と思われます。その間に低空までカラッと晴れてくれなければどうしようもありません。

写野内に明るい恒星(コップ座δ星・3.5等)があったため、ゴーストが出まくって像が悪化しました。また、暗い恒星の軌跡が彗星に重なってしまい、詳細が分かりづらくなってしまいました…。うーん、何度望遠鏡を向けても何らかの悔いが残ります。暗い彗星は本当に難しい…。

今日の太陽2019/12/04

20191204太陽
朝からよく晴れています。日が高くなるにつれてやや風が出てきました。

20191204太陽リム
左は10:30過ぎの太陽。活動領域はありません。プロミネンスも全滅(?)です。ただ、南半球の中央左寄りに三角状のダークフィラメント(と言って良いのか分かりません…)が確認できます。GONGの画像でも出てますから、ゴミなどの影ではないでしょう。

それにしても、大気の揺らぎが酷すぎてピントのピークが全く分かりませんでした。

美しい月面Xが見えました2019/12/05

20191204月面X
昨夕から宵にかけて、月面Xを条件良く観察することができました。ときおりやや強い風が吹いたものの、空は快晴。日没頃南中した上弦の欠け際に見事なX字型が浮かび上がってくれました。ちなみに、今年の上弦としては最小とのこと。

左は16:40頃の撮影で、太陽黄経差は約90.287°、撮影高度は約39.5°、月齢7.69。まだ青空の中の白い月でしたが、月面Xが見頃を迎えると予報された時刻です。(※背景は暗くしてあります。)このとき既に月面LOVEのVとOは見えていますね。このあと2時間ほどの間にLとEも光が当たり、19:40頃にはLOVEが揃いました。

20191204月面X&LOVE(ミネラルムーン仕様)
右画像は月面LOVEが出そろったのを見計らって撮影したもの。色のコントラストを丁寧に高めて、鉱物組成あるいは年代の分布が分かる様な、いわゆる「ミネラルムーン」の色調に仕上げてみました。暗いですが、欠け際にXとLOVEがありますから探してください。(※Lは光が当たり始めて何とか位置がたどれる状態なので、とても暗いです。右画像はコントラストを強めてあるため、中央が途切れて見えます。)月が低い上にシーイングも乱れていましたが、全く見えないと言うほどでもありません。何より快晴に加え、南中・日没・文字地形出現の各時刻が近いという最高の条件に恵まれた月面Xデーでした。

20191112ミネラルムーン
【余談】
ミネラルムーンは、「決められたルールに従ってピクセル情報を特定色に置き換える」といった、いわゆる「擬似カラー(false color)」や「パレット合成」とは異なります。もともと写っている色を慎重に抽出してゆくことが肝心です。

左画像は2019年11月12日に撮影した満月画像をミネラルムーン色調にしたもの。(→普通に処理した11月13日記事内の満月画像と原画は全く同じ。)カメラは無改造のノーマル一眼レフで、機材も一般的な反射望遠鏡です。特殊な装置が必要なわけではありません。

もちろんカメラの特性やフィルターワーク、強調の仕方、あるいは月齢(月面へ日光が当たる向きや、その光を観察者が捉える角度)によっても色調はずいぶん違う雰囲気になります。敢えて白黒カメラで三色分解・合成する方法もあります。このあたりは星雲撮影と同様ですね。

月が低空ほど大気の影響で青寄りの短波長が削ぎ落とされ、他天体同様にカラーバランスが崩れます。高く輝く冬の満月期がいちばんミネラルムーン向きと言えるでしょう。一見して色の無い世界と思われがちな「月面の色」を追求してゆくのは実に面白いテーマです。