「月面グー」の見え方を探る2019/12/07

20191204テオフィルスの「月面グー」
「鹿角平天文台通信」のやまのんさんが、この12月初旬に見えた「月面グー」を捉えていました。テオフィルス・クレーターのセンターピーク(多くのクレーター中心に見られる山々)は複数の山で構成されるため三裂星雲やカタバミの葉っぱの様に感じることがあり、日によってはこれが「じゃんけんのグー」に見えるというお話しを少し前に知って感動したものです。

左は4日の月面Xデーの際に撮影した月面全体像(ミネラルムーン色調)からテオフィルスの位置を拡大したもの。この日のシーイングは最悪に近かったため、写りは良くありません。でも「グー」の様子が何となく分かるでしょう。ついでに色合いの違いも見てあげてください。テオフィルスは周囲より若干オレンジがかっており、センターピークは薄白い光条を伴っています。まぁ、そんなこんなで、やまのんさんと少しやり取りする内に、下弦でも見えるのか、月面での太陽高度が何度くらいなら見やすいのか、少し気になりました。そこで、いつもの様に自作プログラムで日照シミュレートしてみることにした次第。

右下図はNASA-LRO標高データを使ってテオフィルス付近を正面からメルカトル図法で描いた月面地図(傾斜量+標高図)。クレーター中心は東経26.28°、南緯11.45°ですから、実際に地球から見ると少し斜めになります。ここに日光が当たることを想定し、センターピーク最高峰(緑マーカーの位置)で測って太陽高度0°から40°までの状態を、5°刻みにシミュレートしました(下図)。上弦側、下弦側それぞれ作図してあります。なお本来の月面が持つ土壌色彩は表現していませんのでご了承ください。

Theophilus月面図
この「グー」は月面Xや月面LOVEほど太陽高度にシビアではないため、太陽高度10°過ぎから30°辺りまで数日間は問題なく見えます。月齢で言うと上弦なら6から8、下弦なら17から19あたりでしょうか。ちなみに冒頭画像撮影時刻のテオフィルス太陽高度は26.08°でした。

理屈っぽく日付を求めたいならば天文年鑑などに載ってる「太陽の月面余経度」の表を利用すると良いでしょう。前述の通りクレーター経度は26.28°。従ってクレーター余経度は360−26.28=333.72°。更に、グーに見えるために必要な太陽高度10°から30°を足した値、つまりおよそ344°から364°(=4°)が日付けを求めたい太陽の月面余経度となります。一覧表がこの値になる日が上弦での該当日ですね。下弦側の余経度はクレーター余経度に180°足して、必要な太陽高度を引いてあげればOK。(→124°から144°あたりになります。必ず0°から360°の間に収めてください。)

上弦と下弦とでは雰囲気が変わりますから、グーに見えないこともあるでしょう。また望遠鏡で拡大観察する場合、屈折か反射か、天頂プリズムや正立プリズムの有無などによっても陰影知覚が変わることもあるでしょう。みなさんは下図のどれが一番グーらしく見えますか?その画像を180°回転させても同じように感じますか?

世界地図等で立体感を表現する場合、多くの場合は「左上=北西」に光源を設定する「陰影起伏図」が使われます。(→参考:国土地理院の地図による富士山の陰影起伏図。)日本では実際にこんな方向から太陽に照らされることは無いのですが、このようにしないと人間の目の特性によってデコボコを誤認してしまうそうです。Webサイトで使われるアイコンやボタン、文字の陰影も、多くの場合で左上または上方向に光源があります。いっぽう月面観察(or撮影)では上下(南北)方向から照らされることはなく、左右(東西)の月相変化のみになり、おまけに望遠鏡で上下左右は無茶苦茶です。このため「クレーター錯視」(→2018年10月13日記事参照)という現象(症状?)が起こりやすくなります。ぜひ実際の「月面グー」を観察して、感じ方の変化を確かめてみましょう。

  • Theophilus上弦00

    上弦側・太陽高度0°
  • Theophilus上弦05

    上弦側・太陽高度5°
  • Theophilus上弦10

    上弦側・太陽高度10°


  • Theophilus上弦15

    上弦側・太陽高度15°
  • Theophilus上弦20

    上弦側・太陽高度20°
  • Theophilus上弦25

    上弦側・太陽高度25°


  • Theophilus上弦30

    上弦側・太陽高度30°
  • Theophilus上弦35

    上弦側・太陽高度35°
  • Theophilus上弦40

    上弦側・太陽高度40°


  • Theophilus下弦40

    下弦側・太陽高度40°
  • Theophilus下弦35

    下弦側・太陽高度35°
  • Theophilus下弦30

    下弦側・太陽高度30°


  • Theophilus下弦25

    下弦側・太陽高度25°
  • Theophilus下弦20

    下弦側・太陽高度20°
  • Theophilus下弦15

    下弦側・太陽高度15°


  • Theophilus下弦10

    下弦側・太陽高度10°
  • Theophilus下弦05

    下弦側・太陽高度5°
  • Theophilus下弦00

    下弦側・太陽高度0°