地球近傍小惑星「1999KW4」が見えてきました2019/05/28

20190527小惑星66391 (1999 KW4)
暑かった日々もようやく一段落なのか、昨日は西から天気が下り坂の空模様でした。関東も雲が増えてきましたが、幸いまだ薄い巻雲ばかり。昨夕は日が暮れてからも何とか星を辿ることができました。

5月21日記事で紹介した大サイズの地球近傍小惑星「1999KW4」がボチボチ低空に見えてくる頃でしたが、次第に雲が多くなる天候と宵の早い内に隣家の屋根に没する位置だったため、かなり躊躇しました。でもやらないで後悔するよりやって後悔。明るい内に望遠鏡をセットし、雲間にチラッと見えた北極星で極軸を合わせ、あとは勘を頼りに「ほぼ何も見えない空」を10分ほどガイド撮影しました。

結果は左上画像のとおり。オートガイドどころかガイド星すら見つからず、完全に放置プレイ。画像処理で軽減してますが、元画像はまるで雲写真です。その上1コマ14秒露出ですから、原画をどんなに眺めても小惑星は判別できません。でも移動量に従って40コマをメトカーフコンポジットしてあげると、みごとに星像が浮かんできました。たった10分ですが約6.6分角も移動しています。速いなぁ。

これから少しずつ高度を上げるので、晴れさえすれば見やすくなるでしょう。梅雨入り前にぜひ観察してくださいね。

衛星群「スターリンク」を観察しました2019/05/28


20190527StarLink
5月23日に打ち上げられたSpaceX社のファルコン9によって60機もの通信衛星が低軌道に放出されました。「スターリンク」と呼ばれる衛星群は今後どんどん追加され、計画では約12000機の衛星によるインターネット通信網を宇宙空間に展開するとのこと。

今回軌道に乗った60機の衛星たちを地上から見ると「銀河鉄道みたい」「光の数珠だ」と関連界隈で話題になってます。見てみたいと思ってましたが天候の巡り合わせがうまくいかず、昨夕にようやく雲越しながら観察できました。小惑星「1999KW4」の撮影直後だったので大慌てのスケジュールでしたが、なんとか撮影もできました(左画像)。

観察場所によって見え方が変わると思いますが、私の所からは4機の衛星が約2.5等程度の明るさで、ほぼ同じルートを並んで飛んでいきました。なるほど、列車の窓から漏れる灯りみたいです。今までの例だと、スペースシャトルと国際宇宙ステーションの併走、あるいはペアになっているイリジウム衛星の併走は見たことがありますが、4機同時に、しかも非常に狭い間隔で飛ぶ衛星は初めてです。

20190527StarLink
左上画像は5秒露出+1秒休みのリピート固定撮影を13コマコンポジットしたもの。1機の衛星なら普通は「1秒休み」のところが隙間になって、全体が破線状の軌跡になります。でもスターリンクの場合は縒り糸のように互いが隙間を埋めてしまってますね。とても不思議です。

右はコンポジット前の1コマから切り取った画像。4本の軌跡がほとんど同じ所を飛んでいると分かるでしょう。4機全体の幅はおおぐま座のαとβにおさまってしまうほど。(※おおぐま座のαとβは「北斗七星を5倍伸ばすと北極星が…」の、「5倍伸ばし」に使う星です。)

実際は点像なのですが、こればかりは本物を見ないと感動できません。ご覧になりたい方は、お馴染みCalSKYなどの予報サイトでも既に表示できますから、ご利用ください。中でもお勧めなのはHeavens-Aboveサイト。当然ながら60機全体は長い列になってしまうため、1機の予報では的が絞れません。でもHeavens-Aboveでは先頭と最後尾の両方を予報しているので、その間に観察すれば良いことが分かります。

スターリンクリアルタイム3D表示
【5/30追記】上述のHeavens-Aboveサイトのトップメニューに現在のスターリンク衛星群がどこを飛んでいるかをリアルタイム3D表示する機能が付いたようです。これはかなり便利。右図は5月30日明け方前のサンプル画面。この時点では特定の観測地上空を60機全部が通過するのに25分かかっています。

衛星群の密集度は日に日に変化するため、打ち上げから10日も経つと衛星同士の距離がだんだん開いてしまうでしょう。「観察したけど1機しか見えなかった」という方は、隊列のスカスカな部分を見てしまったのです。この3D表示を見ればどの辺りが密集してるか分かるので、先頭と最後尾の時間予報から観察に最適な時間を割り出せますね。お使いのPCで閲覧する場合、右上の観測地点設定を忘れないようにしてください。

ところでこれだけ人工衛星が増えると、景観の好き嫌いや利便性だけで済まない、複雑な問題が浮上します。眺めているだけなら空港近くの空みたいに「空の光がうざい」と感じたとしても実害がないと思いますが、天体観測など支障が出るかも知れません。小惑星による恒星掩蔽やトランジット法で小天体探しをする観測、あるいは電波を扱うあらゆる観測では、障害物となる衛星が増えるほど観測の正確さが担保できなくなりそうです。大量のデブリ処理問題や国家間・企業間の摩擦も大きくなるでしょう。

スターリンク衛星網
もし12000機もの人工衛星が地球を覆ったとしたらどんな密度になるか、自作プログラムで架空の衛星軌道を生成し、ステラナビゲーターで表示してみました(左図)。ちょうど天文リフレクションズのサイト記事でも同じことが取り上げられていたので、編集部にシミュレート画像をお送りしたところ、特集記事内で使っていただけました。詳しくはリンク先をどうぞ。

その記事内にも書いてありますが、スターリンクは天体イベントではなく、あくまで通信事業です。このため、アメリカ連邦通信委員会(FCC)の厳しい審査承認を得た上で実施されます。スケジュールはもちろん、衛星高度、個数、使用通信バンド帯などもキッチリ決められてるわけです。(→SpaceX社に対するFCCの書類は資料1、および資料2などに公開されています。)

20200621日没90分後
資料によれば12000機は三つの高度に分けられているようです。低高度ほど明るいですが地球の影に隠れやすく、高高度になれば暗くなるけれどいつまでも太陽を浴びて光ってます。高度によってどれくらい差があるのか、2020年6月21日(夏至)の日没90分後、下記設定の衛星全てが三つの高度に上がってると仮定し、地上から見た空をシミュレートしたのが右図。衛星数と高度は計画に近い値にしました。観察地は東京にある日本経緯度原点(標高0m)です。なお年号に意味はありません。

  • 高度340km(94機×80軌道=7520機、計画では約7500機)…水色の-1等で描画
  • 高度550km (40機×40軌道=1600機、計画では約1600機)…緑色の0等で描画
  • 高度1150km(54機×52軌道=2808機、計画では約2800機)…黄色の1等で描画

もちろん明るさは実際と違いますが、光る衛星がどれくらいの密度で夜空を覆うのかを知る手がかりになるでしょう。この時期の太陽は西北西に沈むので、東南東上空へ地球影が伸びています。低空でうごめく明るい衛星はあまり問題にならないかも知れませんが、1000kmを越す衛星群の場合、なんと!一晩中途切れることなく天頂近くまで光っているのです。北半球は夏至のころ、南半球は冬至のころを中心に影響が大きくなり、緯度60度あたりまでこの衛星光から逃れることはできません。星好きの皆さんがこれに耐えられるかどうか…難しいところですね。

自然のランダムさ…例えばホタルの乱舞や不規則に飛び交う流星群などは、意図せず写真に写ってしまっても「これが自然の美しさだよね」と納得できますが、多数衛星の夜空を5分も撮ったら、間違いなく「編み目状」に写ってしまい(下記囲み参照)、「美しいランダム」とは言いがたいでしょう。最初は面白いと思えても、次第にイラッときてしまいそう…。なお、もし光学的に問題ないほど暗かったとしても、電波観測の場合は深刻です。光ってなくても「全天が電波の鉄格子に囚われている」ことになるため、その隙間から深宇宙の微弱な電波を継続観測するなんてほぼ無理なのではないでしょうか。

5月20日夏の大三角撮影への影響
念のため、誤認しないよう加筆します。

「時々明るくなることを除けば、さほど影響ないのでは?」と思われる方もいらっしゃいます。シミュレーション通りになるとも限りませんが、点像の図で見た場合は星空と一体化してしまうため「影響を軽めに感じてしまう」錯覚もあるでしょう。

左画像は「5月20日の明け方に昇ってきた夏の大三角を5分間撮影する」という前提で衛星の影響を描いた図。衛星は大げさに描いてありますが、淡い天の川や散光星雲などを写すカメラだと間違いなく写ってしまうでしょう。写真の場合はこんなふうに線像になるのですが、この画像を見てどう感じますか?私なら…どん引きするなぁ。

下図は、記事に出てきた1150km衛星群(黄色表示)のみを使い、太陽光の影響が強まる夏至のひと晩で衛星位置がどう遷移するか描いたもの。真夜中でも北天は交通渋滞ですね。繰り返しますが「止まってる点像ではなく、2分も経たない間隔で次から次へと衛星が来る」のです。また「夏以外なら影響はない」ということでもありません。冬至の頃でも日出や日没から数時間マージンを置かなければ衛星光が低空エリアに落ち着いてくれないのは夏と一緒。「画像処理テクニックで消せるから大丈夫」といったレベルの話ではないように思えるのですが…。「見えなければ(写真に写らなければ)どうってことない」と言うのは視覚偏重の誤った考え方です。

  • 20200621日没90分後

    A.2020年6月21日・日没90分後
  • 20200622真夜中0:00

    B.2020年6月22日・真夜中0:00
  • 20200622日出90分前

    C.2020年6月22日・日出90分前


【2019.5.31メモ】
今まで描画に使っていたステラナビゲーターver8は衛星の日照判定に不備があることが分かったため、ver10で再描画して差し替えました。ご了承ください。