一足早く冬の重星を楽しむ2018/11/04

20181103トラペジウム
ここ数年「恒星をある程度拡大して美しく撮るにはどうしたらよいか」を色々な手法で試しているのですが、ここから横道に反れて「二重星をきれいに撮るにはどうしたらよいか」で深みにはまっています。

ごく普通の星野や大きな星雲星団程度なら、画角が数度…満月をすっぽり収めてもたっぷり余るくらいの広さでしょう。露出も数分から数百分と長いため、コンポジットによって空気の揺らぎや少々の薄雲通過、光害ムラ、ガイドムラなどは相殺されます。元々の画像上で目立たない程度の揺らぎは、最終的にほとんど気になりません。

ところが惑星や重星、あるいは月面地形の拡大撮影では、とても狭い範囲を数秒から数十分の1秒といった短時間露光で切り取る必要があります。大気の揺らぎは拡大され、短時間露光であっても小さなガイドムラが隠しきれないので、派手な画像ブレとして写ってしまいます。何百枚、何千枚もコンポジットすることでこのブレはある程度軽減できますが、これは見た目を誤魔化しているに過ぎないため限界があるでしょう。

それはさておき、冬の宵を飾る星座の中には魅力的な重星(連星含む)が幾つもありますが、関東の冬空は気流の揺らぎが大きくてなかなかキレイに撮影できません。ならばある程度安定している秋の内に撮影しておこうと思いました。秋の明け方なら冬の星座が南中しますし、明け方ならではの凪も期待できます。ただ、今年は秋半ばまで思ったほど晴れ間がなく、機会を逃していました。

左上はオリオン大星雲中心部にあるトラペジウム。重星エリアとして有名です。ノーマルなカメラでも周囲の星雲まで一緒に写ってしまうので、いかに星雲が明るいか分かるでしょう。また、下のA・B・C画像は1等星のうち撮影可能な三種を選んで写したもの。やや乱れが大きく、またコンポジット枚数も少なめなので、恒星がうまく円形にならなかったのが反省点です。いつか有名二重星の画像集でもできたらと夢は膨らみますが、なかなかハードルが高いですね…。

  • 20181103シリウス

    A.シリウス
  • 20181103リゲル

    B.リゲル
  • 20181103カストル

    C.カストル


そうそう、いくつか関連サイトを見てとても気になったのですが、重星の画像を掲載しているほとんどのサイトでは画像方向が統一されていませんでした。重星の位置関係は離角(主星と伴星の離れ具合)だけでなく、どちら側に離れているかという位置角(天の北から東回りに測った角度:PA=Position Angle)も大事。なのに、公共天文台ギャラリーですらバラバラのケースが多いのです。天頂プリズムで裏返しの場合、ますます混乱します。詳しい人だけが閲覧するとは限りませんから、等級差、色の対比、離角などと共に位置角も気にして欲しいと強く望む次第。(北を上に統一するか、または北がどちらか画像に明記して欲しい。)ちなみに上画像は全て上方向を天の北方向に揃えてあります。

連星系の場合、主星に対する伴星の軌道まである程度解明されている場合があります。そのようなケースでは軌道図を描くことが可能です。今回撮影した三つのうちシリウスとカストルの軌道を下にD・E・F図として掲載しました。目盛数値は角度の秒です。連星系は必ずしも主星が伴星に対して圧倒的に重いとは限りませんから、主星と伴星との質量比が分かっている場合は「伴星が一方的に主星を回る」D図よりも、E図のように「互いの共通重心を回る図」として描くほうが現実に近いイメージと考えられます(→参考:おとめ座γ=連星ポリマの軌道図)。十年、二十年と継続観察すれば移動が分かる場合があるので、面白いターゲットになるでしょう。

カストルは6重星として知られています。主星A系(約9.2日周期で公転する二星)、伴星B系(約2.9日周期で公転する二星)、伴星C系(約0.8日周期で公転する二星)の3グループがあって、各グループの内部は大きな天文台で特殊な方法を使わないと分離できません。でもアマチュアの望遠鏡でがんばれば各系ごとに分離して写ります(上C画像)。Webに出回っている画像でC系まで写っているのを見かけませんが、ABと違ってかなり離れていますから、画角さえカバーしていればシリウスやリゲルの伴星よりずっと簡単です。A系とB系はF図のように460年近くかかって互いの周りを回っていますが、AB系とC系の公転周期は1万年以上かかるとみられ、正確な軌道を解明するには人間の観測歴史がまだまだ足りません。

  • シリウス連星軌道図

    D.シリウスAB軌道図(1)
  • シリウス連星軌道図2

    E.シリウスAB軌道図(2)
  • カストルAB連星軌道図

    F.カストルA系B系軌道図