ハリケーンFLORENCEの洪水被害と等高線2018/09/19


20180917ハリケーンFLORENCEによる雨量マップ
ハリケーンFLORENCEがもたらした大量の雨による洪水被害が深刻です。北アメリカで最大級となった昨年のハリケーンHARVEYほどではないにしろ、ノースカロライナ州観測史上トップクラスの雨量となり、被害は計り知れません。

左はNational Weather Serviceから昨夜公開された17日までの一週間雨量データを地図に落とし込んだもの。熱帯低気圧になった後のFLORENCE経路も17日3:00UTCまで描いてあります。上陸は14日だったようですが、その後ハリケーンではなくなった15日以降も大雨を降らせました。大西洋を移動していたときと比較して移動速度が半分程度になったため、長期に渡る雨が河川氾濫などを招いたと思われます。また記事末の表はWEATHER PREDICTION CENTERが今朝発表したデータから、500mm以上の雨が降った場所をピックアップしたもの。トップはELIZABETHTOWNの900mm越えでした。平成30年7月豪雨におけるトップだった高知県安芸郡馬路村魚梁瀬の1852.5mmからみると半分ほどなので、「日本のほうが被害はひどい」という訳にはいきません。(そもそも被害自慢をするほうがどうかしてます…。)アメリカ東海岸は低地が延々と続くので、日本のような水捌けの良さは期待できないからです。雨が上がってもすぐ水が引くわけではありませんから、復旧作業は日本のペースより大幅に遅れることとなるでしょう。

一般市民の私たちが地図を見るとき忘れがちなのは「高低差」です。多くの人にとって地図は「道路マップ」や「土地利用図」としての価値がほとんどで、よほど熱心な登山家でさえ等高線を見るのは尾根を見極めるときくらいでしょう。普段見ない等高線にだって色々な意味が見出せますが、そのひとつが水害や土砂災害の起こりやすさを示している点ではないでしょうか。

下のふたつの地図は今回ハリケーン被害が大きかったノースカロライナ州の海岸付近と、比較のために本州中部付近の等高線を描いたもの(標高500m以下のみ)。それぞれ全く同じ縮尺・図法・設定で描きました。ほぼ同緯度なので直接比較することができるでしょう。中学や高校の地理で「日本の河川は急傾斜」ということを習いますが、それは等高線の詰まり具合を見れば一目瞭然。洪水被害が起きているノースカロライナ州がどこもかしこもだだっ広い等高線間隔なのに対し、本州で「だだっ広い」と言えそうなのはごく一部だけ。それだけ土砂崩れが起こりやすいとも言えるでしょう。

標高が高ければ洪水や浸水が起こりにくいと思われがちですが、そうではありません。標高に関係なく、高低差が極端に少ない高原や、周囲の降水を集めやすい山岳地でも洪水は起きます。例え海から数千km離れた場所であろうとも、水の逃げ場がない土地に大雨が降ったら何日も水が捌けません。それに、仮に1時間で水が引く場所だったとしても、大量の泥水が人間を飲み込めば、ほんの10分で命尽きるでしょう。また雨水起因ではありませんが、標高数千m級の高原にある氷の湖が溶け出すことで起きる「氷河湖決壊洪水」という現象もあります。ハザードマップや誘導経路、避難場所設定は高低差の情報を熟知していなくては成り立たちません。どうか水難が少しでも減りますように。

  • FLORENCE上陸地付近の等高線

    A.FLORENCE上陸地付近の等高線
  • 本州付近の等高線

    B.本州中部の等高線


【ハリケーンFLORENCEによる総雨量】
順位場所総雨量(inch)総雨量(mm)
1NORTH CAROLINAELIZABETHTOWN 6.2 NW35.93912.62
2NORTH CAROLINASWANSBORO 1.4 N34.00863.60
3NORTH CAROLINAGURGANUS .5 N30.38771.65
4NORTH CAROLINAHOFMANN FOREST RAWS29.62752.35
5NORTH CAROLINAHAMPSTEAD 4.1 WNW29.52749.81
6NORTH CAROLINASUNNY POINT RAWS27.44696.98
7NORTH CAROLINANATURE CONSERVANCY RAWS27.40695.96
8NORTH CAROLINASMITH CREEK 0.8 E27.40695.96
9NORTH CAROLINAOAK ISLAND .9 ENE26.98685.29
10NORTH CAROLINAWILMINGTON 7.3 NE26.58675.13
11NORTH CAROLINAALBERTSON 1.2 WNW26.26667.00
12NORTH CAROLINAWHITEVILLE 6.1 NW25.91658.11
13NORTH CAROLINANEWPORT/MOREHEAD CITY NWS WFO25.20640.08
14NORTH CAROLINAMT. OLIVE 0.4 NW25.04636.02
15NORTH CAROLINAJACKSONVILLE 6.8 NW24.61625.09
16NORTH CAROLINANEWPORT .2 SW23.86606.04
17NORTH CAROLINATURNBULL CREEK RAWS23.67601.22
18SOUTH CAROLINALORIS 2.9 WSW23.63600.20
19NORTH CAROLINAEMERALD ISLE 0.2 ENE23.49596.65
20NORTH CAROLINABOLIVIA 7.8 SW23.33592.58
21NORTH CAROLINAMAYSVILLE 3.4 SSW23.14587.76
22NORTH CAROLINAWILMINGTON INTL AP (KILM)23.02584.71
23NORTH CAROLINALUMBERTON 2.3 NE22.76578.10
24NORTH CAROLINAYAUPON BEACH .2 SSW22.76578.10
25SOUTH CAROLINACHERAW WATER PLANT22.58573.53
26NORTH CAROLINASUPPLY 4 NNW21.92556.77
27NORTH CAROLINACEDAR POINT 0.9 WSW21.73551.94
28NORTH CAROLINACROATAN RAWS21.70551.18
29NORTH CAROLINAMOREHEAD CITY .6 NW21.20538.48
30SOUTH CAROLINACAROLINA SAND HILLS RAWS (6E JEFFS21.18537.97
31NORTH CAROLINABOILING SPRING 4 (BACK ISLD RAWS)21.04534.42
32SOUTH CAROLINACHESTERFIELD (MAIN ST)19.94506.48
33NORTH CAROLINASANDY RUN RAWS19.92505.97

  • 元データはWEATHER PREDICTION CENTERによる2018年9月13日18:00UTCから9月18日14:00UTCまでの集計値です。(概ね雨が上がった9月20日に総雨量を再検証しましたが、少なくとも上位100位は変化無しだったので当表はこのままとします。)
  • 19日朝(JST)時点で500mmを越えていた地域を全てリストにしました。
  • 参考までに、昨年2017年のハリケーンHARVEYではCEDAR BAYOUで1317.75mm、CLEAR CREEKで1254.76mm、DAYTONで1250.44mmなどでした。また「平成30年7月豪雨」による総雨量では高知県安芸郡馬路村魚梁瀬で1852.5mm、同県長岡郡本山町本山で1694.0mm、同県香美市繁藤で1389.5mmなどでした。


今日の太陽2018/09/19

20180919太陽
雲の多かった昨日、夕方から関東東側のところどころで大雨となりました。我が家からは遠雷が聞こえましたが、雨は少なくて済みました。今日は午前中から秋晴れです。

20180919太陽リム
左は14:00頃の太陽。活動領域12722が右リム近くに明るく見えています。小さなプロミネンスも幾つか見えますね。雲が少なかったので、久しぶりに慌てることなくじっくり観察できました。