想定外と言わないために2018/08/10

2年後の昨日は東京オリンピックが閉会する日(予定)。こんな暑い時期にスポーツの祭典?と疑問に思った私は、去年2017年8月1日の記事でいくつかのグラフを掲載し、細やかながら気象面の分析を試みました。

近年の異常気象に対して災害対策が万全でなかったとき、常套句のように使われる「想定外だった」という言葉。ある意味開き直りにも聞こえますが、では逆にみなさんが現場責任者だったらどうでしょう?とことんまで想定して対策することができたでしょうか?他人を責めることは容易いけれど、いざ自分がその立場に立つと「やっぱりできなかった」ということが多いものです。無責任に人を責めるのではなく、「自分がオリンピック熱中症対策の責任者だったら」という立場に立って、陥りやすい人間思考の盲点を少しだけ探ってみましょう。

  • WBGT(平均値)複数年集計

    <1>  WBGT(平均値)複数年集計
  • WBGT(最大値)複数年集計

    <2>  WBGT(最大値)複数年集計


★膨大なデータを前に、諦めず見出すべきこと

記事内にあるグラフは、前出リンクで取り上げたWBGT値のグラフ(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature、通称「暑さ指数」)。敢えて似たグラフをたくさん掲載しましたが、「想定する」という作業は過去の膨大なデータから近い将来の「最悪値」を定めることが出発点と言えます。ここにある高々10枚に満たないグラフ程度で根を上げるようではとても「想定外」を減らすことができません。思考の多さ、複雑さに根負けする自分を棚に上げて、他人を批判するのはおかしな話でしょう。「自分は専門外」「面倒くさい」などの言い訳も成り立ちません。熱中症の知識やWBGTなどは高校生程度で十分理解できますし、今みなさんの隣の人やみなさん自身が熱中症で倒れて命の危険があるときに、何もできない、してもらえないのは悲しくありませんか?

熱中症はその場の気温だけでなく、日光の直射、建物や道路などからの照り返し、湿度なども関係します。それらをひとつの指標にしたのがWBGTという計算値。単位は気温と同じ「度」を使います。室内・屋外を問わずスポーツ、遊戯、通勤通学などの判断基準となるでしょう。気温、湿度、天気などを私たちが考えるとき、多くの方がまず取りかかるのは「平均を見る」ことではないでしょうか。気象データはばらつきが大きいので「突出した値を均すことで傾向が分かりやすくなる」と考えるのは自然です。でも待ってください。本当に均してしまって良いのでしょうか?

上の<1>図はオリンピック期間に相当する7月24日から8月9日まで、2013年から2017年の全てのWBGTを集計したものです(元データ:環境省・東京都東京の実測値)。1時間刻みでどれほどの危険があるかを、WBGTの出現率を使って示しました。<1>図は各年の同じ日を平均した結果。対して<2>図は各年同じ日の中で一番高いWBGTを使い集計した結果です。運動が「原則中止」となる赤いグラフが倍程度変わってしまいますね。私たちがいま考えているのは「全体の傾向」ではなく「最悪どれくらいになるか」を見極める作業でした。平均値データを見るだけで済ますことが正しいと言えるでしょうか?


  • WBGT・2013年集計

    <3>  WBGT・2013年集計
  • WBGT・2014年集計

    <4>  WBGT・2014年集計
  • WBGT・2015年集計

    <5>  WBGT・2015年集計


  • WBGT・2016年集計

    <6>  WBGT・2016年集計
  • WBGT・2017年集計

    <7>  WBGT・2017年集計
  • WBGT・2018年集計

    <8>  WBGT・2018年集計


★ばらつきが出る原因は何か

各年ごと個別に集計したグラフを見てみましょう。上の<3>図から<8>図までは、2013年から今年2018年までのオリンピック予定期間WBGTグラフ。かなりのばらつきがあることが分かりますね。日中でも赤棒グラフがほとんど無い年もあれば、<1>図の3倍も伸びている年もあるのです。想定外を減らすなら「少なくとも過去最悪の状況が起こりうる」と考えなくてはなりません。今年は暑い暑いとあちこちで言われますが、2018年の<8>図を見ると2015年の<5>図より危険率が低いようです。確かに2015年の真夏日地点数は今年と同程度の勢いでした。でもそれならなぜ同じようなグラフにならず、今年が低くなってしまったのでしょうか?

2015年の期間中における最高WBGTの最低は29.6度。対して今年2018年は26.0度未満が4日もあり、最低は23.3度(8月7日)でした。暑い日が続いても、期間中に少し涼しい日が数日あるだけで統計が影響を受けてしまうのです。これは「均さないで個別に見る」上での短所ですね。今年の期間中東京が涼しくなった理由、もうお分かりの方も多いでしょうが、台風12号と13号が直撃したからです。原因が分かってしまうと「なーんだ」と納得できますが、原因が分かりやすいとは限りません。「些細な起因」を探すのに、絡まった毛糸を解くような作業になることも少なくないでしょう。これを、諦めず行うことが「想定外」を減らすことに直結します。ちなみに台風の影響があった期間を排除して今年の集計をすると2015年と同等かそれ以上にひどい結果となりました。

「常に移動する選手や観客に対して、一箇所のWBGT値を評価するだけで良いのか」といった、より深い分析も必要でしょう。これは、例えば「背の低い小学低学年の登下校や、ベビーカーの赤ちゃんが散歩中に受ける熱放射」を見極める用途にも応用できますね。真夏の日なたでアスファルトに5分間正座すると分かりますが、大人が立って歩く時に感じるより桁違いに多い熱を、小さな子たちは地面から受けるのです。「WBGT以外にも考えるべきことはないのか」という自己否定的思考だって必要でしょう。分析だけではなく対処法も考えなくてはいけません。膨大な対策費用も必要です。(大抵は私たちの財布=税金を苦しめることになります。)サマータイムなどの話も出てますが、例えば上図で競技進行を2時間早めたら、参加者・ボランティア・選手の危険を大幅に減らせる結果を導けますか?よほど元気な単身の若者ならともかく、普通の人…家族持ちの人・低年齢者・高齢者などは簡単に生活パターンを変えられませんから、少なくとも時計の早い遅いでは何も解決しないことは分かりますね。

今回はWBGTを使った熱の考察だけでしたが、例えば台風が来て涼しくなったから良いというものではなく、別の災害連鎖による「最悪の事態」(浸水、冠水、土砂災害、交通混乱など)も考えなければ「全て想定済み」とは言えません。東京だけ災害が起きなければ良いわけでもありませんね。開催時期に西日本豪雨のようなことが起これば、オリンピックやってる場合じゃないでしょう。ここ数年の日本を思い出す限り、同時多発災害の可能性はかなり高いと思います。さあ、みなさんも責任者になったつもりで、分析解決に取り組んでください。オリンピックだけでなく、災害対策全般に「想定外」を作らないため、まずは私たち一般市民が頭を柔らかくしませんか。

コメント

トラックバック