南極の棚氷、亀裂が進む2017/01/08

当記事で取り上げているラーセンC棚氷の亀裂は、2017年7月10日から12日の間に完全分離したとの発表がありました。2017年7月13日の記事に記しましたのでご覧ください。


南極大陸
今日は本州の南岸に沿って発達した低気圧が通り、各地でお天気が崩れています。私の住む茨城県では最高気温が7度か8度止まりで、近県も含め夜には雪が降るかも知れません。いっぽう石垣島では夏日が1週間も連続するなど、ただならぬ陽気です。

寒い日が続くと「本当に温暖化なのか?」と疑問を持つ人が増え、夏に真夏日が続けば「温暖化のせいだ」という人が現れます。台風が増えても減っても異常気象と騒ぐ人が必ずいますね。天気予報を見るとき「身近な地方」しか関心のない方がほとんどでしょうけれど、大人の人間が活動する高々50年ほどの実体験では、地球の気候変動なんて判断できません。もっと広く長い視野を持たないと。

お正月早々、気になるニュースが流れていました。南極大陸にある「棚氷」の一部が分離寸前ということです。日本で流れているニュースでは図解などがほとんどなくてよく分かりませんでした。そこで、なるべく情報の一次ソースを辿りつつ、状況をまとめてみました。

南極はご存じのように左上画像のような形です。マーカーで示した南極点の位置から画像上方向が「経度0°」。南極点の右半分は東経のエリア、左半分は西経のエリア、日本はご覧の方向ですね。そして、日本と正反対(だいたい西経65°)のほうにしっぽのような「南極半島」があります。ちょうど南米・チリ「ホーン岬」の対岸にあたります。問題の棚氷は南極半島の一角にありました。南極はこの画像で見えている全てが「陸地」ではなくて、周囲の多くは厚い氷のみでできています。こういった場所を棚氷(たなごおり/ice shelf)と呼ぶそうです。棚氷は海水が凍ったものではなく、陸地の氷が海側にせり出したもの。一般に海水が凍った「海氷」より厚くなるとのこと。(※流氷は海氷の一種。)

分裂日本
今回分離が危ぶまれているのは、「ラーセンC」と呼ばれる棚氷の一部。一部と言っても、分離すればなんと面積約5000km²・厚さ数百mの巨大な氷が崩壊しながら漂流するとの予想です。5000km²ってピンと来ませんね。試しに日本の「県」に例えると千葉県や愛知県、福岡県が近いです。もし日本から千葉とか愛知とか福岡とか漂流しちゃったらどう感じますか?(右図。)どえらい事ですよねぇ。

まぁ県の場合は陸地だから漂流しませんが、棚氷は海に浮かんでしまうので流れて行っちゃうわけですね。もともと海に浮かんでいた氷なら溶けても海面上昇はありませんが、問題なのは分離前まで支えられていた内陸の「海面より上の」氷まで一気に崩落が進む可能性があること。それが海水に戻ると世界の海が10cm上昇するということです。数センチの津波でも大騒ぎになってるのに、逃げ場のない海水が全世界で10cm上昇したらどうなることやら。

ラーセンC棚氷の亀裂
これらを詳細に研究している英国MIDAS Projectが公開している亀裂の地図を元に、自前の地図をまとめました(左)。白い部分が陸地(南極半島)、水色は棚氷、青が海域です。ラーセンC棚氷の亀裂を年代別に色分けしています。あと20kmか30km割れ目が入れば、完全に分離ですね。棚氷と海域の境界は時々刻々と変化するので、この資料を何年か後に見たらだいぶ変わっているでしょう。それほど進行が早く進んでいるのです。(※今日現在、GoogleMapの衛星写真モードでこの辺りを見ると、まだ棚氷があったころの画像になっています。)

付近には既に棚氷の大部分が消失してしまったラーセンAやBがあり、今回同様に短期間の出来事だったようです。これが温暖化のせいかどうかはもっと長い研究が必要でしょう。でも原因がどうであれ「人の一生でも十分変化が分かる速さで南極が崩壊している」という厳然たる事実が目の前にあります。水没の危機に瀕する島国だってあります。「直ちに日本(自分)に被害が及ばないなら別に関心が湧かない」という方が一人でも減りますように。

  • 日本地図は国土地理院「地球地図日本」を利用しました。
  • 世界地図はNatural Earthを利用しました。棚氷のうちラーセンC以外の部分は2016年時点のNatural Earthデータによります。2017年1月現在は海域との境界が少し変わっていますのでご注意。