台風16号の高さを見積もる2016/09/20


20160920-0700台風16号
台風16号は日付が今日20日になってすぐに鹿児島へ上陸しました。上陸時は中心気圧が945hPa、最大風速40m/sという「非常に強い台風」のクラスで、半日かけて四国まで移動しながら西日本に大雨を降らせました。

現在20日の夜になったところですが、18時時点では中心気圧が985hPaまで上がり、暴風域も消えました。ただ、秋雨前線と一体化して中部から関東に大雨を降らせ続けています。当地・茨城県でも時折激しい雨です。左は本日7:00の気象衛星画像(画像元:NICTサイエンスクラウド)。台風16号の中心が足摺岬の近くにある頃です。台風から右やや上方向に連なる分厚い雨雲が東北地方以南をすっぽり覆っていますね。

ところで、この画像を見ているうちに台風の左側に影が出ていることに気付きました。台風は色々な高さの雲による巨大な構造体ですが、そのうち最も高い雲の影が見えているものと思われます。ひょっとしてこの影から雲の高さ(台風の厚み)が測れるかも知れないと思い、簡易的な方法ですが計算してみました。

右下は台風16号西側付近の拡大で、マス目が1°相当の経緯度図も重ねてあります。ちょうど対馬あたりですから、対馬のすぐ南を通る北緯34°を基準に考えましょう。明後日22日は秋分ですので、今ごろの朝の太陽はほぼ真東に見えます。影の輪郭と雲の輪郭とを対比させると、見事なまでに西側へ伸びていますよ。この影の長さをピクセル単位で何ヶ所か測った平均と、北緯34°線の経度1°に対するピクセル数と実際の距離を使って「影の水平距離は約58.42km」であることが分かりました。(ただし地球の曲率は考えないことにします。)

20160920-0700台風16号
いっぽう国立天文台サイトで計算すると、画像が撮影された7:00にこの付近の太陽高度は9.89°、方位角は95.41°(真東から5°あまり南側に向いた方向)でした。方位のずれは無視して単純に雲の高さを計算すると、58.42km×tan(9.89°)=10.18km。およそ10kmです。一般に知られている台風の構造図(台風の厚みは10kmから15km程度)から大きく外れてはいませんね。秋分近くの朝なのでとても考えやすいでしょう。高校地学の設問などで、月面クレーターの高さを影の観察で求める例題がありますが、似たような考え方ですね。

ここでは簡単にするため「地面は水平、影は真西に伸びてる」等の条件としましたが、もっと精度を上げるには以下を考慮したほうがいいでしょう。

  • 地球は曲面である。また台風は衛星直下にいない。
  • 影が伸びる方位が真西ではない。
  • 影を測るとき、東側(右画像・矢印の右端)は台風自身に隠されているため、本来の「雲の縁の真下」はもう少し東(右)になる。(記事末の[参考]を参照。)
  • 影は下層の雲に投影されているので、ここで算出されるのは海抜高度ではなく、下層の雲からの高さである。
  • 影の測定ポイントを多数にして、平均値の精度を上げる。(雲の縁がキッチリしていないため。)

がんばれる方はぜひチャレンジしてくださいね。

説明図
[参考]影を使った台風の高さ(厚み)の計算を極端に描くと左図の様になるでしょう。今回は気象衛星が台風の真上にいませんので、衛星画像に写る台風の影は白矢印の範囲です。この長さから簡単な三角関数で求まる高さはAです。(本当に求めたいのはB。)実際の衛星は地表からとても遠いのでAはBにかなり近いのですが、やはりBそのものを求めてみたいですね。いろいろ知恵を使ってみましょう。なお台風最上部の雲も平坦には見えないので、特に中心付近と端とでは高さが若干違うのではないかと思われます。