北極星は動くんだよ (ユーティリティ:「北極星時計」関連記事)1970/02/07

北極星と天の北極
小学生の頃に「北極星は天の北の中心から少しだけずれている」という話を何かで読みました。だから正確な旅の指針に適さない、と。じゃあどうすればいいんだろうと思いましたね。

右の図は天文ソフト「ステラナビゲーター」で天の北極を描いたもの。天の北極とは、言い換えれば地球が回る軸の中心の延長方向です。北極星はお月さま一個分よりずれたところにあるようです。

北極星の動き(実写)
実際に北極星を固定撮影すると、小さい丸を描きます。左の画像は2014年12月22日の晩から23日の明け方、冬至の夜が長いことを利用して12時間半の日周を撮影したものです。(ブログ記事はこちら。)右上の画像とほぼ同じ範囲にトリミングしてあります。(撮影の最初のコマに、日周画像を30%比較明合成しました。)こうしてみると、回転の中心(天の北極)には星がなく、北極星はずれたところにあることがよく分かります。

歳差
地球はコマのように一日一回まわって、しかもその軸はふらついています。軸の大きなふらつきは「歳差」といって、約26000年かけて一周するような動きとのこと。よく右図のように描かれますが、実際はこんなきれいな円ではなく、一周しても元に戻りません。しかも将来のことなので確かめようがないのです。

今の北極星は西暦2102年にもっとも天の北極に近づく計算ですが、千年、二千年と経てば遠ざかってしまいます。一万年も経てばもはや「北極星」と呼べないでしょう。過去にさかのぼっても同じことで、数千年前の古代エジプトや中国の星文化を調べるとき、天の北極や赤道、黄道が今とは違うことを前提に考えないといけません。

冒頭で現代の北極星は天の北極からずれてると言いましたが、ずれは一定値ではなく「歳差で常時変わる」ことになります。赤道儀+遠征で天体写真撮影や観測をする人にはこれが大問題。どうやって正確に北極位置を合わせるかが、赤道儀を設置する最大の山場ですから。主流は極軸望遠鏡を使い、北極星を頼りに「相対的に」天の北極を見つけるというもの。でもその北極星が年々動いてしまっているんです。

もちろん、ほとんどの極軸望遠鏡に歳差補正の仕組みが内蔵されています。北極星のずれがパターンに描き込んであったり、左図の様に補助円が幾つも描いてありますね。使用期間を大幅に外れて何十年も経てば使えなくなりますが、まあ50年、100年と使う道具じゃないので、十分といえば十分です。当サイトで紹介した「北極星時計」も、自分がもう使わないような未来までは想定していません。

年周視差
さて、ここから本題。「極軸望遠鏡は歳差補正の仕組みがある」と書きましたが、北極星のずれは「歳差」だけでいいのでしょうか?北極星までの距離は400光年あまりの有限(もっと近いというデータも)なので、右図のように一年に一回見える方向が回る「年周視差」があるはず。これは歳差と似て非なるもの。あるいは歳差とは別に、地軸の細かなふらつき「章動」もあります。一日一回の自転だけでも北極位置がふらつくのですから、これを極軸望遠鏡で補正するって無理なのでは……そんな疑問が湧いてきませんか?

そもそも北極星は「天の北極」に対して時々刻々どこに見えるのか……そこで、天文計算で想定されている星々の座標、「平均位置」「真位置」「視位置」を北極星について調べてみました。「平均位置」とは恒星そのものの移動(固有運動)と歳差を足し合わせたもの。たぶん多くのみなさんが頭に描く北極星の移動イメージでしょう。私たちが生涯を送る百年程度では、天の北極に対してほぼ直線移動に見えます。極軸望遠鏡のパターンはこれに従って描かれてる訳です。

でも実際の空ではもっと複雑です。「真位置」は章動も考慮した位置で、日々(本当は時々刻々)変わります。「視位置」は実際の見え方にもっとも近いと思われ、固有運動、歳差、章動、年周視差、過去の光が届く光行差の影響なども含まれます。この3つの量を2015年初日から2017年末日(時刻は0時UT=9時JST固定)まで3年分毎日計算し、下図にしてみました。一番最初の図の、北極星近くだけを切り取ったようなごく狭い範囲です。(今回は一日内の時間変動は省きました。)

北極星の位置変化
黄色が平均位置、緑が真位置、赤は視位置です。細かく見てもらえるよう、大きな画像を用意しました。平均位置、真位置は上から下へ、また視位置は大きく円弧を描きながら全体として上から下へ向かっています。真位置もうねっているだけじゃなく小刻みな波の集合になってますし、視位置だって大きな曲線が細かな波を伴っていますね。くり返しますが、これは「天の北極に対して北極星がいつどこにいるか」の図。あまりに複雑で「北極星を使った正確な天の北極探しは、本質的に無理」っぽいのです。

図に赤緯赤経の目盛りが青線で描いてありますが、赤緯のひと目盛りは18"に相当します。視位置の一年分が描く「丸」は木星の地球での視直径程度といったところ。これを大きいと感じるか小さいかはみなさんの求める精度によるでしょう。もちろん一般的な極軸望遠鏡で分解できる大きさではないし、アマチュア機の短時間ガイド撮影程度なら無視しても全く問題ありません。

天の北極
上の図はあくまでひとつの計算モデルに沿ったシミュレーション。現実はさらに細かな地軸・自転の変動や、自転に関係ないけど見かけ位置に変化をもたらす要因、例えば大気の揺らぎや大気差などによっても北極星は常に動きます。実際の位置は、その時代・その場所に行かなければ誰にも分からない、まさに天気のような性質を持っていますね。

北極星の動きは「北極星時計」を作るにあたって検証してみたかった点でした。このお話しは「北極星時計」画面の1ドットに満たない範囲で起こっていることですから、全然気にしないでください。でも頭の片隅に留めていただくと、なんだか北極星や地球の日周との向き合い方が変わる気がしませんか?

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