最近の土星の環はなぜ暗い? ― 2025/07/02
最近明け方に見える土星の環がかなり暗いのですが、少し誤解があるようなので、でしゃばりながら説明しておきます。余計なおせっかいでしたら申し訳ありません。いや、私も詳しく説明できるほど理由を知ってる訳では無いけれど、「環の裏(太陽が当たっていない側)から見ているので暗い」とのご意見が1日の天リフ作業配信などで聞かれ、いや、違うと思いました。それをまず確認しましょう。
確かに背面照射の時期もありましたが、後述のように今は違います。5月中旬以降、現在まで太陽が当たっている側から見ている位置関係です。(※背面照射の時期は、地球からの可視光域観測ではほぼ見えないだろうと思われます。→2025年4月24日記事参照。)
混乱しないよう、左上図のように場合分けしておきましょう。地球からの視線が青矢印、太陽からの光線が赤矢印。環の北面を見ている(E1)、南面を照らしている(S3)という具合に、E1、E2、E3、S1、S2、S3が考えられますね。
土星と地球・太陽の位置関係は約30年周期で元の状態に戻るのはご存知の通り。記事末A図はお馴染み「環の傾き」の時間経過です。環の傾斜角とは、地球や太陽から土星を観た時の中心緯度と全く同じ意味なので(右下図参照)、どちらの表現を使っても構いません。なおグラフでの緯度は惑心緯度ではなく惑理緯度を使います。
赤線は太陽から見た中心緯度です。この曲線が約30年周期ということで、2017年ごろの山頂から2032年ごろの谷底までは半分の15年。いっぽう地球から土星中心を見るとおよそ1年周期で小さく振動しながら、全体として赤線を辿ってゆきます。赤線と青線のズレは山頂と谷底で小さく、中間では大きくなります。でも高々プラスマイナス3.4°しか違いません。土星を被写体、地球をカメラ、太陽を照明に例えるなら、「照明・被写体・カメラ」のなす角は一番大きな時でも3.4°ということです。ふつうの撮影だとこれくらいのズレなら「順光」って言いますよね。
ところが環の消失時期の場合はちょっと複雑です。A図の中央、緑矩形を拡大したのがB図。緯度0°を赤線青線が横切っています。最初の場合分けを思い出しましょう。赤線が0°と交差する点がS2。それより上(プラス側)にあるならS1、マイナス側ならS3ですね。青線についてE1、E2、E3も同様です。ということは、E2より前の時期は「E1かつS1」だから照射面(環の北面)を見ていることになります。同様にS2より後の時期は「E3かつS3」だから、やはり照射面(環の南面)を見ているのです。
E2とS2に挟まれた期間(薄黄色のところ)だけは照らされる面と反対を見ている訳ですが、前述のようにカメラと照明の向きは3°も離れていないのです。でも「そのわずかな角度の隙間に『環』という衝立があり、完全に仕切られている」という決定的な違いがあります。太陽に照らされた網戸を、屋外から見るか、室内から見るか、というというくらい状況が異なると思われます。「逆光」とか「背面照射」と聞くと視線と光線とが正反対のイメージがありますが、E2とS2に挟まれた期間も背面照射と言えるでしょう。少なくとも順光ではないと考えられます。
ということで、今現在は「E3かつS3」なので、環が暗いのは「裏から云々」という理由ではなく別の原因らしい、というところまで辿り着きました。
実は「太陽から見た環の傾斜」は、裏返すと「環から見た太陽高度」に他なりません。地平線ならぬ「環平線」を照らす太陽は、グラフから読み取れる通り、高度が1°しかないのです。地球だって日の出直後の地表は暗いですね。(※明るく見えるのは青空があるからです。)大気がなくて薄明も無かったら、低空の大気減光が皆無としても真っ暗に近いでしょう。
左は衝効果の模擬実験で撮影したもので、砂地に様々な角度で照明を当てて撮影した画像(真ん中の列は左列を拡大したもの、右列は中列を白黒化)。被写体と照明の距離は変えてないので、砂地へ到達する光は変わっていません。でもザラついた対象に当たる光は多くの影を生み、また他の粒への照射を阻害します。だから浅い角度になるほど目に見えて暗くなります。1点、現実の土星と異なるとすれば、撮影するカメラを照明の近くに置いてないこと。照明近くにカメラを置いて撮ったら状況は変わると思われます。可能な方は実験してみてください。また、実物の環は三次元的な分布ですから、ちょっとした障害物(別の粒子)が太陽光を邪魔したり、地球からの視線を邪魔するはずで、平らに置いた砂地では実験不可能かも知れません。水中(?)に細かい砂を浮遊させ、沈下しないよう常に撹拌する状況を作らないとダメかも。
月面Xの出現やRay現象を観察・撮影したことがある方は分かると思いますが、空気がない月面でも光の差し始めは眼視じゃとても無理、撮影+強調してやっと気付ける程度の明るさです。現在の土星の環でも照射角の浅さが暗さの原因かも知れないと推測できるでしょう。
確かに背面照射の時期もありましたが、後述のように今は違います。5月中旬以降、現在まで太陽が当たっている側から見ている位置関係です。(※背面照射の時期は、地球からの可視光域観測ではほぼ見えないだろうと思われます。→2025年4月24日記事参照。)
混乱しないよう、左上図のように場合分けしておきましょう。地球からの視線が青矢印、太陽からの光線が赤矢印。環の北面を見ている(E1)、南面を照らしている(S3)という具合に、E1、E2、E3、S1、S2、S3が考えられますね。
土星と地球・太陽の位置関係は約30年周期で元の状態に戻るのはご存知の通り。記事末A図はお馴染み「環の傾き」の時間経過です。環の傾斜角とは、地球や太陽から土星を観た時の中心緯度と全く同じ意味なので(右下図参照)、どちらの表現を使っても構いません。なおグラフでの緯度は惑心緯度ではなく惑理緯度を使います。
赤線は太陽から見た中心緯度です。この曲線が約30年周期ということで、2017年ごろの山頂から2032年ごろの谷底までは半分の15年。いっぽう地球から土星中心を見るとおよそ1年周期で小さく振動しながら、全体として赤線を辿ってゆきます。赤線と青線のズレは山頂と谷底で小さく、中間では大きくなります。でも高々プラスマイナス3.4°しか違いません。土星を被写体、地球をカメラ、太陽を照明に例えるなら、「照明・被写体・カメラ」のなす角は一番大きな時でも3.4°ということです。ふつうの撮影だとこれくらいのズレなら「順光」って言いますよね。
ところが環の消失時期の場合はちょっと複雑です。A図の中央、緑矩形を拡大したのがB図。緯度0°を赤線青線が横切っています。最初の場合分けを思い出しましょう。赤線が0°と交差する点がS2。それより上(プラス側)にあるならS1、マイナス側ならS3ですね。青線についてE1、E2、E3も同様です。ということは、E2より前の時期は「E1かつS1」だから照射面(環の北面)を見ていることになります。同様にS2より後の時期は「E3かつS3」だから、やはり照射面(環の南面)を見ているのです。
E2とS2に挟まれた期間(薄黄色のところ)だけは照らされる面と反対を見ている訳ですが、前述のようにカメラと照明の向きは3°も離れていないのです。でも「そのわずかな角度の隙間に『環』という衝立があり、完全に仕切られている」という決定的な違いがあります。太陽に照らされた網戸を、屋外から見るか、室内から見るか、というというくらい状況が異なると思われます。「逆光」とか「背面照射」と聞くと視線と光線とが正反対のイメージがありますが、E2とS2に挟まれた期間も背面照射と言えるでしょう。少なくとも順光ではないと考えられます。
ということで、今現在は「E3かつS3」なので、環が暗いのは「裏から云々」という理由ではなく別の原因らしい、というところまで辿り着きました。
実は「太陽から見た環の傾斜」は、裏返すと「環から見た太陽高度」に他なりません。地平線ならぬ「環平線」を照らす太陽は、グラフから読み取れる通り、高度が1°しかないのです。地球だって日の出直後の地表は暗いですね。(※明るく見えるのは青空があるからです。)大気がなくて薄明も無かったら、低空の大気減光が皆無としても真っ暗に近いでしょう。
左は衝効果の模擬実験で撮影したもので、砂地に様々な角度で照明を当てて撮影した画像(真ん中の列は左列を拡大したもの、右列は中列を白黒化)。被写体と照明の距離は変えてないので、砂地へ到達する光は変わっていません。でもザラついた対象に当たる光は多くの影を生み、また他の粒への照射を阻害します。だから浅い角度になるほど目に見えて暗くなります。1点、現実の土星と異なるとすれば、撮影するカメラを照明の近くに置いてないこと。照明近くにカメラを置いて撮ったら状況は変わると思われます。可能な方は実験してみてください。また、実物の環は三次元的な分布ですから、ちょっとした障害物(別の粒子)が太陽光を邪魔したり、地球からの視線を邪魔するはずで、平らに置いた砂地では実験不可能かも知れません。水中(?)に細かい砂を浮遊させ、沈下しないよう常に撹拌する状況を作らないとダメかも。
月面Xの出現やRay現象を観察・撮影したことがある方は分かると思いますが、空気がない月面でも光の差し始めは眼視じゃとても無理、撮影+強調してやっと気付ける程度の明るさです。現在の土星の環でも照射角の浅さが暗さの原因かも知れないと推測できるでしょう。
今日の太陽とハロ現象 ― 2025/07/02
昨夕の雷雨は夜になってようやく落ち着きました。でも回復することなく今日を迎えました。午前中はほぼ曇り空。昼頃から断片的に晴れ間が訪れ、なんとか太陽観察できました。
左は13:20前の撮影。昨日同様細かいプラージュが散見されますが、強い活動は見られません。右リムに届いた太いダークフィラメントが立派なプロミネンスになりました。想像以上の高さでビックリ。左リムの小さなプロミネンスも賑やかですね。
ところで、昨夕の激しい雷雨のおかげで昨日が雑節の「半夏生」だったことが頭から飛んでいました。天文的には太陽黄経が100°を迎えたことになります。2024年・2025年の半夏生は7月1日。来年から2年間は7月2日です。下A画像はこの時期に咲くハンゲショウ。ドクダミの仲間です。最近、野生のハンゲショウをめっきり見かけなくなりました。ドクダミはまだ見つかるんですけどね。
昼前後にかけて、太陽の周りに断片的な内暈がかかりました(下B画像)。写り込んでるのはツバメです。淡過ぎて写真を撮らなかった一昨日を合わせると三日連続の内暈。梅雨時らしい不安定な空ですね。気象庁アメダス速報値の本日0時から15時までの集計による夏日地点数は834、真夏日地点数は614、猛暑日地点数は7、国内最高気温は宮崎県加久藤ポイントの37.6度でした。じりじりと40度の壁に近づきます。
左は13:20前の撮影。昨日同様細かいプラージュが散見されますが、強い活動は見られません。右リムに届いた太いダークフィラメントが立派なプロミネンスになりました。想像以上の高さでビックリ。左リムの小さなプロミネンスも賑やかですね。
ところで、昨夕の激しい雷雨のおかげで昨日が雑節の「半夏生」だったことが頭から飛んでいました。天文的には太陽黄経が100°を迎えたことになります。2024年・2025年の半夏生は7月1日。来年から2年間は7月2日です。下A画像はこの時期に咲くハンゲショウ。ドクダミの仲間です。最近、野生のハンゲショウをめっきり見かけなくなりました。ドクダミはまだ見つかるんですけどね。
昼前後にかけて、太陽の周りに断片的な内暈がかかりました(下B画像)。写り込んでるのはツバメです。淡過ぎて写真を撮らなかった一昨日を合わせると三日連続の内暈。梅雨時らしい不安定な空ですね。気象庁アメダス速報値の本日0時から15時までの集計による夏日地点数は834、真夏日地点数は614、猛暑日地点数は7、国内最高気温は宮崎県加久藤ポイントの37.6度でした。じりじりと40度の壁に近づきます。