環が見えない土星と外惑星の見かけの扁平 ― 2025/05/06
太陽が土星の環の平面に重なる日まであとわずか。一昨日4日時点の天気予報では、それまでに土星が拝めそうな晴天が5日明け方しかありませんでした。前夜に雷雨があって空気が湿り、夜半にはもう結露がすごいことになっていましたが、四の五の言わず準備。
案の定、一応晴れていても上空はかき乱されて、土星が隣家から出てきたときはアメーバのよう。しかもひっきりなしに薄雲に覆われ減光してしまいます。とにかく観察と撮影をしまくりました。
スタックも悪戦苦闘した割に像が良くありません。それでも左画像の通り、何とか環の影がうっすら写っている状態を確認できました。ほっと一安心。7日を過ぎてもしばらくは環が暗いはずですから、梅雨までは追いかけてみようと思います。
ところで、昨日の天リフさんのピックアップ作業配信で惑星の扁平率のことが取り上げられていました。左上のような環の無い土星と、木星とを輪郭だけで見分けられるかと言った主旨だろうと理解しました。扁平率の数値は気になりますが、実際の見た目は言うほど簡単じゃありません。気になったので以下に説明を試みます。
「扁平率」を簡単に言うなら「惑星を回転楕円体と見なしたとき、赤道方向と極方向を比べたときの潰れ具合」です。ゼロなら完全な球、0.5なら赤道:極が2:1のハンバーガーみたいな楕円体、1なら極方向の半径がゼロになってしまうので、扁平率は必ず1未満です。また比率だから通常はマイナス値を想定しませんが、惑星の場合は測定方向が赤道と極に決められているので、仮に極方向が赤道より長ければマイナス値も認められます。(自転軸が測定できた小惑星などの中にはかなり歪な形もあるので、必ずしも極半径は赤道半径より短いと短絡的に考えないほうが良いでしょう。中には回転楕円体にならないものもありますが。)
さて、金星や水星は満ち欠けをすることで知られていますが、外惑星もまた太陽や地球との位置関係で影ができます。眼視でも撮影でも明確に分かります。右画像は2024年11月26日に撮影した火星。自転軸を上下方向にしていますが、かなり欠けていて縦長に見えませんか?そうなんです、衝以外の時期は、外惑星も自身の影によって痩せてしまう「見た目の扁平率の変化」がバカになりません。形を比較する上で、影の存在は避けて通れないのです。
通常は惑星の扁平率と言ったら実際の赤道半径と極半径を元に計算したもので、時間とともに変わったりしません。でも自身の影で見えない部分を無いものとして、見えているところだけ赤道を再設定した上で楕円体近似すれば、「見た目の扁平率」が定義できるでしょう。では、どれくらい変化するのか火星・木星・土星について、2025年始めから2026年末まで計算したのが記事下のA・B・C図。緑線は通常の(不偏な)扁平率、青線は見た目の扁平率。他の惑星とつぶれ順位が入れ替わるほどではないけれど、結構変わります。(※影は南北にも振れますから極方向の視半径にも少し影響しますが、ここでは赤道の視半径に影響する部分のみ計算しました。)
厄介なのは撮影や画像処理の条件次第で明暗境界の出方が変わってしまうこと。影側の縁は急にカットオフされるのではなく、だんだん暗くなっています。焼き込んでしまえば影が増え、逆に輝度を上げれば隠れた部分が出てきます。観測方法次第で変わってしまうのは良くありません。火星の模様や年々ドリフトする木星・大赤斑の経度を測定する観測者が世界中でがんばっていますが、これも影の分量を考慮しないと本当に中央子午線を通過したかどうか見誤るため、なかなか厄介。
左図は今回計算した数値を元に、三つの外惑星の見かけの扁平率変化幅を図解したもの。極半径を揃えてありますから純粋に潰れ具合を比較できます。火星は極端なので、白で描いた正円より内側の縦長になる時期が多く存在します。いっぽう木星と土星は扁平率の数値から受ける印象ほど差が無いことも分かるでしょう。観測暦ウン十年といったベテランならともかく、素人が小さな望遠鏡で潰れの違いを感じ取れるほどではないように思います。影で減光したところも、プラネタリウムソフトが示すよりずっと幅が狭く感じることもあります。おまけに日本じゃそれなりに条件が良い空でもあらゆる方向に数秒角以上の揺らぎがありますから、木星でも一時的に極が長く見えたりすることも。昨日明け方の土星など、まさにぐにゃぐにゃでした。ですから、作図的差異を感じ取れるほど精度良く見えることは稀でしょう。何はともあれ、数字に躍らされず、綺麗な画像にもだまされず、実物をしっかり眼で観察して脳裏に焼き付けてくださいませ。
案の定、一応晴れていても上空はかき乱されて、土星が隣家から出てきたときはアメーバのよう。しかもひっきりなしに薄雲に覆われ減光してしまいます。とにかく観察と撮影をしまくりました。
スタックも悪戦苦闘した割に像が良くありません。それでも左画像の通り、何とか環の影がうっすら写っている状態を確認できました。ほっと一安心。7日を過ぎてもしばらくは環が暗いはずですから、梅雨までは追いかけてみようと思います。
ところで、昨日の天リフさんのピックアップ作業配信で惑星の扁平率のことが取り上げられていました。左上のような環の無い土星と、木星とを輪郭だけで見分けられるかと言った主旨だろうと理解しました。扁平率の数値は気になりますが、実際の見た目は言うほど簡単じゃありません。気になったので以下に説明を試みます。
「扁平率」を簡単に言うなら「惑星を回転楕円体と見なしたとき、赤道方向と極方向を比べたときの潰れ具合」です。ゼロなら完全な球、0.5なら赤道:極が2:1のハンバーガーみたいな楕円体、1なら極方向の半径がゼロになってしまうので、扁平率は必ず1未満です。また比率だから通常はマイナス値を想定しませんが、惑星の場合は測定方向が赤道と極に決められているので、仮に極方向が赤道より長ければマイナス値も認められます。(自転軸が測定できた小惑星などの中にはかなり歪な形もあるので、必ずしも極半径は赤道半径より短いと短絡的に考えないほうが良いでしょう。中には回転楕円体にならないものもありますが。)
さて、金星や水星は満ち欠けをすることで知られていますが、外惑星もまた太陽や地球との位置関係で影ができます。眼視でも撮影でも明確に分かります。右画像は2024年11月26日に撮影した火星。自転軸を上下方向にしていますが、かなり欠けていて縦長に見えませんか?そうなんです、衝以外の時期は、外惑星も自身の影によって痩せてしまう「見た目の扁平率の変化」がバカになりません。形を比較する上で、影の存在は避けて通れないのです。
通常は惑星の扁平率と言ったら実際の赤道半径と極半径を元に計算したもので、時間とともに変わったりしません。でも自身の影で見えない部分を無いものとして、見えているところだけ赤道を再設定した上で楕円体近似すれば、「見た目の扁平率」が定義できるでしょう。では、どれくらい変化するのか火星・木星・土星について、2025年始めから2026年末まで計算したのが記事下のA・B・C図。緑線は通常の(不偏な)扁平率、青線は見た目の扁平率。他の惑星とつぶれ順位が入れ替わるほどではないけれど、結構変わります。(※影は南北にも振れますから極方向の視半径にも少し影響しますが、ここでは赤道の視半径に影響する部分のみ計算しました。)
厄介なのは撮影や画像処理の条件次第で明暗境界の出方が変わってしまうこと。影側の縁は急にカットオフされるのではなく、だんだん暗くなっています。焼き込んでしまえば影が増え、逆に輝度を上げれば隠れた部分が出てきます。観測方法次第で変わってしまうのは良くありません。火星の模様や年々ドリフトする木星・大赤斑の経度を測定する観測者が世界中でがんばっていますが、これも影の分量を考慮しないと本当に中央子午線を通過したかどうか見誤るため、なかなか厄介。
左図は今回計算した数値を元に、三つの外惑星の見かけの扁平率変化幅を図解したもの。極半径を揃えてありますから純粋に潰れ具合を比較できます。火星は極端なので、白で描いた正円より内側の縦長になる時期が多く存在します。いっぽう木星と土星は扁平率の数値から受ける印象ほど差が無いことも分かるでしょう。観測暦ウン十年といったベテランならともかく、素人が小さな望遠鏡で潰れの違いを感じ取れるほどではないように思います。影で減光したところも、プラネタリウムソフトが示すよりずっと幅が狭く感じることもあります。おまけに日本じゃそれなりに条件が良い空でもあらゆる方向に数秒角以上の揺らぎがありますから、木星でも一時的に極が長く見えたりすることも。昨日明け方の土星など、まさにぐにゃぐにゃでした。ですから、作図的差異を感じ取れるほど精度良く見えることは稀でしょう。何はともあれ、数字に躍らされず、綺麗な画像にもだまされず、実物をしっかり眼で観察して脳裏に焼き付けてくださいませ。