ここ数日のお月様が最高だったワケ ― 2025/05/03
先月末から今月頭にかけて観察した上弦前の月は、いつもより高高度だったためかシーイング良く楽しめました。これは水平月シーズンならではのメリットです。
天文ファンならば、春の宵に見える細い月は「杯のように寝ている」、秋の宵は「帆掛け船の帆のように立っている」ということをご存知でしょう。秋の宵ならばそれぞれ逆になります。手抜きで簡単に説明するなら『概ね黄道に沿って日々移動する月は、黄道がそそり立つ春に天頂へ向かうごとく急上昇するため』と言えるでしょう。(※ここで言う上昇は公転移動のことで、日周で沈む動きと分けてお考えください。)
左上図は先月4月28日から6日間、日没時の月位置と天の赤道・黄道との位置関係を示したもの(Stellariumによる/日本経緯度原点基準)。月は実際の6倍の大きさにしてあります。地面に沈む太陽に対して急角度で公転移動する月は水平月のシーズンであることも意味していて、同時期に細い月が高度的に有利なことと密接に結びつきます。
さて、この理屈だと春の月は毎年水平月で好シーイング…ということになりそうですが、実際は違います。右下図は9年後の2034年4月19日からの6日間、前出同様に描いたもの。正直なところ「えっ、こんなに違うの!?」と思いました。ほぼ同じ時期なのに、月の公転移動が「黄道の南側」になっていて、高度上昇的に損をしています。なぜこんなことが起こるのでしょうか?
月が天球を移動するルートは「白道」と呼ばれます。赤道や黄道と同じ感覚で捉えると短期的には変わらないもののように思えますが、さにあらず。実は地球を一周する間にも変化があるほど優柔不断な道なのです。
分解して考えると、白道の立ち角(地平面とのなす角)とは「黄道の立ち角」に「黄道に対する白道の傾斜」が上乗せされたものです。このうち黄道の立ち角(→2024年9月29日記事参照)は下A図に示したように100年ぶん計算してもグラフはほぼ重なり、変化が極めて微小です。いっぽう、黄道に対して約5°の傾斜を持つ白道面は、この傾斜角ひとつ取っても下B図のように短周期での変化があります。
ただ、この軌道傾斜グラフの振幅程度では宵空の月が黄道の北を通ったり南に向かったりする大きな変化は生まないでしょう。そもそも白道は黄道に近いから、黄道位置を白道の代理説明に使う天文解説者は山ほどいらっしゃいますからね。ではいったいどんな理由が大きな変化を生む?
答えは、月が黄道を横切る“タイミング”です。良く耳にする言葉を使うと「昇交点」「降交点」の位置がどんどん変わるということ。白道と黄道の交差点のことですね。これを直感的に分かるよう描くのはなかなか難しいのですが、下C・D図を用意しました。2025年と2034年それぞれの月位置(黄道座標系)と新月のタイミング(赤い数字)を図化したものです。黄緯0°の横線は黄道自身。サインカーブのような薄茶の曲線一本一本が1朔望月の月位置を示し、プラスマイナス5°余りの間を行き来していることがB図の軌道傾斜を反映しています。
2025年は4月→5月→6月の新月期に黄緯が最も高くなる=黄道の北側に最も離れて公転することが分かります。いっぽう2034年の場合、4月→5月→6月の新月期は逆に黄緯が下がっており、黄道の南に離れたところを公転すると分かるでしょう。新月後の数日間に見える極細月は1°でも高いほうが有利なので、日本では今春のように黄道がそそり立ち、かつ白道が黄道の北へ大きく離れる時期を狙ったほうが良いのです。
黄緯0°の線を下から上に横切るときが昇交点通過、上から下へ横切るときが降交点通過です。昇交点・降交点通過日は年々どんどんシフトし、約18.6年経つと概ね元に戻ります。この半分、9年余りの周期で状況が一変するということを、今回の図やグラフで示したかったのでした。この周期は水平月の好機や細い月の見つけ易さに影響するだけでなく、日食のタイミングが年々ずれたりするなど幅広く天文現象に影響しています。
天文ファンならば、春の宵に見える細い月は「杯のように寝ている」、秋の宵は「帆掛け船の帆のように立っている」ということをご存知でしょう。秋の宵ならばそれぞれ逆になります。手抜きで簡単に説明するなら『概ね黄道に沿って日々移動する月は、黄道がそそり立つ春に天頂へ向かうごとく急上昇するため』と言えるでしょう。(※ここで言う上昇は公転移動のことで、日周で沈む動きと分けてお考えください。)
左上図は先月4月28日から6日間、日没時の月位置と天の赤道・黄道との位置関係を示したもの(Stellariumによる/日本経緯度原点基準)。月は実際の6倍の大きさにしてあります。地面に沈む太陽に対して急角度で公転移動する月は水平月のシーズンであることも意味していて、同時期に細い月が高度的に有利なことと密接に結びつきます。
さて、この理屈だと春の月は毎年水平月で好シーイング…ということになりそうですが、実際は違います。右下図は9年後の2034年4月19日からの6日間、前出同様に描いたもの。正直なところ「えっ、こんなに違うの!?」と思いました。ほぼ同じ時期なのに、月の公転移動が「黄道の南側」になっていて、高度上昇的に損をしています。なぜこんなことが起こるのでしょうか?
月が天球を移動するルートは「白道」と呼ばれます。赤道や黄道と同じ感覚で捉えると短期的には変わらないもののように思えますが、さにあらず。実は地球を一周する間にも変化があるほど優柔不断な道なのです。
分解して考えると、白道の立ち角(地平面とのなす角)とは「黄道の立ち角」に「黄道に対する白道の傾斜」が上乗せされたものです。このうち黄道の立ち角(→2024年9月29日記事参照)は下A図に示したように100年ぶん計算してもグラフはほぼ重なり、変化が極めて微小です。いっぽう、黄道に対して約5°の傾斜を持つ白道面は、この傾斜角ひとつ取っても下B図のように短周期での変化があります。
ただ、この軌道傾斜グラフの振幅程度では宵空の月が黄道の北を通ったり南に向かったりする大きな変化は生まないでしょう。そもそも白道は黄道に近いから、黄道位置を白道の代理説明に使う天文解説者は山ほどいらっしゃいますからね。ではいったいどんな理由が大きな変化を生む?
答えは、月が黄道を横切る“タイミング”です。良く耳にする言葉を使うと「昇交点」「降交点」の位置がどんどん変わるということ。白道と黄道の交差点のことですね。これを直感的に分かるよう描くのはなかなか難しいのですが、下C・D図を用意しました。2025年と2034年それぞれの月位置(黄道座標系)と新月のタイミング(赤い数字)を図化したものです。黄緯0°の横線は黄道自身。サインカーブのような薄茶の曲線一本一本が1朔望月の月位置を示し、プラスマイナス5°余りの間を行き来していることがB図の軌道傾斜を反映しています。
2025年は4月→5月→6月の新月期に黄緯が最も高くなる=黄道の北側に最も離れて公転することが分かります。いっぽう2034年の場合、4月→5月→6月の新月期は逆に黄緯が下がっており、黄道の南に離れたところを公転すると分かるでしょう。新月後の数日間に見える極細月は1°でも高いほうが有利なので、日本では今春のように黄道がそそり立ち、かつ白道が黄道の北へ大きく離れる時期を狙ったほうが良いのです。
黄緯0°の線を下から上に横切るときが昇交点通過、上から下へ横切るときが降交点通過です。昇交点・降交点通過日は年々どんどんシフトし、約18.6年経つと概ね元に戻ります。この半分、9年余りの周期で状況が一変するということを、今回の図やグラフで示したかったのでした。この周期は水平月の好機や細い月の見つけ易さに影響するだけでなく、日食のタイミングが年々ずれたりするなど幅広く天文現象に影響しています。