欠けた満月を観る2022/02/17

20220217_17921月
昨夜は夜半近くまで雲が多かったものの、日付が17日になって満月を迎えるころには快晴夜になりました。後に述べますが、今回の満月は地球影中心から大きく離れて「欠け」が目立つ特別な満月。大喜びで観察しました。

左は満月瞬時の約1.5時間前の南中過ぎに撮影したもので、太陽黄経差は約179.21°、撮影高度は約70.21°、月齢15.40。

20220217_18009月
満月瞬時にも撮影したのですが、再び湧き出した雲が接近してシーイングが随分乱れてしまいました。ですので欠け具合がほとんど同じこちらの画像を扉に掲載した次第。右に満月瞬時の画像も公開しておきますが、以下は左画像を使って説明します。

ご覧いただくと南極側(画像下側)が欠けているとすぐ分かりますね。普段から月の東西南北や模様配置を気にしない方は、十中八九これは満月じゃないと答えるでしょう。私が満月でも欠けていると気がついたのは望遠鏡を使い始めた中学生の頃でしたが、当時は理由もわからず、そんなものかと追求しませんでした。

20220217_月の南極域拡大
雲に阻まれて拡大撮影ができなかったため、左上画像の原画等倍切り出しで南極付近をご覧ください(右画像)。当ブログでも度々紹介しているスコットやアムンゼンといった南極探検家たちが名を連ねています。また「シューメーカー・レビー彗星」などでも有名なユージン・シューメーカーのクレーターも南極点近く。そしてほぼ南極点に接するクレーターもまた探検家のシャクルトン。

けっこう上のほうまで影のあるクレーターが確認できますが、驚いたことに計算上の明暗境界線はシューメーカー・クレーターより奥(外側)なのです。明暗境界を越えて光ってるのは地形標高が高いから。関東平野に日がさす前に富士山頂が日の出を迎えるのと一緒です。また、明暗境界より手前の地形に影が見えるのも満月の原理を考えれば不思議ですが、これは太陽光と視線は少しずれていると解釈できます。加えて、地形が自身の影を隠すほど高くない限り見えてしまうという絶妙の位置関係も効いているでしょう。これは天文知人の中川昇さんのブログ・2020年10月13日記事内で近内令一さんが火星のオリンポス山の影が見える理由について説明されていたことに極めて近い状況と思われます。

月相図
満月なのにどうして欠けてしまうか分からなかった自分も大人になって理解が進みました。簡単ですが記しておきます。多くの方の頭には小中学校で習った左のような月の満ち欠け説明図が記憶されているでしょう。専門的に見れば突っ込みどころがたくさんあるけれど、こどもならこの程度の理解で良いと放置され、修正されないまま歳をとってしまうんですね。

あらためて考えてください。この軌道が描かれた面は何を模式化したものでしょうか?月相の順から考えて地球北極側から南を見下ろして描かれたものと分かりますが…。そう、月の軌道が乗っているのだから紛れもなく白道面なのです。黄道面でも赤道面でもありません。しれっと太陽がこの平面上にあって月や地球を照らしているかのように描かれてますが、通常の太陽がこの平面にある保証はありません。(1朔望月中に2回横切るだけです。)しかしながら、いわゆる「月の満ち欠け」は黄道座標系に沿って定義されています。白道面は黄道面に対しておよそ5°傾いていますが、このずれが満ち欠けに与える影響は小さいと見なし、太陽と月の黄経差がどれくらいかだけで満ち欠けを決めるのです。この定義のみ考えれば左上図は黄道面とも取れます。そして黄道面図とするなら、月のほうが図面から上下にはみ出ることになるでしょう。

月の位置分布
満月が欠ける現象はこの「無視してしまった黄緯のずれ」が主たる原因です。ひとまずどれくらいずれているか可視化してみましょう。右図は月が空のどこにいるのか、一日一回0:00JSTに黄道座標へプロットしたもの。1年間、10年間、100年間の3種類作りました。今年1年分の図では黄道に対して約5°傾いた月軌道(白道)がよく分かるでしょう。10年間や100年間の図では、月軌道が年々ずれていくことも分かりますね。最終的にはプラスマイナス約5°の黄緯幅をもつ帯状の分布になります。公転によって月が西から東へ移動する(図では黄経が0°から360°の方向へ動く)のに伴って見えるのが「理科で習った」左右(東西)の満ち欠け変化なのですが、厳密には上下(南北)方向の変化もひっそり合成されている、というわけでした。

ここで考えるべきは、毎月の満月期の黄緯がどれくらいかということ。時々月食が起きますが、月食は地球影内に月が入ることで起こります。そして地球影中心は必ず黄道上にあります。したがって満月でも黄緯の大小変化があるはずですね。更に注意深く吟味すると、地心基準で計算した結果と観測者を基準にした場合で見え方が変わることにも気付くでしょう。月は近い天体ですからね。日本は北半球にあるため、月が黄道より南に下がった場合のほうが奥(月の裏側)まで見易くなり、結果として北極側の欠けのほうが少し大きくなります。

1朔望月の間に北と南それぞれ最大限にずれる時期があり、この近くで満月になると欠けが目立ちます。一年間満月を追いかければ、(晴れてくれれば)一回ずつ北極側と南極側が大きく欠けた様子を捉えられるでしょう。(※10年ほど前アストロアーツの天体写真ギャラリーに投稿した画像がここにあります。)今月は黄緯がプラス側(北側)に大きくずれたところで満月になったため、南側の欠けがよく見えたということです。反対に北側が欠けているケースは、少し前になりますが2020年11月1日記事2020年8月4日記事の画像をご覧ください。5°ぶんの南北変化が大きいか小さいか感じ方は人それぞれでしょう。平均的に一日あたり黄経差は12°あまり増えますから、5°ぶんの南極や北極の欠けは大雑把に東西の欠け半日分に匹敵するのです。私は結構大きいなぁと感じています。実際にはなかなか晴れないことや、適切な高度で満月瞬時にならない等の理由が重なり、年間の比較画像に仕上げることはかなり難しいと思われます。

欠け具合を黄緯ではなく「輝面率(輝面比)」として捉える方法も有効でしょう。今年プラスマイナス2年ぶんの黄緯変化と輝面率変化を計算したので、グラフを下に掲載します。測心位置は当ブログ基準の茨城県つくば市ですが、国内ならさほど変わりません。観察の参考にしてください。当たり前ながら輝面率グラフは黄緯グラフの半分の周期でリンクしてますね。今年は8月にも大きな黄緯が起きます。ただ満月瞬時は日本から見えません。測心基準では7月と9月の満月も同等の黄緯/輝面率になるようですから、晴れたらぜひ「満月らしくない欠けた満月」を観察してみましょう。

  • 満月瞬時の月黄緯

    満月瞬時の月黄緯
  • 満月瞬時の輝面率

    満月瞬時の輝面率


【追記】
満月の2月17日を含む2月16日から19日まで1日おきの画像が撮影できたので、南半球の陰影変化をGIF動画にしてみました。南極域に影を残したまま上弦側から下弦側へ変化する様子が見て取れるでしょう。



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