悪意なく作られるフェイクニュース/小惑星7482(1994 PC1)の地球接近 ― 2022/01/12
ネットニュースを斜め読みしていたら、CNNが「幅1キロの小惑星、来週地球に最接近」と報じてるのを見つけました。小惑星7482(1994 PC1)が1月19日6:51JSTに地球最接近するとのこと。この記事を読んで違和感を覚えましたが、みなさんはいかがでしょうか?
記事の根拠となっているデータはCNEOS(地球近傍天体研究センター)の数値ですから、一次情報を調べると間違いなく小惑星7482(1994 PC1)が該当日時に最接近するようです。日本では前日18日宵から夜半にかけてエリダヌス座からくじら座を高速移動する天体として観察可能です(左図/Stellariumによる/今日現在もカノープス北側に見えてます)。満月日ですが小惑星は10等台の予報ですから、晴れさえすれば小型望遠鏡で眼視/撮影観察可能でしょう。ぜひ狙ってみてください。
私が違和感を覚えたのは記事中程の次の部分。原文では『7482(1994PC1)が地球に衝突すると予想する人はいないが、NASAの予測によると、今後200年で最も地球に接近する小惑星となる。』と書かれています。いや、これ違うんじゃないかと思いました。
2019年5月21日の記事に、当時接近した小惑星66391(1999KW4)のことを載せました。この小惑星も1km程度の大きさで、話題になりましたね。記事内に「2000年から2030年までにおける大きな小惑星の地球接近」という表を掲載しましたが、その中にも前出の小惑星7482(1994 PC1)接近がちゃんと予測してあります。接近距離は5.15LD(LD:Lunar Distance/1LD=384400km)ですから、地球衝突の危険は無いでしょう。この部分を疑っているのではありません。
ファクトチェックしていただきたいのは「小惑星7482(1994 PC1)の今回の接近は今後200年の地球接近小惑星として一番近いかどうか」の部分。表の2022年1月19日より下を見ると5.15LDよりも小さな接近が数件見つかりますね。作表の際にCNEOSデータベースから推定直径1.0km以上という閾値を設けているため、1km以下の小さな小惑星を含めれば地球接近件数は膨大になるでしょう。CNNが1km程度以上の小惑星を暗黙前提で書いた記事だとしても、今後200年は5.15LD以下まで接近する小惑星が無いというのは言い過ぎです。
それでは『NASAの予測によると』が間違っていたのでしょうか?CNEOSはNASAの1部門ですからそれはあり得ないでしょう。そうなると記者が聞き間違って誤解したか、またはCNN本社記事が日本語になった段階での誤訳…という可能性が出てきます。
元となったであろうCNNの英語版はここにあります。該当部分を引用すると『Nobody expects 7482 (1994 PC1) to hit Earth, but it's the closest the asteroid will come for the next two centuries, according to NASA projections. 』。ここ、微妙にニュアンスが変わってますね。元記事記者が聞いたNASAの予測とは、「今後200年(に小惑星7482が度々地球最接近するタイミングの中)で、今回が一番近い」ということではないでしょうか。他の全ての小惑星ひっくるめて一番近い、ということではありません。確認のため引用すると、小惑星7482の今後の地球接近は現時点で右表のようにCNEOSから公開されています。(※CNEOSの公表距離はAU単位なので、当記事では直感的に分かりやすいLDに変換してあります。)この中では確かに今回が一番近くなります。ただし、ごく僅かながらこうしたデータは今後の精密観測によって少しずつ修正されてゆきますからご注意。
きっと誰も悪くないんでしょうけれど、こうして些細なところから誤解が生まれます。後日に記事が修正されるかも知れませんが、一度読んだ記事が修正後に再び読者の目に留まる可能性は非常に少ないと思われます。「あ、これ前に読んだから読まなくていいや」と無意識にオミットされますからね。関心が低い記事、不要不急の記事であればなおさらです。
記事の正当性、信ぴょう性は一次情報→二次情報→三次…と流れるほど低くなりますから、悪意の有無やメディアの有名無名に関わらず、必ず一次情報までたどってみよう、というお話でした。加えて、他人の間違いは気付きやすいけれど、自分の「うっかり」は気が付かないのも世の常。特に(厚意であっても)情報を右から左へそのまま流しがちな方は、それだけで被害者から加害者になり得るので要注意ですよ。
記事の根拠となっているデータはCNEOS(地球近傍天体研究センター)の数値ですから、一次情報を調べると間違いなく小惑星7482(1994 PC1)が該当日時に最接近するようです。日本では前日18日宵から夜半にかけてエリダヌス座からくじら座を高速移動する天体として観察可能です(左図/Stellariumによる/今日現在もカノープス北側に見えてます)。満月日ですが小惑星は10等台の予報ですから、晴れさえすれば小型望遠鏡で眼視/撮影観察可能でしょう。ぜひ狙ってみてください。
私が違和感を覚えたのは記事中程の次の部分。原文では『7482(1994PC1)が地球に衝突すると予想する人はいないが、NASAの予測によると、今後200年で最も地球に接近する小惑星となる。』と書かれています。いや、これ違うんじゃないかと思いました。
【小惑星7482の地球接近・2022-2194年】
日時(TDB) | 推定接近距離(LD) |
---|---|
2022-Jan-18 21:51 | 5.157 |
2022-Jul-03 09:51 | 172.595 |
2033-Jan-08 08:58 | 82.590 |
2043-Dec-29 12:33 | 173.159 |
2047-Feb-06 08:51 | 149.555 |
2047-Jun-26 21:30 | 168.995 |
2058-Jan-25 08:48 | 58.287 |
2058-Jun-30 12:00 | 164.111 |
2069-Jan-14 22:21 | 27.301 |
2069-Jul-05 11:37 | 180.296 |
2080-Jan-03 23:25 | 127.345 |
2083-Feb-12 20:59 | 193.174 |
2083-Jun-26 07:12 | 180.343 |
2094-Jan-29 16:18 | 92.187 |
2094-Jun-29 00:57 | 161.990 |
2105-Jan-18 12:27 | 6.056 |
2105-Jul-05 12:38 | 174.050 |
2115-Dec-31 04:42 | 168.559 |
2119-Feb-05 06:50 | 133.595 |
2119-Jun-28 23:32 | 163.854 |
2130-Jan-16 01:45 | 29.433 |
2130-Jul-07 09:27 | 180.004 |
2144-Jan-31 16:41 | 95.838 |
2144-Jun-29 20:23 | 160.394 |
2155-Jan-10 19:24 | 77.021 |
2158-Jun-27 15:08 | 189.033 |
2169-Jan-25 01:01 | 47.405 |
2169-Jul-02 14:38 | 163.301 |
2180-Jan-06 00:56 | 120.297 |
2183-Feb-12 06:07 | 180.853 |
2183-Jun-28 04:03 | 172.984 |
2194-Jan-20 23:50 | 11.014 |
2194-Jul-05 00:04 | 170.108 |
ファクトチェックしていただきたいのは「小惑星7482(1994 PC1)の今回の接近は今後200年の地球接近小惑星として一番近いかどうか」の部分。表の2022年1月19日より下を見ると5.15LDよりも小さな接近が数件見つかりますね。作表の際にCNEOSデータベースから推定直径1.0km以上という閾値を設けているため、1km以下の小さな小惑星を含めれば地球接近件数は膨大になるでしょう。CNNが1km程度以上の小惑星を暗黙前提で書いた記事だとしても、今後200年は5.15LD以下まで接近する小惑星が無いというのは言い過ぎです。
それでは『NASAの予測によると』が間違っていたのでしょうか?CNEOSはNASAの1部門ですからそれはあり得ないでしょう。そうなると記者が聞き間違って誤解したか、またはCNN本社記事が日本語になった段階での誤訳…という可能性が出てきます。
元となったであろうCNNの英語版はここにあります。該当部分を引用すると『Nobody expects 7482 (1994 PC1) to hit Earth, but it's the closest the asteroid will come for the next two centuries, according to NASA projections. 』。ここ、微妙にニュアンスが変わってますね。元記事記者が聞いたNASAの予測とは、「今後200年(に小惑星7482が度々地球最接近するタイミングの中)で、今回が一番近い」ということではないでしょうか。他の全ての小惑星ひっくるめて一番近い、ということではありません。確認のため引用すると、小惑星7482の今後の地球接近は現時点で右表のようにCNEOSから公開されています。(※CNEOSの公表距離はAU単位なので、当記事では直感的に分かりやすいLDに変換してあります。)この中では確かに今回が一番近くなります。ただし、ごく僅かながらこうしたデータは今後の精密観測によって少しずつ修正されてゆきますからご注意。
きっと誰も悪くないんでしょうけれど、こうして些細なところから誤解が生まれます。後日に記事が修正されるかも知れませんが、一度読んだ記事が修正後に再び読者の目に留まる可能性は非常に少ないと思われます。「あ、これ前に読んだから読まなくていいや」と無意識にオミットされますからね。関心が低い記事、不要不急の記事であればなおさらです。
記事の正当性、信ぴょう性は一次情報→二次情報→三次…と流れるほど低くなりますから、悪意の有無やメディアの有名無名に関わらず、必ず一次情報までたどってみよう、というお話でした。加えて、他人の間違いは気付きやすいけれど、自分の「うっかり」は気が付かないのも世の常。特に(厚意であっても)情報を右から左へそのまま流しがちな方は、それだけで被害者から加害者になり得るので要注意ですよ。