2021年のうるう秒挿入はなくなりました2021/01/08

2017年1月-2020年12月頭のLOD累積
2020年1月7日記事同年7月8日記事で「1日の長さが86400秒からマイナス傾向にあるなら、初の“うるう秒削除”が行われるかも」という旨のことを書きましたが、少し現実味を帯びてきました。

国際地球回転・基準系事業(INTERNATIONAL EARTH ROTATION AND REFERENCE SYSTEMS SERVICE /IERS)の2021年1月7日UT付けBULLETIN-C16で「2021年7月1日(6月末UT)のうるう秒挿入はない」との正式発表がありました。従って、少なくとも年末までUTC-TAI = -37秒が維持されることが確定です。

左図は2017年のうるう秒挿入直後を原点として、1日ごとの差分実測値を足してゆき(水色線)、正確な時を刻む原子時計に対して自然に基づく時計がどれだけずれているか(緑線)表したグラフ。1ヶ月あまり前の2020年12月1日0:00UT時点で、地球自転に基づく時刻(UT1)と原子時計に基づく時刻(UTC)の差はマイナス179.0021ミリ秒でした。

UT1-UTC(長期)
今期を除くと、これまでうるう秒挿入が行われなかった最も長い期間は1999年1月挿入以降の7年、次いで2009年1月挿入以降の3年半でした。今期、すなわち2017年1月挿入以降の(少なくとも)5年間は閏調整を行わないことが確定となったので、1972年の運用以降二番目に長い「うるう秒無し」となったわけですね。

右図は左上図の緑線を長期に渡って描いたもの。ところどころ垂直に跳ね上がっているところが「うるう秒挿入」です。閏調整は「UT1-UTCがプラスマイナス0.9秒を越えない」ように実施されます。これまで行われた27回は全て「右下がりを持ち上げる=うるう秒を挿入する」という修正でした。

ところで、一日の長さLOD(Length of Day:1日の実測長)と、24時間=86400秒との差は秋冬に増加・春夏に減少という年変動はあるけれど、長い目で見るなら、今までは概ねプラス側にありました。つまり「地球の1回転は24時間より若干長かった」ことになります(左下図)。ところが2020年の夏以降はマイナス側へどっぷり浸かってしまいました。ただし急にこうなったわけではなく、2018年夏期、2019年夏期と徐々に増えてきたのです。いままでも同様のことは起こっており、2000年代最初の10年間は「地球が1回転あたり24時間より速い時期」が結構ありました。

LOD差分の変化(長期)
速いといっても今現在は1日当たり0.5ミリ秒(0.0005秒)程度ですから短期的には大したことありません。ですが、左図を見ると今後数年に渡ってマイナスが続くことが予想されます。しかもマイナス側の振れ幅が今までなかったほど大きくなる(年間で一度もプラス側に戻らない)可能性も十分ありそうです。仮に24時間より0.5ミリ秒だけ速い自転が続けば、積もり積もって5年半先に「1秒のずれ」となってしまうでしょう。その前にやらなければいけないのは「うるう秒挿入」ではなく、冒頭に書いた「うるう秒削除」なのです。右上グラフ緑線で言えば「右上がりになったので引き下げる」ということですね。

「微小なズレなんだから放っておけばいいじゃん」という考えもあります。でもこのズレを放っておいたら、時刻に紐付けられたあらゆるシステム…全てのコンピューター処理等に大混乱が生じます。原因は異なりますが、かつて西暦2000年問題(Y2K)と言われた時間系絡みの社会問題がありました。時刻管理制度と高度システム化社会とが織りなす問題は、形を変えつつも現代社会に常時付きまとうことなのです。多分、銀行のシステム管理者などはうるう秒調整の度に胃を痛めているでしょう。

LOD増減加速度
なお、海外を含む一部メディアで「地球自転が急加速している」かのような過剰表現で煽っているのが気になりました。今回の変化は「急」でもないし「今まで無かったような加速」もしていません。UT1-UTCが1年半以上あまり変わらず、むしろ安定期とさえ言えましょう。

試しにLODが1日でどれくらい変化したか、という加速度相当量(左上図・赤線の微分に相当)もグラフにして右に掲載しました。これを見る限り、近年急加速しているような状況は見受けられません。年変動の範囲内で安定してます。元データをしっかり確認せず、ミスリードを招く言い回しや、それをノーチェックでリツイートするのは謹んでほしいなぁと思います。

(※IERSで発行しているBULLETINの月間観測値と、別途まとめられているEARTH ORIENTATION PARAMETERSの長期データの値とで、LODやその誤差範囲などにマイクロ秒オーダーのわずかな差があります。グラフを見ても全くわからない程度ですが、当記事のグラフはEOP長期データに基づいて描いています。)

参考:
日出没・暦関連の記事(ブログ内)

夜明けの国際宇宙ステーション2021/01/08

20210108国際宇宙ステーション
今日の明け方、国際宇宙ステーションが北極星近くを通るパスがありました。望遠鏡での拡大観察を予定していたのですが、昨夕から今日未明にかけて台風並みの猛烈な風だったため断念。よく晴れていただけに残念でした。

代わりに…と言ってはなんですが、パスごろに凪がやってきたので、急きょ思い立って標準レンズ相当の画角でパスの最初のほうを撮影してみました(左画像)。準備が間に合わなくて出始めが撮れませんでしたが、なんとかこぐま座と一緒に収めることができました。

衛星フレアの色変化が分かるよう、色調をかなり強調してあります。もちろんレンズの収差や大気の影響など様々な要因が混ざっていますが、明るさだけでなく色も変化していることが分かるでしょう。特に地球の影から出る(影に入る)数秒間はかなり赤っぽくなります。衛星が朝焼け(夕焼け)を浴びるからです。

参考:
夕日に染まる国際宇宙ステーション(2016/11/29)

今日の太陽2021/01/08

20210108太陽
昨夕から夜半前まで若干雲があったものの、夜半から今朝方にかけてよく晴れました。ただし強風が凄まじくて何もできませんでした。明け方の気温はマイナス3度、さほど冷え込まなかったけれど、体感気温がかなり冷たい…。朝からはほぼ快晴。寒波に苦しんでいる地方の方々には申し訳ない思いです。

20210108太陽リム
左は10:30頃の太陽。活動領域はありません。昨日見えていた右下リムのプロミネンスは光球の向こう側へ沈みかけていました。南半球のダークフィラメント(太いのが3本)は健在。このままリムまで持ちこたえてほしい!