衝時期の火星と陰影シミュレート2020/11/10

20201109火星
火星が地球最接近してから一ヶ月あまり過ぎました。見かけは18.5″角と小振りになったけれど、まだまだ見頃です。

左は昨夜20:20頃撮影したもの。風が吹いていたものの、ときどき大気のゆらぎが落ち着く時間には極冠がピリリと小さく輝き、地形模様がよく見えました。左上にはオリンポス山が分かります。たかだか20cm程度の望遠鏡でも陰影が付いて「虫刺され」のように弱く膨らんでいる様子が分かるのには驚きました。火星地形がどんな陰影を見せるのかは以前から気になっていましたが、なかなか調査時間が取れず先送りにしていました。

そんなおり(一ヶ月ほど前ですが)、古くからの知人である中川昇さんのブログで紹介されていた近内令一さんのコメント(→2020/10/13記事リンク)に目が止まりました。火星のオリンポス山やタルシス三山など、いわゆる平たい火山(楯状火山)でも「地球接近や衝の位置関係にありながら、陰影が地球から観察可能」であることが書いてありました。月に例えると、満月状態にありながら縁近くで起伏の陰影ができる(自分自身が陰を隠さない)、ということです。近い例では満月前のリュンカー山のような感じでしょうか。でも満月時での例は聞いたことがないので興味津々。この話のミソは「正面から照らされたものを正面から見ているのに、なぜ立体的照明効果(陰影)が見えるのか」という点なのです。

20201014-0900JST火星陰影シミュレート
中川さん&近内さんの記事を興味深く拝見したあと改めて国内外で衝前後に撮影された多数の火星画像を探すと、たしかに山の陰(影ではなく陰)が写ってると言えそうなものがいくつも見つかりました。これはシミュレートせねばなるまい…2日前にようやく時間を作り、プログラムを作って以下のシミュレート画像が完成した次第です。

ここでやってみたかったのは、火星の標高モデルを使い「できるだけ実際の衝に近い状況で、地球からどんな陰影が見えるのか」ということ。USGSから公開されているMOLAの火星標高データを使っています。右は2020年10月14日9:00JST(ほぼ黄経衝時刻)のシミュレート画像。薄くアルベドや色彩を被せています。右上にオリンポス山やタルシス三山がありますね。ただしアルベドをかけてしまうと、地形が暗い理由が陰のせいなのか土壌の反射率のせいなのか分からないため、アルベドと色調を排除して純粋に陰影のみのシミュレートを下に掲載しました。

こうしてみると、大きな火山だけでなく小さな山や、あるいはマリネリス峡谷のような深い谷部でも影や陰が出ることが分かります。対して、各クレーターはあまり高低差がなく、月面のようにボコボコしていません。まぁ、衝だから仕方ないですね。火星がもし月面くらい大きく見える天体だったら、さぞ面白かったでしょう。

  • 20201013-211544JST火星陰影シミュレート(中央経度0度)

    A.中央経度0°
  • 20201013-231843JST火星陰影シミュレート(中央経度30度)

    B.中央経度30°
  • 20201014-012143JST火星陰影シミュレート(中央経度60度)

    C.中央経度60°
  • 20201014-032444JST火星陰影シミュレート(中央経度90度)

    D.中央経度90°


  • 20201014-052744JST火星陰影シミュレート(中央経度120度)

    E.中央経度120°
  • 20201014-073044JST火星陰影シミュレート(中央経度150度)

    F.中央経度150°
  • 20201014-093345JST火星陰影シミュレート(中央経度180度)

    G.中央経度180°
  • 20201014-113645JST火星陰影シミュレート(中央経度210度)

    H.中央経度210°


  • 20201014-133945JST火星陰影シミュレート(中央経度240度)

    I.中央経度240°
  • 20201014-154246JST火星陰影シミュレート(中央経度270度)

    J.中央経度270°
  • 20201014-174546JST火星陰影シミュレート(中央経度300度)

    K.中央経度300°
  • 20201014-194846JST火星陰影シミュレート(中央経度330度)

    L.中央経度330°


  • 2020年の火星の黄経衝(10月14日8:26JST)プラスマイナス0.5日の期間で、中央経度が30°の倍数となるタイミングの陰影を自作プログラムでシミュレートしています。
  • シミュレートに際し、火星面に大気や氷、砂嵐などの気象は想定せず、地形特性上の色彩や反射率も想定しません。単純にランベルトの余弦則に基づく明るさになると仮定しています。(実際はもっと複雑と思われます。)
  • つまり太陽光によってどんな影/陰が見えるかというシミュレートです。
  • 観察者視点は地表ではなく地心です。
  • 中央経度などの計算は国立天文台の暦計算室を利用しました。


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