火星の最接近まで残り三ヶ月!2020/07/06

火星接近の位置
今日から三ヶ月後、火星が地球に最接近します。今年の接近はいわゆる「大接近」ではなく「中接近」であるものの、観察条件は2年前の大接近時に劣るどころか、確実に上回るのではないかと思える好条件。つつがなく準備を始めましょう。

どうして中接近なのに大接近に勝るかと言うと、見かけの大きさの差がわずか1.8秒角(小口径では見分けがつかない)程度でありながら、南中高度が抜群に高くなるから。これは「火星は天球のどこで地球と接近するのか」という図を描いてみると分かります(上図/ステラナビゲータ+自作プログラム)。火星は常に黄道近くを移動し、そのどこかで約2年2ヶ月毎に地球接近を果たしますが、毎回位置が違うのです。

上図には1950年から2050年までの全接近位置をプロット、更に今年を挟む6回分の接近日も記しておきました。2016年や2018年の接近は赤緯が冬至点と同等に低いですね。赤緯が低いことは北半球での観察で「高度が低い」ことに直結します。いっぽう次回2022年や2025年の接近は赤緯が夏至点に近いほど高いでしょう?つまり夏至の太陽並みに火星が高くなるってこと。大きくても低い惑星は大気の影響で台無しですが、高度があれば多少小さくても飛躍的に良像となるでしょう。今年の接近は前回よりはるかに見やすいと考えられます。

2020年の火星接近
ところで、今年の接近を調べていて妙なことに気づきました。右図をご覧ください。ちょっと詰め込みすぎですが、3つの要素をグラフにしました。(※値はグラフと同じ色の目盛りで読み取ってください。)なんと、接近のピークと光度のピークが一週間ほどずれているではありませんか!どうしたことでしょう?これは自作プログラムによる計算ですが、国立天文台サイトやNASA-Horizonsで描いても全く同じ結論でした。

一般に天体は「近ければ大きく見えるから明るい」わけですが、右図のズレはこの考え方が通用しないわけです。こうしたズレは「位相角」…つまり「欠け具合」が強く影響しているものと考えられます。

同一面積
唐突ですが、みなさんはひとつの円が与えられた時、同じ面積を持つ正方形や正三角形を描けますか?左図が解答例ですが、パッと見「同じ面積に見えない!」と感じる方は私だけではないはず…。目って騙されやすいんですよね。

簡易的に惑星の光度を計算するときは「どれくらいの面積が光っているか」を求めます。面積…つまり「地球から見える形」が光度を決める上で支配的だからです。例として金星を考えましょう。金星は肉眼で点に見えても、望遠鏡でははっきりした満ち欠けがあるので、光っている面積が明らかに変化しますね。

2020年金星最大光度前後の位相
右図は今月に最大光度を迎える金星(真ん中)と、プラスマイナス10日ずつずらした満ち欠け変化をシミュレートしたもの。どうですか、どれが一番大きく見えますか?このサンプルは分かりやすいよう10日毎ですが、例えば2日おきでも判別できる自身はありますか?形だけでなく地球との距離に応じて視直径も変わるため、判断に迷うでしょう?

2020年金星の諸元
金星は火星よりも地心距離や位相角の変化が大きいため、光度の変化が単純ではありません。前述した火星のグラフをアレンジし、金星の状態を描くと左図のようになります。天文カレンダーなどで最大光度や最大離角などの日時を知ってはいても、こうしたグラフを目にすると驚かれるのではないでしょうか。

話を火星に戻しましょう。今回の火星接近時、最も接近して大きく見えるのは10月6日夜(7日になる直前)。実はこのとき火星はわずかに欠けています。一週間ほど経って衝を迎える頃、ほんの少し小さくなりますが(最接近時の99.3%)、欠けた部分が最小になって、結果的に最接近時より広範囲が光ってしまうのです。これが前述した光度ピークのズレなのですね。念のため書いておくと、「光度ピーク=衝」ではありません。近いことは近いですが、今回は1日近く光度ピークが先行しています。誤解の無いようお願いします。

2020年火星接近の位相
火星における最接近時と最大光度時の形の違いもシミュレートしたので右図に示しました。AとB、どちらが大きいか分かりますか?実はAが最接近時、Bが最大光度時です。どちらも同じじゃないのか…?

ここに示したのは私たちが目にする簡易的な惑星光度の計算法。あくまで「光っている形」のみを重点的にとらえ、単純化したものです。ですが、惑星がこんな「画用紙を切り取ったような」光り方をしていないことはどなたでもご存知でしょう。シンプルに考えただけでも太陽に面した部分と欠け際とで明度が随分違います(下図参照)。CとDは上のAとBを3Dで陰影処理したものですが、こちらのほうが欠け際の違いが若干わかりやすいです。金星は更に差がついてますよね。こうした差が「サチらない適正露出限界と位相の関係」等に結びつくわけです。月面でも概ね同様でしょう。

面積だけではなく、立体的に光束反射を考慮したり、自転する表面の模様や大気反射率の変化まで考えた計算モデルも少なからず考えられています。衝効果とか火星の砂嵐のような局所的に明るさが変化する現象もあるでしょう。ありきたりの観察ではせいぜい小数一桁の精度で十分事足りるお話なのですが、どんな分野でも「より詳しく」「より真実に近い」世界を求めずにはいられないのは人間の性でしょうか。

  • 2020年火星接近の位相
  • 2020年金星最大光度前後の位相


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